ワケあり3人目②
「いらっしゃいませ……おや、新進気鋭のリベルヤ男爵様ではありませんか。このような庶民向けの奴隷店にご用で?」
カナエの選んだ奴隷店に入ってみれば、中肉中背のこれといって特徴がない男性店主が、恭しく出迎えてくれた。
どうやら俺の事を知っているようで、雰囲気的には好意的に見える。
「たまたま目に付いたので、寄らせて頂きました。どんな奴隷がいるか、見せて頂いても?」
見つけたのはカナエだけどな。
「ええ、お気に召す人材がいるかはわかりませんが、ぜひともご覧下さい」
店主に案内され、商談を行う個室へと通される。
勧められるままにソファに座り、俺たちの対面に座った店主が小さな鈴を鳴らすと、使用人か従業員と思われる女性が部屋にやってきた。
「お呼びでしょうか?」
「お客様に最上質のおもてなしを」
「かしこまりました」
店主の指示を受けて、女性は一度部屋から出て行く。
お茶やら何やらを準備してくるのだろう。
「さて、それでは商談に入りましょうか。本日はどういった人材をお探しで?」
俺はまだ子供だというのに、店主は丁寧な対応をしてくれている。
カナエはまあ、身長もそれなりにあるし、身体付きとかからも大人に見えなくもないが。
とはいえ、俺がなったばかりでも貴族と知っているようだし、情報収集はしっかりするタイプなのだろう。
商人として、あらゆる機会を逃さないために、情報収集は怠らない、というのが鉄則という話をどっかで見たか聞いたような気がするが、とりあえず変な警戒は必要なさそうな相手だな。
「色々と入用ではありますが、多くは戦闘に向いた人材を探しています。私の仕事に同行したり屋敷の警備を任せたいので。もちろん、教育が少なくて済むような人材であればいいですが、才能のある人材でもいいです。教育はこちらで施せますので」
一応、シャルロットの方でも使用人候補を中心に人材を探してもらっているが、こっちでも確保しておいて問題無いだろう。
というか、将来的な事を考えると、屋敷の人間は多かれ少なかれ戦闘ができるタイプの方がいい気がする。
俺のここまでのトラブル体質ぶりを考えると、屋敷に暗殺者が来るとか、そもそも身内が狙われるとかは普通にあり得そうだし。
むしろ礼儀だとかそういうのは後からどうとでもなるしな。
「なるほど……戦闘向けとなると当店は専門ではありませんので、あまり数がいませんがよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。あとは自分の目で見て決めたいと思いますので。それと、オススメの人材がいたらそちらも紹介して頂ければと思います」
「かしこまりました。それでは、条件に合う人材を連れてきますので、少々お待ちくださいませ」
条件の確認をしてから、店主は一度部屋を後にした。
待っている間に、俺は室内を見回してみる。
庶民向け、というだけあって調度品などは殆ど無く、シンプルな部屋だ。
しかし掃除は行き届いているようで、清潔感があるし、しっかりと整えられているのが好印象。
しっかりと経営をしているのだろう、というのが見てわかるな。
「……お腹空いた」
「ここが終わったらメシにするから、少し我慢してくれ。もしお茶請けが出たら俺の分食っていいから」
まだ大きな音を発するほどではないものの、カナエが空腹を訴える。
相変わらず、燃費が悪いな。
屋敷で朝メシを5人前くらいぺろりと食べて、使用人の皆さんに引かれてたってのに。
まだ10時くらいなんだぞ。
…
……
………
「お待たせしました。それでは順番に1人ずつ自己紹介させますが、よろしいでしょうか?」
「お願いします」
10分ほど経ってから、戻ってきた店主が1人ずつ面談をする、と言うのでお願いする。
ちなみに、待っている間にお茶とお茶請けが運ばれてきたので、俺の分のお茶請けはカナエに全部食わせた。
お菓子ではあったが、とりあえずはカナエが大人しくなったので、商談中にお腹の音を鳴らさない事を期待しようか。
「ではまずは1人目から。それでは、お客様に自己紹介を」
店主の案内に従い、一人の男性が部屋に入ってくると、お辞儀をしてから自己紹介を始めた。
まだ一人目だが、結構しっかりとした教育が施されている感じがするな。
服装こそ奴隷の貫頭衣だが、髪も髭も整えられていて、服自体もちゃんと清潔感あるし。
「トーマスと申します。今日はよろしくお願いします」
自己紹介を聞きながら、俺は目の前の男性を鑑定。
―――――――――
トーマス
19歳
種族:人間
身長:174センチ
体重:64キロ
状態:健康
生命力:35
精神力:15
持久力:15
体力:20
筋力:20
技術:20
信念:10
魔力:5
神秘:6
運:10
特殊技能
・武器熟練:直剣
・気配察知
―――――――――
トーマスさんは平均的な剣士タイプのステータスだな。
武器も直剣に適性があるし、鍛えれば伸びそうだ。
気配察知のスキルがあるのも警備兵向けな気がするし、採用しても良さそうな感じ。
あとは性格とかを確認するか。
「トーマスさんはなぜ奴隷に? 話したくなければ無理には聞きませんが」
俺の問い掛けに、トーマスさんは不安げに視線を揺らした後、店主に助けを求めるような視線を送った。
そんなトーマスさんに対し、店主は笑顔で頷くのみ。
多分、自分の好きにしなさい、といった所だろうか。
「……お恥ずかしい話ですが、冒険者として大物になる事を目指して、田舎から王都に来る途中で困窮してしまい、身売りせざるを得なくなってしまいまして。たまたま、私を買いとってくれた奴隷商が、移動しながら各奴隷商館に奴隷を卸している方で、ここに卸されたのです」
なるほど、生活に困っての身売りか。
とりあえず人格面に関しては及第点以上、といった所だろう。
「現時点でトーマスさんには、私の屋敷の警備兵となってもらうつもりで話をしていますが、それでいいですか? もし、冒険者としての雇用を望むのであれば、今回は機会が無かったという事になりますが。もっとも、奴隷としての借金を返済した後であれば、私の元を去って冒険者になって頂く事も可能ではあります」
この辺りは、本人の意志を尊重したい所だな。
やりたくもない仕事をやらせても、効率とか意欲とか乗らないだろうし。
「いえ、警備兵としてで大丈夫です。どうも、冒険者時代から魔物と戦うよりも対人戦の方が得意でして。故郷周辺ではもっぱら盗賊討伐や治安維持の依頼ばかりしていましたし。これでもC級までは上がれたのですが、やはり高ランクを目指すなら、王都の方に行って経験を積むべきと思ったのです。結果はまあ、ご覧の通りなのですが」
なるほど、対人戦が得意なのか。
なら、なおさら警備兵向きだな。
基本的には人当りも良さそうだし、礼儀とかもしっかりしている。
トーマスさんは採用だな。
「ありがとうございます。結果は店主さんと話を纏めてからになりますので、よろしくお願いします」
「はい、良いお返事を頂ければ嬉しいです」
最後に一つお辞儀をして、トーマスさんは部屋から出て行った。
さて、採用できそうな人材はあと何人いるかな。
こうして1人ずつの面談形式を取るって事は、そこまで人数は多くないんだろうけど。
とりあえず、俺は相手を見極める事に集中しようか。
カナエもまあ、何か感じる事があれば口を出すように言ってあるし、黙っている辺りは特に問題無いのだろう。
どことなく、ただ昼メシは何か考えてるだけのような気もするけど。
ともあれ、いい人材を逃さないように、気合いを入れて面談をしないとな。




