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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり2人目㉒

 ここはどこだろう。

 身体が水の中にいるみたいに、フワフワした感覚。

 周囲は真っ暗で、ただただ暗闇の中に自分が漂っている感じ。

 あれ、そもそも俺、どうしてこうなった?

 記憶を掘り返していけば、自分が倒れたタイミングを思い出す。

 グリド商会に雇われた全武器使い(ウェポンマスター)と戦って、その両腕を奪って無力化こそしたものの、そこで限界を迎えて倒れたんだったな。

 カナエはしっかり回復させたし、その点に関しては心配していない。

 ただまあ、こうして意識があるのに、現実にいない時点で俺は死んだのだろうな、と何となく理解していしまう。


「まあ、とんでもない無茶だったからなあ。しゃーないか」


 カナエに無理をさせて、滅茶苦茶を形にする術式を組んで、ありったけの魔力を注ぎ込んで。

 多分、それだけで足りなくて、きっと自分の生命力も使ったんだろう。

 それだけ無法な一撃を構築したという自信はあるし、これから同じ事をしろと言われて、それを再現するのは恐らく無理だ。

 切羽詰っていて、極限まで集中していたし、色々な状況に起因する偶然というか、奇跡の類と言える。

 まあ、その奇跡を起こすのが俺の仕事だったわけで。

 仕事はしっかりできた、って事で納得しておくのが精神衛生上いいだろうな。


「……死んじまったか。今生は寿命まで生きたかったけどなあ」


 意外なほどに、死というのはあっさりしたもので。

 後に残してしまう事になった、シャルロットやカナエには申し訳ないが、こうして死んでしまったのはもう、どうしようもない。

 せめて、残る彼女たちが強く生きてくれる事を願おうと思う。


「けど、意識だけあるなんて、一体どういう事なんだ?」


 前世に死んだ時は、その後の意識など無かった。

 この世界が魔術だとか何だとか、そういう不思議パワーやら現象やらがあるせいだと言われれば、それで納得するしかないのだが、科学的には説明付かないよな、とは思う。


『おーい、お前まだ生きてるぞ』


 ふと、どこからともなく、男の声が聞こえてきた。

 声の感じからして、まだ若い。

 俺より少し年上だろうか。

 どことなく、俺に似たような感覚を覚えるような、そんな気がする。


「誰だ? 俺の声が聞こえるのか?」


 問いかけてみても、返事は無い。

 どうやら、一方通行の会話らしいな。


『全く、俺の子孫なら、最後まで生きる事を諦めんじゃねえ。無茶やって、全部絞り出して、それでも死なないのが、最ッ高に格好いいんじゃねえか!』


 声の主は、どうにもカッコ付けのようだ。

 まあ、それができたら苦労しないのだが。

 というかちょっと待て。

 しれっと聞き流しちゃってたけど、俺、生きてるって?


『全く、意識の無い相手に無茶言っちゃダメだよ。そもそも、今生きてる人にこうして干渉するの、ホントはダメなんだからね?』


『いいじゃねえかよ、少しくらい。生きるか死ぬかの瀬戸際な自分の子孫を応援するくらい、バチ当たんねって!』


『そういう問題じゃなくて、そもそも私たちがこうして表の世界に触れたら、色々影響が……』


『そう言って、何だかんだ術式維持してくれてる辺り、お前だって気になってるんだろ? 素直になれって』


『それはそうだけど……』


『なに、心配しなくても尻拭いは自分でするさ。変な影響出たら、いくらでも対処する。それでいいだろ?』


『……わかったよ。相変わらず、言い出したら聞かないんだから……』


 急に女性の声が聞こえてきて、いきなり夫婦漫才みたいのが始まった。

 こっちの声が届かないのをいい事に、イチャコラしやがって。

 1発ぶん殴ってやりてえわ。


『嫁の打った剣を持ってるって事は、そのうち会う事もあるかもな! その時になったらよろしくな、俺の子孫! そろそろ時間っぽいし、ちゃんと後悔しないように生きろよ!』


 謎の声は、言いたい事を言って、やりたい事をやって、その気配を消した。

 ああもう、ワケがわからん。

 1つだけわかるのは、俺の状況がどうあれ、相当に高度な魔術でもって、俺の意識に声を届けているという事だけだ。

 1人の魔術師として、興味も沸くが、道具も何も無いんじゃ解析のしようも無い。

 自称、俺のご先祖様らしいが……あんな行き当たりばったりな感じが俺のご先祖だとしたら、俺は相当に賢く生まれた部類なんじゃないかと思えてくる。

 というか、俺の持ってる剣が嫁の打った剣とか言ってたな。

 多分、ルナスヴェートの事を指すんだろうけど……確か、エルフ鍛冶が打ったとか解析されてたはず。

 あと、対になる剣があるとも。

 ああもう、情報が一気に出すぎてワケがわからねえ。


「何だ……? 急に身体の浮遊感が……」


 身体が、どこかに向かって引っ張られる感覚。

 急速に水の中を引き上げられるような、そんな感覚を覚えつつ、俺はその流れに身を任せるしかない。

 どのみち動けもしないのだから。


「……んあ……本当に、生きてたんだな」


 視界に移る、見覚えの無い天井に、香る消毒液の匂い。

 ああ、意識が現実に戻ったんだな、と納得する。


「ハイト!」


 聞き覚えのある声と共に、衝撃と、極上の柔らかさと、ミシミシと身体の骨が軋む感覚と、全身が千切れるんじゃないかという痛みが、1度に襲い掛かってくる。

 もう何がなんだかわからないが、とにかく痛い。

 痛いし身体の骨粉々にされて死にそう。

 せっかく生きてたんだから、さすがにこんな所で死にたくないって。


「落ち着くんじゃ、お嬢ちゃん。少年の身体が砕けてしまうぞい」


 下手すれば、このまま死ぬ、と思っていた所に、救いの声。

 俺に襲い掛かっていた、色々な感覚が消え、全身の痛みだけが身体に残るものの、とりあえず生き延びる事には成功したっぽい。

 ありがとう、救いの声。


「いでで……本気で死ぬかと、思った……」


 喋る度に、身体に刺すような痛みが走る。

 前にも、似たような状況になったから、何となくわかるな。

 これ、無茶してヤベエ魔戦技(マジックアーツ)使ったせいだ。

 前に、フィティルの面々と一緒にいた時よりも、格段に無茶をしたせいか、自分で身体を満足に動かせる気がしない。

 これはしばらくここで寝たきりだな。


「無事一命を取り留めたようで何よりじゃ、少年」


 どうにか首の向きを動かし、声のした方に視線を向けてみれば、無表情のままオロオロしているカナエと、なぜいるのかわからない老練の戦鬼(オールドウォーデン)と、奇異の魔術師(トリックスター)の3人が見えた。

 カナエを除く2人は、心底ホッとした顔をしている辺り、マジで俺は生死の境を彷徨っていたっぽい。

 カナエはまあ、俺を抱き締め殺しかけたのでオロオロしているのだろう、多分。


「今は喋るのも辛いでしょうから、身体を回復させる事に専念して下さい。喋れるようになったら、色々と説明してもらいますがね」


 奇異の魔術師が、やれやれ、といった風に肩を竦める。

 その顔には、かなりの疲れが見える辺り、きっと俺の治療をしたりしてくれたのだろう。


「えっと、正確に、状況は理解していません、が……ありがとうございました」


 身体の痛みに耐えつつ、途切れ途切れになりながらも、どうにかお礼を口に出すと、S級冒険者2人は、苦笑いを零す。

 ああ、無茶すんなって事か。

 けどさ、助けてもらったっぽいのに、お礼を言わずにいるなんて、失礼だろ。


「少年よ、今は療養する時じゃ。儂らも今回の件を調査せねばならぬゆえ、しばしこの地に留まる。おぬしから事情も聞かねばならぬし、話をするのはその時で良いであろう。黙って身体を休めるのじゃ」


 幾度となく槍を振り続けてきたであろう、硬くてごつごつした手に頭を撫でられ、ポン、とベッドに押し込められる。

 どこか慈愛に満ちた表情で、老練の戦鬼は颯爽と去っていく。

 その背中を追うように、奇異の魔術師も後に続いた。

 まあ、とりあえずは、無事に生存できたって事で、良かった、か。


「ハイト……」


「なに、何日か寝てりゃ、治るさ。心配すんな」


 無表情ながらも、カナエが何だか泣きそうになっているような気がして、彼女に手を伸ばそうとするも、激痛で腕が1ミリも動きそうにない。

 それでも、きっと歪んでいるだろうけど、精一杯の笑顔を浮かべて、俺は再び意識を手放した。

 今回は一体何日寝込むやら。

 そして、この事情を説明したら、シャルロットが涙目通り越して、泣きながら心配するんだろうなあ、と想像しながら、意識が落ちる。

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