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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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幕間 老練の戦鬼と呼ばれる男 後編

ちょっと最近は仕事とプライベートで予定がごたついていたので、更新が滞っておりました。

あと1週間くらいでペースを戻せると思いますので、しばしお待ちくださいませ。

「しかし、不死の心臓とは、面倒な素材を要求されたものじゃな」


 馬上で揺られながら、今回取りに行く事になった素材について考える。

 不死の心臓。

 その名の通り、肉片の一つからでも時間さえあれば完全に再生してしまう、不死の魔竜(ドラヴェイグ)の心臓を指すのじゃが、この魔物を殺し切るには、肉片すら残さず滅ぼす必要がある。

 その馬鹿げた生命力を生み出す元である、不死の心臓は様々な薬の素材として極上の効力があるのじゃが……当然、放っておけば不死の魔竜として復活してしまうゆえ、討伐して心臓を取り出した後の加工猶予が5日しかない。

 よって、ストックはできず、必要になればその都度取りに行かねばならぬ。

 魔物自身の強さと、その素材の危険性から、S級冒険者以外はまず見る事すら叶わぬ魔物じゃが、裏を返せばS級冒険者としての依頼の3割程度はこの不死の心臓の調達ゆえに、もはや手慣れたものじゃが。


「……本体の不死の魔竜そのものは、別に悪さをするわけでもないのがのう」


 毎回、不死の心臓を調達しに行く度に思うのが、不死の魔竜自体は別段人に害を成す事も無く、ただただ山や森の奥深くで大人しく引き籠っておるだけ。

 無論、棲家に迷い込んだ動物や人間を捕食する事はあるが、基本的に自分から積極的に狩りに行くでもなく、何なら個体によってはかなり高い知能を持つ。

 それこそ、人の言葉を解し、話せる程度には。


「よし、ここで待っておるのじゃぞ」


 乗ってきた馬を木に繋ぎ、目的地へと歩く。

 港町シトランからおよそ1日、馬を走らせた距離にある、混沌の渓谷。

 通常ではありえない生態系を持つこの場所に、目的の不死の魔竜がおる。

 道中で襲い来る魔物を槍で屠りつつ、渓谷の奥に進んでいけば、一つの洞窟が見えてくるのじゃが、目的の魔物はこの中に……。


『なんじゃ、久しぶりに現れたの。もう10年振りかえ?』


 洞窟の前に立った瞬間に、頭の中で変わった言葉遣いの女性の声が聞こえてくる。

 いわゆる、念話というヤツじゃな。


「そのくらいになるやもしれぬな。お主の元に来るのは、儂が本当に救いたい者を助ける時のみと決めておるからのう」


 洞窟内に声が届くようにしながら中に入っていけば、漆黒の竜が身体を丸めた状態のまま、こちらに頭を向けておる。

 この不死の魔竜は、儂がS級冒険者に上がって以来、幾度となく殺し合った。

 そのうちに争う事をやめ、語らう友のような存在になっていったのは、今考えても不思議なものじゃ。


『たまには何も無くとも顔を見せれば良かろ。妾とてぬしのような話のわかるような相手はそうおらんからの。お互い、語らう事もあるであろ』


 竜という種族の中ではこやつの身体はかなり小さい部類じゃが、実力のほどは計り知れぬ。

 幾度となく殺し合った中でも、危うい勝ちも多かったものよ。

 いつしか、争うのに疲れたと言い、殺さぬのなら黙って心臓を捧げよう、と言い出したのは、はて何年前であったか。

 いかんのう、歳を取ると記憶が曖昧になっていくばかりじゃ。


「……そうさな。たまにはそれもいいかもしれぬ」


 久方ぶりに訪れた友を歓迎するように、楽しげな声で語りかけてくる不死の魔竜の頭の横に、儂はそのまま腰を降ろした。

 人間くらいなら一飲みにできそうな大きさではあるが、やはり竜種としてはかなり小さい。

 平均的な人間の、4人分くらいの大きさであろうか。

 小型の飛竜であるワイバーンよりも大きいが、それでも少し大きいワイバーン、といったところだ。

 ちょうど、人が背に乗るには大きいかもしれない、といった程度じゃろう。


『久方ぶりじゃからの。大いに旧交を温めたい所よ……と言いたいが、お主、急いでおるな?』


「わかってしまうか?」


『20年以上殺し合った中じゃからの。おおかたここに来た理由も状況も、ぬしを見ればわかるのは当たり前であろ』


 あまり舐めるな、と言いたそうな不死の魔竜に、思わず苦笑いが零れてしまう。

 そうか、もうこやつとも20年来の付き合いとなるのか。

 儂も歳を取るわけじゃな。


『じゃが、少しくらい妾との語らいに付き合え。どの道大人しく心臓を譲るのじゃから、それくらいは妾に役得があっても良かろ?』


「そうさな。そうじゃ、お主の好きな酒を持って来たのを忘れておったわ。今回は生憎と一緒には飲めんが、またそのうち、共に飲み明かすのも悪くなかろう」


 気が急いてしまって、いつぞやこやつと会う事があれば、飲ませてやろうと用意した酒があったのを忘れておったわい。

 それだけ、気持ちに余裕が無かったのじゃろうな。


『おお、用意がいいではないか!』


 魔術鞄から、酒の入った樽を取り出し、顔の前に置いてやれば、不死の魔竜は器用に口で蓋を開け、チロチロと舌で舐めるようにして酒を飲み始める。

 相変わらず、酒に目が無いのう。


『うーむ、強い酒精にすっきりとした飲み口、そしてこの芳醇な香り。やはりこの酒が一番よな!』


「この酒を好むとは、お主も通よの。儂はやはりエールかワインの方が好みじゃが」


『エールやワインも嫌いではないがの。じゃが、この透明な酒が一番じゃ。香り、味、酒精、その全てを満たしておるのはこの酒だけよ』


 こやつがご機嫌に酒を楽しむ姿を見ておると、儂も呑みたくなってしまうが、今は我慢じゃな。

 少年の命を救うためにも、なるべくご機嫌をうかがっておかねば。

 仮に殺し合いとなったのなら、5年前ならいざ知らず、老いた今となっては確実に勝てるとは限らん。

 もっとも、殺し合いになったとて、儂に負ける気は欠片もないがのう。

 少年が待っておるんじゃ。

 今なら儂は、修羅にでもなれる気がするぞ。


『老いてなお、妾を殺す気概を失わぬほど、入れ込むような人間がぬしにいたのじゃな。近しい人間はみな死んだと聞いたが』


「ああ、死んだ孫そっくりの少年がおってな。今、そやつが生死の境を彷徨っておる。そのために、お主の心臓が欲しい」


『だから、くれてやると言っておろうに。妾は酒さえ飲めるなら、別に心臓くらいくれてやっても良いと思うておる。まあ、お主の頼みというのもあるけれどものう。とはいえ、ここまで気もそぞろというのなら、むしろ早く帰した方がいいかしれぬの。次は心臓が必要無い時に来て、ゆっくりと語らってもらうぞよ』


「すまぬ」


『良いと言うておるではないか。全く、昔から変わらず堅苦しい男よの。ほれ、持っていくが良かろ』


 儂の焦りが伝わったのか、やれやれとばかりに、不死の魔竜は心の臓がある腹側を儂に曝け出す体勢になった。

 次はなるべく近いうちに、語らいに来なければな。

 儂とてもういつ死んでもおかしくないからのう。

 今回ばかりは借りを作ってしまったし、次はもっと上等な酒を用意してやらんとな。

 いっそ、少年を誘ってもいいやもしれぬ。

 こやつも儂が死んだとなれば、何だかんだで寂しがるであろうしな。

 少年ならば、こやつとも打ち解けられるはずじゃ。


「御免」


 不死の魔竜の胸元に槍を突き入れ、斬り開く。

 幾度となく行った行程ゆえに、もはや身体が覚えておる。

 程なくして、切り離しても力強く脈動する、人間の頭ほどもある心臓が儂の手の上にあった。

 以前のものと比べ、相当に大きいのう。

 もしかすると、10年ほど来ておらなんだから、その分しっかりとしたものになっていたのやもしれぬ。


「助かった。近いうちに今日のものよりもいい酒を持って訪ねよう」


 特大の不死の心臓を魔術鞄にしまい込み、最後に一声かけてから洞窟を、混沌の渓谷を後にする。

 繋いでいた馬に飛び乗り、一気にシトランに戻っていく。

 ギリギリで馬を潰さない程度に急いでシトランに戻れば、ちょうど日の暮れた始めた所であった。

 およそ、人々が夕食を摂り始める時間くらいであろうか。


「戻ったぞ」


 少年のいる冒険者ギルドシトラン支部に戻ってみれば、出発前と変わらぬ様子で少年はベッドで浅い呼吸をしていて、それを奇異の魔術師(トリックスター)が診ておる。

 変わった事と言えば、少年と共におった鬼人族(きじんぞく)の女子が側におるくらいかの。

 奇異の魔術師は、謎の薬品を調合しておるようじゃが、儂が戻ったのに気付いてからすぐにこちらを見た。

 どうやら、目を離しても大丈夫な段階まではいっているようじゃな。


「戻られましたか。不死の心臓は?」


「ほれ、この通りじゃ」


 魔術鞄に入れていた節の心臓を取り出し、手渡す。


「これは……相当な品質ですね。たっぷりの魔力が溜め込まれていて、新鮮さも申し分ないです」


「ほれ、はよ少年を治さんか」


 まじまじと儂が持ってきた不死の心臓を眺めていた奇異の魔術師をせっついてみれば、ハッとしたように作業に戻る。

 こやつめ、素材の品質に夢中になっておったな?


「ハイト、治る?」


 薬の調合に戻ったゆえ、とりあえずは大丈夫か、と思った所に、鬼人族の女子が声を掛けてきおったな。

 妙に無表情なのが気になるが……恐らくはこういう娘なのじゃろう。


「そうさな。そこにおる奇異の魔術師が薬をこさえれば、恐らくは大丈夫であろう。それまでは待つしかないが、4日は保たせると豪語しておったし、任せておけば大丈夫じゃろうて」


 少年の事を心配しておるのじゃろうな。

 儂がそうして安心するかはわからぬが、なるべく不安は取り除いてやるべきじゃろう。

 そんな事を考えて、女子の頭を撫でる。

 特に嫌がる素振りも見せず、目を細めてただされるがままの女子を見ておると、まるで小動物のようじゃな。

 さて、少年。

 儂も、ここにいる女子も、奇異の魔術師も、お主が戻って来るのを待っておるぞ。

 今、奇異の魔術師が薬をこさえておる。

 必ず、帰ってくるんじゃ。

 帰ってきた暁には、お主と語らいたい事がたくさんあるからのう。

これで幕間は終わって、次とその次くらいでワケあり2人目は終わると思います。

今回はかなり実験的に、サブの人物の掘り下げをガッツリとやってみました。

今後の反応を見つつ、こういった話の流れに関わらない部分の掘り下げもやっていくか考えていきますが、もしもこのキャラの深堀りが見たい、とか希望があれば気軽にコメントを下さい。

何かしらのものをお出しできるように考えます。

(仮に本編に入れないなら、短編で書くとかですね)

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― 新着の感想 ―
とても楽しく拝読させていただきました。 サブキャラの深掘りもあって良いと思います!
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