表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/242

ワケあり2人目⑲

「……遅いですね」


 伝令が浜に向かってから30分程度が経つ頃だろうか。

 一向に誰かが帰ってくる様子が無い。

 それほど浜の方の旗色が悪い?

 それとも、グリド商会側から何か妨害があった?

 どちらにせよ、このまま俺がここに留まっている状況ではなくなってきた可能性があるな。


「ポトン伯爵、私が外の様子を見てきます」


「……それしかないですな。何もできないのが歯痒いですが、お気を付けて」


 俺が外に出た後は、念のため扉を閉めて障害物で塞ぎ、時間を稼げるようにしておくよう進言してから、俺は伯爵邸を出た。

 外に出て、すぐに異様な光景が目に入る。


「これは、領軍の兵士たち、か?」


 伯爵の屋敷前にある広場に、領軍の兵士たちが物言わぬ骸となって転がっており、恐らくは全滅しているのだろう。

 そして、今シトランの街で、この惨劇を引き起こすような実力者を、俺は1人しか知らない。


全武器使い(ウェポンマスター)……」


「あの時のガキか。大人しく手を引いておけば、死なずに済んだのにな」


 俺に気付いた全武器使いがこちらを振り返る。

 特に俺を意識もしていない、ただの路傍の石といった風に見る目。

 歯牙にもかけられぬほど、実力差があるのは自明の理。

 戦う事になれば、勝ち目はゼロ。

 それでも俺は、聞かずにはいられなかった。


「アンタ、S級冒険者だろ。なんでこんな真似をしたんだ」


「最近はなかなか人を殺す機会が無くてなあ。最初は依頼を受ける気も無かったんだが、金と女と酒をたんまり出してくれるってんで、受けただけの話だ。おかげで、気に入らねえ雑魚を殺す口実ができて嬉しい限りだぜぇ?」


「実力はS級でも、人間性は動物以下だな」


「ハッハッハ、言うじゃねえの。その動物以下の人間性のヤツに、お前は今から殺されるけどなあ!」


 全武器使いが剣を抜く。

 こちらをナメているからか、ゆったりと歩きながらこちらへと詰め寄ってくる。

 嗜虐的な笑みを浮かべ、こちらににじり寄るのを見る限り、どう俺を殺そうか思案している、といった所だろう。


「さて……イイ声で鳴いてくれよ!」


「お断りだ!」


 様子見とばかりに振るわれた剣の一撃を、ルナスヴェートで受け止める。

 重い一撃ではあるが、そこまで圧倒的な差というほどでもない。

 とはいえ、相手が本気を出していない時点で、アテにはならないだろうが。

 どうにか、ヤツが油断しきっているうちに意表を突いて深手を与えたいな。


「へえ、そこらへんの雑魚よりよっぽど手応えあるじゃねえの」


 2合、3合、と斬り合ううちに、全武器使いが片眉を上げる。

 どうやら、俺の評価を少し上方修正したらしい。


「これなら、もうちょい真面目にやっても良さそうだな」


 全武器使いが、空いている左手に槍を掴む。

 大きく剣を振って俺の攻撃を弾くと、左手の槍を突き込んできた。

 俺はその一撃を半身になって躱し、バックステップで後ろに下がる。

 間合いは離れてしまうが、このままヤツの得意距離に付き合う必要も無い。


魔弾(バレット)


 左手に短杖(ワンド)状態の長短杖(ロッドワンド)を握り、魔力の弾丸を連射。

 全武器使いは面倒くさそうな表情を浮かべると、移動して射線から逃れつつ、剣と槍から弓矢に切り替えた。

 どうやら、俺と撃ち合いをするつもりらしい。


「魔――ッ!?」


 もう一度魔弾の魔術をお見舞いしようと思った瞬間、何か嫌な予感がして、咄嗟に身体を右にずらす。

 直後、左手の長短杖が砕ける。

 何が起きた?

 俺は一瞬たりとも全武器使いから目を離していないぞ。

 

「クソつまんねえ真似すんじゃねえ。オレは面倒が大嫌いなんだ」


 叩き付けられる殺気。

 どうやら離れての魔術戦は、全武器使いの逆鱗に触れてしまったらしい。

 しかし、魔術は俺の生命線だ。

 ルナスヴェートがあるから、触媒が無くて魔術を封じられたというわけではないが、先ほどの長短杖が砕けた現象を解明できなければ、ルナスヴェートも失いかねない。

 さすがに剣まで失ってしまっては、ただただ蹂躙されるのみになってしまう。


「興醒めだ。死ね」


 射放たれる矢。

 その瞬間に、俺はその矢の到達点と、どうやっても逃れられない事を理解する。

 意外と呆気ないな。

 あと数瞬後には、俺は眉間を射抜かれて死ぬ。

 どう頑張っても、覆らない。


「ハイトはやらせない」


 感情が籠もっていない、フラットな声色。

 重量物が地面に落ちる音の直後に、矢が弾かれた音。

 目の前に、カナエが大盾を構えていた。

 すぐには状況を呑み込めなかったが、とりあえず彼女が空から降ってきて、俺の目の前に着地し、大盾で俺を庇ったという事だけは理解できる。


「カナエ?」


「お待たせ」


 一瞬だけ俺に目配せをした後、カナエは大盾を構えながら、重力の大鎚斧グラヴィトンハンマアクスを片手に全武器使いに突撃していく。

 いつまでも呆けてる場合じゃないだろ、俺。

 左手で自分の顔を殴り、気合いを入れ直す。

 そうだ。

 俺1人で勝てないのなら、仲間を頼ったっていいじゃないか。


「なんだ? こりゃまたえらくイイ女じゃねえの。動けなくしてから、たっぷり楽しませてもらうぜ」


 カナエの容姿に食指が動いたのか、全武器使いが剣と片手に嬉々としてカナエに襲い掛かる。

 武器が武器なだけに、どうしても大振りになってしまうカナエの攻撃を躱し、全武器使いは口笛を吹く。


「パワーだけなら相当だな。が、当たらけりゃどうってこたあねえ!」


 反撃の一撃を、カナエが大盾で防ぐ。

 一方的に一撃を跳ね返され、全武器使いは一度後ろに下がった。

 そこで剣から斧に持ち替え、それを両手で握る。


「まずはその防御を……テメエ、邪魔すんな!」


 カナエの影から飛び出すようにして、全武器使いに奇襲をかけるものの、斧の重い一撃で俺は吹っ飛ばされてしまう。

 剣で防ぎこそしたものの、両手が痺れる。

 クソ、俺が完全にお荷物になってる!


「ハイト、焦らなくていい」


 カナエが一言だけ喋ってから、再び全武器使いとの距離を詰める。

 全武器使いの方は、両手で握った斧をカナエに叩き付けたものの、それすら簡単に大盾で弾き返され、たたらを踏む。

 そこにカナエが反撃を叩き込もうとするものの、すんでの所で躱されてしまう。


「なんつー馬鹿力だ。俺でも余裕で弾き返すたあ、相当だ」


 再びカナエから距離を取った全武器使いが、大きく息を吐く。

 また雰囲気が変わったな。


「……全武器使いの異名の意味、見せてやる」


 全武器使いが、斧を俺に向けて投げる。

 それを躱し、距離を詰めよう、そう考えた瞬間に、悪寒を感じて横に大きく跳んだ。

 すると、先ほどまで俺がいた軌道を、投げられた斧がブーメランのように戻っていく。


「へえ、初見で今のを避けるか」


 一瞬外した視点を全武器使いに戻せば、ヤツの近くに装備していた武器が浮いている。

 なるほど、どういう原理かはわからないが、遠隔操作で武器を扱えるって事らしいな。

 もしかすると、先ほど俺の長短杖を破壊したのも、あれによる不意打ちかもしれない。


「二人がかりとはいえ、オレに本気を出させた事は褒めてやる。だが、お前たちにオレは越えられねえ!」


 全武器使いが右手を振ると、剣が、槍が、斧が、大剣が、短剣が、弓が、それぞれ動き出す。

 弓から射撃が間断なく連続で射られ、剣や槍たちが、それぞれ俺たちに襲い掛かってくる。

 圧倒的な手数に、俺たちは徐々に軽くとも傷が増えていく。

 くっそ、2人がかりでもどうにもならないってのか?

 考えろ、この状況を乗り越える一手を。

 俺の持つ手札を。

 こんなヤツにいいようにやられてたまるかよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ