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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり2人目⑱

「行き詰ったな」


「ですね」


 全武器使い(ウェポンマスター)の登場により、俺とカインさんの調査は行き詰ってしまった。

 何度か挑戦してみたものの、全武器使いの存在がその全てを阻んだ。

 S級冒険者としての実力そのものはやはり本物で、俺やカインさんの動きに目ざとく反応してくる。

 陽動なども試したものの、なかなかに出し抜くのは難しい。


「さすがに真正面からどうこうできる相手じゃねえしな……あとはギルドを通して国に訴えるくらいか。とはいえ、今の状況でそんな手続きをしてるヒマはねえだろうが」


「でも、やらないよりはマシかもしれません。このままじゃ、どっちにしろ手詰まりです」


 重い空気になり、ここからどうしたものかと思っていた所に、いきなり地震が起こる。

 凄まじい揺れで、立っているのが難しいほどだ。

 とはいえ、そこまで長い時間揺れていたわけでもなく、数分で収まった。


「何だ?」


「いい予感はしませんね」


 俺とカインさんはお互いに顔を見合わせ、殆ど同時に宿を出た。

 すると、街は大パニック状態。

 何が一体どうなったらこんな状況になるのか。


「おい、何があった?」


 カインさんが手近にいた人を捕まえて事情を聞いてみれば。


「浜の方に大海蛇(シーサーペント)が出たんだ! このままじゃ街はおしまいだ!」


 そう言って、カインさんの手を振り払い、一目散に逃げ出していく。

 なるほどな。

 逃げる人、何をすべきか迷っている人、パニックを起こしている人、様々な人が混在していて、それがパニックを助長しているんだろう。


「チッ、こんな時に。俺はギルに合流して動く。ハイト、お前はポトン伯爵と協力してこのパニックを収拾してくれ。こんな状態じゃ動きにくくてかなわんからな」


「わかりました。お気を付けて」


 恐らく、ギルバート氏なら真っ直ぐに大海蛇の対処に向かうだろう。

 一応、カナエを砂浜の方に出しているから、戦力的にはどうにかなるだろうが……。

 俺も早くこのパニックの対応に目途を付けて合流しないとな。

 とはいえ、ポトン伯爵ほどのやり手なら、既に対処に当たっててもおかしくなさそうだけど。


「……こういう事かよッ!」


 小走りでポトン伯爵の屋敷に向かっていたら、近くに来た時点で俺は今回の騒動の全てを察した。

 浜の大海蛇は、ただの陽動。

 本当の狙いはポトン伯爵だ。

 入口の門番は、既に襲われて事切れており、他にも何人か倒れている人がいる。

 恐らくは、死んでいるのだろう。

 急いで伯爵邸に入ると、2階の方から戦闘音が響いていた。

 恐らく、まだ伯爵は抵抗しているのだろう。

 早く応援に行かないと。


「くそ……関係ない人まで……」


 移動の最中、使用人の皆さんまでも残らず殺されているのを見て、怒りの感情が湧き上がってくる。

 恐らく、十中八九はグリド商会の仕業のはず。

 これを強盗や何かに見せかけるつもりかはわからないが、相当に大胆な行動だ。

 それだけ今回の一件に自信があるという事なのだろう。


「あん? 冒険者が嗅ぎつけて……」


「黙れ」


 2階への階段を上った先で、恐らく見張りであろう一人の襲撃者を発見し、即座にルナスヴェートを抜き放つと同時に振るう。

 首を一撃で飛ばしたので、騒ぐ前に片を付けられたが、騒ぎの大元の方はだいぶ近い。

 剣を握ったまま、急いでそちらに向かえば、ちょうど執務室内で追い詰められた状況のポトン伯爵と、家令さんと、2人の兵士。

 家令さんも短剣で戦っているので、どうやら護衛も兼ねているらしい。

 残る襲撃者は6人。

 室内には兵士と襲撃者の死体もあるので、頑張ってかなりの間抵抗したのだろう。


「リベルヤ殿!」


 俺の姿を見たポトン伯爵が声を上げ、襲撃者たちの視線が一時的に俺へと集まる。

 その隙に、家令さんと兵士の方々が1人ずつ襲撃者を仕留め、俺も一気に踏み込む。


残光剣(フラッシュ)縫連刃(ソーセション)


 袈裟斬りの一撃を、光の刃に分裂させ、連撃を与える魔戦技(マジックアーツ)で、襲撃者の一人を残して斬り捨てた。

 残る一人は得物を持つ腕を斬り飛ばし、抵抗できない状態にしてから床に取り押さえる。

 これでとりあえずは、小康状態だろうか。


「ふう……ポトン伯爵、ご無事で何よりです」


「リベルヤ殿。救援に感謝致します」


 襲撃者の男を取り押さえつつ、失礼かとは思ったが、念のために伯爵に声をかけておく。

 すると、伯爵は俺へ向かって深々と頭を下げた。


「わたくしからも御礼申し上げます。我が主の窮地を救っていただき、感謝の言葉もございません」


 短剣を懐にしまい、家令さんからも深々と頭を下げられてしまう。

 どうしたもんか、と思いつつ、とりあえず失血死されても困るので、無詠唱魔術で襲撃者の右腕の傷口だけ塞いでおく。


「お前たち、あいつを取り押さえておけ」


 2人の兵士さんから拘束を変わります、と声をかけられたので、俺は襲撃者の身柄を引き渡し、立ち上がって剣を鞘へと納める。

 どうやら、残る兵士の一人は隊長さんのようだ。

 彼は俺に向けて敬礼をしてから、一度室外へと出て行った。

 慌てて後を追えば、執務室の入り口に立っており、見張りはお任せ下さいと胸を叩く。

 とりあえず、伯爵から事情を聞くとしようか。


「一体何があったんですか?」


 少し落ち着けるな、と改めて少し身体の力を抜きつつ、ポトン伯爵に声を掛ける。


「わかりません。いきなり浜の方に大海蛇が現れた、という報告が上がってきたので、領軍の殆どを応援に向かわせ、残る兵で住民たちの避難誘導に当たろうとしたタイミングで、襲撃に遭いましてな。ちょうど手薄になったタイミングでしたので、リベルヤ殿が応援に来てくれねばどうなっていた事か……」


 俺が来た事で命が助かり、ホッとしたような様子ではあるものの、ポトン伯爵の顔は少し青い。

 死が目前に迫っていて、かなり精神的に消耗してしまったのだろう。


「わかりました。まずは屋敷の安全を確保しましょう。まだ賊が潜んでいるかもしれませんし、私が屋敷を回ります。その間にポトン伯爵は捕らえた男から情報を引き出して頂ければと」


「わかりました。申し訳ありませんが、くれぐれもお気を付けて」


 伯爵は俺の提案に頷いてくれたので、軽く会釈をしてから、執務室を出る。

 見張りをしてくれている隊長さんに一声かけ、何かあれば大声を上げて下さいと伝えてから屋敷内を回っていく。

 どこに行っても死体ばかりで気が滅入りそうになるが、今は安全を確保するのが最重要事項だ。

 使用人、兵士、襲撃者、各所で死体が転がっている状態なのを確認しつつ、生存者や残る襲撃者を探す。

 途中で何人かの襲撃者を倒し、確認が必要なのは地下室を残すのみとなった。


「ひっ、殺さないで……」


 勢い良くドアを開け、中に入ってみれば、身なりの良い女性と一人の子供、そして2人を守るように震えながらも果物ナイフを構えている若いメイドさん。

 恐らく、状況的に伯爵の身内だろう。


「安心して下さい。私はポトン伯爵の味方です」


 敵意は無いと表すため、握っていた剣を鞘に納めて両手を上げる。

 俺が敵でないと理解したのか、若いメイドさんがへなへなと蹲った。

 相当怖かったんだろうな。


「夫は……伯爵は無事ですか!?」


「ええ、間一髪で間に合いました。今は安全を確保した上で執務室の方にいらっしゃいます」


「良かった……」


 やはり、身なりの良い女性は伯爵の奥さんだったか。

 整った目鼻立ちで、優しそうな雰囲気だ。


「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」


 状況を見守っていた子供も、はにかんだ笑みを浮かべながらお礼を言ってくれた。

 ああ、この荒んだ状況でも癒されるなあ。


「伯爵を呼んできます。敵はもう排除しましたので」


 話している裏で、魔力による探知をかけていたが、屋敷内には俺たちと執務室のポトン伯爵以外の反応は無い。

 追加で襲撃が無い限りはとりあえず安全と言っていいだろう。

 とはいえ、子供や女性に外の光景を見せるのはあんまりなので、少し手間だが伯爵をここに呼ぶとするか。

 生存者が1箇所に集まってくれた方が色々と楽だし、護衛もやりやすい。


「おお、無事で良かった!」


 状況を伝え、伯爵を呼びに行って戻ってみれば、伯爵と家族がひしと抱き合う。

 うん、いい家族だな。


「リベルヤ殿には礼をしてもしたりませんな」


 家族との抱擁を終え、立ち上がって俺の方に向き直ったポトン伯爵が、困った笑みを浮かべる。

 

「いえ、間に合って良かったです。あと少しでも遅れていたらと思うとゾッとします」


「改めて、ありがとうございました」


 伯爵夫人も改めてお礼を言ってくれて、ここしばらくはお礼はお腹一杯だ。

 とはいえ、このまま俺一人でここを守っているわけにもいかない。

 浜の方も気になるし、そもそもグリド商会の動きも気になる。


「浜の方から戦力を戻しましょう。もしかしたらもう終わっているかもしれませんが」


「そうですな。このままでは我々自身の身を守る事も危うい」


 伯爵が兵士の一人に伝令を命じ、命令を受けた兵士が外へ走り出す。

 ちなみに、捕らえた襲撃者は舌を噛んで自害してしまったらしい。

 さすがにその辺りは徹底してくるか。

 とりあえず、領軍の人達が戻ってきたら、伯爵の護衛を引き継いで、俺も浜の方に合流しないとな。

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