ワケあり2.2人目
「この度は、ご足労頂きまして、誠にありがとうございます」
「御託はいい。オレをこんな港町くんだりまで呼び出した理由を聞かせろ。下らねえ理由なら叩き斬るぞ」
グリド商会。
その応接室にて、二人の男が向かい合う。
片方は商会長たるアヴィドゥス・グリドであり、もう片方の男は不機嫌そうに彼を睨む。
「まさか全武器使い様が応じて下さるとは思いませんでしたので。少々気分が昂ってしまいましてな。ご容赦を。して、依頼の件でございますが、いくつか面倒な内容がございます。ですが、受けて頂けるなら前金で白金貨50枚を出しましょう。もし、受けて頂けないのなら、内容はお話できません」
グリド商会長からの説明に、全武器使いは眉を動かし、少しの間思案顔になる。
ちなみに、白金貨は1枚で金貨100枚分の価値があり、それが50枚ともなれば相当な額だ。
それこそ、国家予算クラスの大きい金額であり、普通の人間であれば一生を仕事せずに暮らせる額を優に越えている。
「……いいだろう。受けてやるから内容を聞かせろ」
いくばくかの逡巡の後、全武器使いは依頼を承諾し、商会長を睨む。
相変わらず不機嫌そうではあるが、先ほどよりは険が取れていた。
「では、こちらの魔術契約書にサインを。話を聞いて前金を受け取った段階で逃げられても困りますのでな。まあ、S級冒険者たる全武器使い様であれば、余裕の依頼でしょうがな」
「随分慎重じゃねえか。ま、前金で白金貨50枚も出すって事は、相当にデカいヤマなんだろうけどな」
ビビッているのか、とでも言いたげな表情で、全武器使いは魔術契約書にサインを書き込む。
当然、内容など目を通してもいない。
「ありがとうございます。それでは内容ですが、まずは我がグリド商会を調べている冒険者がいるようなので、それを排除して頂ければと。我々の策がもうじき成りますので、期間としては半月程度でしょうか」
「排除ねえ。それは殺してもいいって事か?」
「手段はお任せします。こちらとしては邪魔さえ入らないのなら生死は問いません。必要とあらば、証拠の抹消をお手伝いさせて頂きます」
「へえ。最近は殺しだなんだとなるとやめてくれって言われる事が多いが、気前のいい事だ」
話された内容を聞き、全武器使いが獰猛な笑みを浮かべる。
エサを目の前にした、猛獣のような気配すら感じるほどだ。
「それともう一つ。私の身辺警護ですな。念には念を入れていかねば安心できませんから」
「身辺警護だあ? チッ、面倒な」
商会長の身辺警護と言われた途端に、全武器使いの顔が全力で面倒だと訴え始める。
それはもう、本気で嫌だとばかりに。
「依頼の完了報酬は、白金貨200枚と各地の銘酒と美女でいかがでしょう?」
「いいねェ! 気前のいい報酬だ! そうとなれば俄然気合いも入るってモンだぜ!」
依頼の完了報酬を聞いた瞬間に、全武器使いは喜色満面となった。
凄まじく現金である。
「ある程度、全武器使い様の存在も周知したいので、最初はこちらの指示通りに、一芝居打って頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「おう、好きにしろ。芝居ぐらいならいくらでも打ってやる。内容は全部そっちで考えてもらうがな」
「助かります。それでは、手筈を整えておきますので、明日は朝からこの街の冒険者ギルドにいらして下さい」
「わかった。魔術契約書まで交わしたんだ。報酬の未払いは……わかるよな?」
「ええ、わかっておりますとも。それではまず、前金の方をお納め下さいませ」
「確かに。じゃあな」
前金である白金貨50枚を受け取り、全武器使いはほくほく顔で去って行く。
それを見送った商会長は、ニヤリとした笑みを浮かべていた。
「S級冒険者は変人ばかりで扱いにくいと聞いたが、全武器使いは存外御しやすいものだな。S級の中でも御しやすいとは聞いていたが、随分と俗っぽい。まあ、これだけの備えをしておけば、こちらの布陣は万全というもの。ポトンめ、今に見ていろ……」




