ワケあり2.1人目
「魔道具で動く船並みの速度で泳ぐ女が、大海蛇を殴り飛ばしただと? 馬鹿も休み休み言え」
グリド商会の倉庫にて、3人の男が集まって会話をしている。
一人は顔面蒼白な状態で、いかに自分が怖い思いをしたのか語っており、それを聞く側のうち1人は、荒唐無稽すぎて意味がわからない、という状態だ。
まあ、普通の人間なら、生身の人間が動力のある船並みの速度で泳いで、人間など容易に一飲みする大きさの大海蛇を素手で殴り飛ばした、なんて話を聞いて信じるはずもない。
「その話、確かなのか?」
残る1人が、傍から聞けば荒唐無稽なその話の、是非を問う。
もしもこの、荒唐無稽な話が真実だとすれば、間違いなくその女はこの街の裏側に気付いているからだ。
「間違いありません。鬼人族の女でした」
顔面蒼白な男は、ここぞとばかりに頷く。
「鬼人族といやあ、高い身体能力がウリだ。あながち真っ赤な嘘ってわけでもなさそうだ。顔は見られたか?」
「ハッキリとは見られてねえと思いやす。ただ、追いかけられる中で状況を見るのに何度か振り返ったんで、物覚えのいいヤツなら顔を覚えられた可能性は否定できねえです」
顔面蒼白の男に是非を問うた男は、顎に手をやり、考え込む仕草をする。
そのまま数分の間、残る2人は何も発言せずに彼が口を開くのを待った。
「お前は念のため、しばらく表には出るな。それと、手の空いてるヤツで鬼人族の女を探れ。可能なら排除しても構わん。が、相手の実力がわからんうちから仕掛けるのは絶対にやめとけ。事が漏れたら計画がパーだからな」
男の指示に従い、顔面蒼白の男はすごすごと倉庫から出ていく。
残る2人の男のうち、指示を受けた方の男が、残る男の顔色を伺う。
「もしも、排除が不可能な相手だったら、いかがいたしましょう?」
「その時はその時だな。変に手出しができんなら、放っておくしかない。一応、アイツを表に出しさえしなければ、グリド商会に繋がる事は無いはずだ」
指示を出していた男は、難しい顔で腕を組む。
「ポトンめ、ずいぶんと鼻の利く冒険者を取り込んできたな」
忌々しい、と毒づき、指示を出していた男が倉庫から出ていく。
残された男は、これから己が取る行動を考え、遅れて倉庫を後にするのだった。




