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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり2人目⑩

「シーズンになったら、観光客でいっぱいになるんだろうな」


 カナエを引き連れて砂浜の方に移動してみると、広い砂浜と青い海が広がっており、シーズンになったら水着で浜辺に遊びに来る観光客がさぞかし増える事だろう。

 そんな感想の湧き上がる所だったが、今は巡回と見張りの役目を負っているであろう冒険者が、少し殺気立った様子でウロウロしている。

 襲撃の頻度がどの程度かはわからないが、少なくとも油断できる状況ではない、というのが現状の状況なのだろう。


「おう、こっちは立ち入り禁止だぞ兄ちゃん」


 腰に剣を佩いた冒険者の男性がこっちに声をかけてくる。

 俺たちも武装はしているから、冒険者だとはわかると思うが、あまり歓迎されてはいなさそうだ。

 他にも近くにいる冒険者たちからの視線がこちらに向くが、一様にあまり歓迎されている感じではない。


「すみません。あまり邪魔するつもりは無かったのですが、今回の件の調査をポトン伯爵から命じられていまして。私たち以外にも結構な数のパーティーが調査に来ていますので、ご挨拶のついでにお話を伺えればと」


 俺が丁寧な対応をしたからなのか、内容に納得したからなのかはわからないが、周囲の冒険者たちの警戒心が少しだけ薄まるのを感じる。

 とりあえずは、話をするくらいはできそうか?


「そういや、王都の方から追加人員を呼ぶとか言ってたな。アンタらがそうか。で、何を聞きたい?」


 どうやら、そのまま対話に応じてくれるようなので、軽くお辞儀をしてから、俺は聞き込みを開始した。

 襲ってくる魔物たちの種類や、襲撃の頻度、変な動きがないか、etc……。


「まあ、俺たちが答えられるのはこんなモンだな。俺たち視点では、特におかしな点は見当たらないし、マジで魔物が頻繁に襲撃してくるようになった、としか言いようがねえ」


「なるほど……ご協力、ありがとうございます」


 何人かの冒険者に聞き込みを行ったが、一様に言っている事は同じで、個々人での感じ方にも殆ど差異は見受けられない。

 やはり自然現象による魔物の増加、というよりは何かしらの作為的な要因があるような気がするな。

 自然現象であれば、近場の魔物の分布が変わったとか、そういった要因が必ずあるはずなのだが、既にそういった方面は調査済みで、特に異常は無し。

 しかし、これといった原因はわからない、というのが現状だ。


「襲撃が来たぞー! 怪魚人(サハギン)の群れと暴れ海亀(ラゼンタートル)が10匹だ!」


 見張りをしていた冒険者の一人から、大声で襲撃の号令が上がる。

 話からすると、怪魚人と暴れ海亀との事なので、特別珍しい魔物というわけではない。

 怪魚人は名前の通り、人間くらいの魚に手足が生えたような感じのキモい系魔物で、暴れ海亀は人間の大人程度なら、頭から丸齧りしてくるような巨大かつ凶暴な海亀だ。

 怪魚人はそれほど強くはないが、暴れ海亀は甲羅も外皮も強固な物理耐性を持っているので、普通に戦うとなるとかなり苦戦するだろう。

 確か、暴れ海亀は単体でC級下位~中位くらいの実力はあったはず。

 それが10体もいるとなれば、普通の冒険者なら苦戦しそうだ。


「兄ちゃんたちは下がってな! 海の冒険者の戦い方ってヤツを見せてやる!」


 俺の近くにいた冒険者たちが大見得を切って、襲撃のあった方向へと走っていく。


遠見の目(ディスタントアイ)


 魔術で視力を強化して様子を窺ってみれば、ちょうど、街の外れの方角からの襲撃のようで、前面に暴れ海亀を押し出しつつ、その後ろに怪魚人が続くように襲ってきている。

 これが普通の光景なのかはわからないが、食物連鎖的な話をすると、暴れ海亀は怪魚人を喰ったりはしないのだろうか?

 まあ、魔物の生態がどうちゃらなんて話には別に詳しいわけでもないから、こんな疑問を持っても仕方ないのだが。

 魔物たちとの距離が縮まり、シトランの冒険者たちは、まずは前にいる暴れ海亀に網を投げているのが見えた。

 どういった材質のものかはわからないが、暴れ海亀たちは一様に網で動きを止め、拘束から逃れようと暴れているが、自ら網に絡まっているように見える。

 そうして、暴れ海亀の動きが止まっている間に、怪魚人たちへと討ちかかっていく。

 怪魚人自体は新人冒険者でもある程度の経験があれば、問題無く倒せる程度の相手だからか、冒険者たちが複数人で囲まれないように動きつつ、確実に数を減らしており、順調に推移しているようだ。

 この様子であれば、問題なく対処できるだろう。


「何だ? こんな時に小舟で人が海にいる?」


 シトランの冒険者たちのあまりに手慣れた対応に、心配がいらなさそうだと思い、何か変化は無いか強化した視力でと周囲を見回していると、沖の方に小さな船と人影が見えた。

 魔術で強化した視力でもこれだけ小さいとなると、普通の視力ではまず見えないだろう。

 しかし、この物騒な時期に、ボートのような小舟で沖に出ているとなればそれは正気じゃない。

 少なくとも、武装できる船や海の上でも魔物に対応できる冒険者なり護衛なりが必要だ。

 怪しいが、今の現状ではこちらから人影を調べる手段が無いのが悔やまれるな。


「捕まえる?」


 俺が見ている方向を見て、カナエがそう呟いた。

 捕まえるって、そもそもあなた見えていないでしょうに。


「やれるモンならやってほしいね」


「わかった」


 ドスン、と重い音がしたので、慌ててカナエの方に視線を移せば、彼女は大盾や胸甲といった水に沈むであろう荷物をこの場に放り捨てて、既に海に向かって駆け出している。

 あまりに早い行動に、俺が呆気に取られるのも束の間、何の躊躇いも無く、カナエは海に飛び込んで泳ぎ始めた。

 見事なクロールで泳いでいるな……じゃなくて!


「おい! 海は魔物の巣窟……聞いてないな」


 俺の制止は間に合わず、カナエはぐんぐんと海を泳いでいく。

 というか泳ぎのスピードがやべえ。

 波の方向からして、思いっきり流れに逆らっているはずなのに、大きな水飛沫を上げつつ、まるでモーターボートかといわんばかりの速度を出している。

 カナエさん、フィジカル化物すぎん?


「カナエに気付いたっぽいな」


 もうカナエを止められないので、諦めて沖の小舟の方に視線を戻せば、さすがにカナエが大きな水飛沫を上げているのに小舟の人間が気付いたようだ。

 どういう行動を取るかと思えば、小舟が動き始めていく。

 どうやら、逃げるつもりらしい。

 一応、カナエのスピードの方が小舟よりは速いようだが、果たして追い付けるのだろうか?


「カナエ!? って、マジ?」


 徐々にカナエと小舟との距離が縮まっていき、あと5分もかからずに追い付きそう、となった瞬間に、カナエの前に大海蛇(シーサーペント)であろう大きな頭が海から出て来た。

 さすがに満足に動けない状況で、人間など簡単に一呑みにしてしまうような怪物には抗えないと思い、間に合うかはわからないが、即座に魔術を行使しようとした瞬間。

 馬鹿げた光景が視界に移り、俺は思わず魔術を使う事を止めてしまう。

 なんと、大海蛇が巨大な水柱と共に吹っ飛んだのである。

 うそーん、と思ってしまうが、何となく状況は理解できた。

 恐らく、大海蛇に襲われたカナエが、殴るか蹴るか辺りの抵抗をしたのだと思われた。

 いやまあ、あんな超重量の装備使いこなすくらいだから、カナエが超絶脳筋なのは知ってたけどさ。

 それにしたってフィジカルお化けにも程があると思います。


「あー……さすがに逃げられたか」


 吹っ飛んだ大海蛇が、再び大きな水柱を上げ、海に沈む。

 そこから再度浮かんでくる事も無く、死んだか、ノックダウンしたか、カナエに恐れをなして逃げたかのどれかだと思われる。

 カナエも小舟を見失ったのか、先ほどと同じく大きな水飛沫を上げながら、こちらに向かって戻って来るのが見えた。

 あ、ちゃんと方向覚えてたのね。

 カナエの事だから、どっちに行けばいいかわからなくなると思ってたよ。


「逃げられた」


 およそ20分程度の攻防を終えて、カナエが海から上がってきた。

 あれだけの勢いでかなりの距離を往復した挙句、大海蛇を撃退した上でそこまで呼吸も乱れていない。

 え、マジでどんなスタミナしてんの?

 服は当然ずぶ濡れで、下着なんて透けて見えてるから眼福のはずなのに、カナエのフィジカルお化けっぷりにビックリしすぎて、煩悩に勝っちゃった状態である。


「ま、まあ、あれはしょうがない。とりあえず宿に戻って着替えたらどうだ?」


「そうする」


 自分の服の状態には特に頓着が無いのか、自分の荷物や装備を元通りに装着し、カナエは宿の方へと歩き出す。

 さすがにこの場で着替えるような事はなくて、ちょっとだけ安心している俺がいる。

 もしもこの場で着替えようとしていたら、全力で止めて宿に戻るよう言っていたことだろう。

 とりあえず、俺も一度戻る事にしようか。

 何か疲れたよ……。

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