ワケあり0人目⑤
昨日更新できてなかった分を今日上げておけば、チャラですよね?(暴論)
「それじゃ、正式に契約書面を交わしておこう。そういえば、名乗り遅れたな。俺はブライアン・ロックスミスだ。改めて、よろしくな」
そう言って、熱い握手を交わしたおっさん――もとい、ブライアンさんはカウンターの中から書類を取り出し、サラサラと内容を書き込んでいく。
確認してくれ、と言われて書面を差し出されたので、俺はそのまま受け取ったそれに目を通す。
先ほどの話と相違ない内容が書き込まれていて、変に契約の穴を突くような内容も無い。
「先ほどのお話と相違ないですね」
内容を確認して、書面をブライアンさんに返せば、彼は書面を受け取りつつ、署名欄に自分の名前を書き込んでいる。
それが終わると、俺にも同じように署名しろ、とばかりに書面とペンを差し出す。
「俺相手には敬語使わなくていいぞ。お互いに対等なビジネスパートナーなんだ。その方が俺も気楽だしな」
「ええと……それじゃ、これからよろしく?」
「それでいい」
俺が署名したのを確認して、ブライアンさんは大きめの丸い印鑑を押す。
すると、書面が二枚に増えて、俺とブライアンさんの元にそれぞれ浮かんで移動する。
「これで契約完了だ。いくらか使ったら、使用感を聞かせてくれ。もっとも、最初のうちはそんなに武器を抜くような依頼は多くないだろうけどな」
言外に気長にデータを取ってくれ、というブライアンさんは、契約書を畳んでギルド制服のポケットにしまいこむ。
俺もそれに倣い、手元にきた契約書を手に取り、畳んで服のポケットにしまう。
「ハイトは王都の出身か?」
「ああ、普通の家の次男坊なんで、自立しないといけなくて冒険者になったんだ」
「となると、家には帰れないわけか」
「そうなるな」
世間話を交わしつつ、俺は巾着袋から金貨20枚を取り出して、ブライアンさんの前に積み上げる。
「まいどあり。もしまだ宿を決めてないなら、燕の休息地っていう宿に行くといい。そこなら長期連泊もやってて、メシも美味い。客の秘密も守るし、値段も相場より少し安い」
「そういう情報は助かる。割と行き当たりばったりな所もあったしな。そういや、なんで金貨20枚って話になったんだ?」
最後に、気になった所を聞いてみた。
これに関しては、単に興味本位であったが。
「商人ってのは、限界まで相互利益を求めるモンだぜ? 俺も、お前さんもハッピー。そうすれば、お前さんはもっと金を落としてってくれるだろ? それに、相手の本当の懐状況を見極めるのも、利益を上げる秘訣ってな」
「……なるほど、勉強になったよ」
どうやら俺の限界予算を金貨20枚と見極めた上で、値段設定をしてきたらしい。
ほんと、強かだなあ。
まあ、俺に損の無い取引であったし、ブライアンさんも最初から俺に武器のモニターを依頼するつもりは無かったのだろう。
その辺りはお互いに利害が一致した結果という事で。
とはいえ、ゼロからスタートの冒険者稼業だが、こうして頼れる人脈が増えていくのは単純にありがたい。
武器を使う機会が訪れたら、その時はキチンとレポートを書かなくちゃな。
そんな事を考えているうちに、ブライアンさんが新人セットのリュックに買ったものを詰めたり下げたりしてくれて、リュック一つで運べるようにしてくれた。
俺はリュックを受け取り、礼と挨拶を述べて、冒険者ギルドを後にする。
「あとは宿だな。確か、燕の休息地がいい、って話だったか」
他に候補があるわけでもないので、とりあえず行ってみて、気に入らなければ他を探せばいいだろう。
夕方に差しかかってはいるものの、まだ宿泊受付を締め切る宿が出るほどではない。
まあ、満員で受け付けを終了した所はあるかもしれないが。
「ここが燕の休息地だな」
適当に街の人に声をかけて歩きつつ探し当てた宿は、裏路地と表通りの中間くらいにある、比較的こじんまりとした宿だった。
部屋数は多分、20部屋もないだろう。
二階建ての、ちょっと小さめの木造マンション、といった出で立ちだ。
別に広い部屋がいいわけでもないので、とりあえず中に入る。
「いらっしゃい! 宿泊かい?」
威勢のいい声と共に、受付で俺を出迎えたのは、恰幅のいい、肝っ玉母ちゃん、といった様相のおばちゃんだ。
歳の頃は30代半ば~後半くらいだろうか。
「部屋に空きがあるなら。後は料金とかも知りたいです」
「わかったよ、それじゃあこっちに来ておくれ!」
手招きするおばちゃんに従い、カウンターの方に移動していく。
「お兄さんは初めてだね?」
「ええ」
俺がカウンター前に着くと、おばちゃんが説明を開始した。
説明内容はわかりやすく、まとめるとこうだ。
・料金は前払い
・基本は一泊二食で銀貨8枚
・食事なしなら銀貨4枚
・連泊は1週間単位で割引がかかり、最大半年で10%オフ
・連泊を途中でキャンセルした場合は差額は返金
・食事のみの利用も可能
・食事を部屋で摂る事も可能(その場合は一度食堂に取りに来る必要あり)
・希望すれば昼食弁当も用意可能(別途料金)
・トイレは部屋にあり
・風呂は宿の浴場を使える(開いているのは15時~24時)
条件としては悪くない、どころか破格だろう。
別途料金はかかるにしろ、三食用意してもらえるのは非常にありがたい。
素泊まりならおよそ4千円、食事付きで8千円程度、と考えると食事代が少し高く感じるが、むしろメシは少し値が張っても美味くて量がある方がいいしな。
風呂も付いているなら、衛生面も悪くない。
これはほぼ決まりか。
とりあえず、1週間お試しで連泊してみて、良かったら1か月くらいの連泊に伸ばそう。
「とりあえず1週間連泊で」
「はいよ、まいどあり!」
1週間分の連泊料金を支払い、部屋の鍵を受け取る。
「部屋の掃除はどうする? 他人に入ってほしくなければ、入らないようにもできるよ」
「そうですね、掃除は自分でします」
「わかったよ。もし部屋を異常に汚してたら、特別清掃料金がかかるからね」
「わかりました」
まあ、その辺は当たり前だな、と思いつつ、俺は部屋の方へと移る。
どうやら1階が受付と食堂と浴場、2階が宿泊用の部屋のようだ。
俺は鍵に書かれた部屋の扉を開け、荷物を降ろして一息つく。
広さとしては、少し広めのワンルームの部屋……大体8畳くらいだろうか?
「さて、明日からはギルドに行って仕事を探さないとな。割のいい仕事があればいいけど」
少し休憩してから荷ほどきをして、明日出発の際に、すぐ着替えられるように準備をする。
別に集合時間が決められているわけではないが、何となく、朝早い方がいい仕事がありそうな気がするのだ。
今日は夕食を摂って風呂に入ったら寝るだけだし、とりあえず、1日目は無事終えられた、って事でいいかな。