ワケあり2人目⑤
「それじゃ帰るか」
カナエの装備や生活用品一式を買い揃えて、俺たちは帰路に着いた。
当面で必要な物は揃え終わったし、あとは明日から依頼に邁進して、減った貯蓄を取り戻さないとな。
とりあえず今日は、盛大にシャルロットに怒られるイベントがまだ残ってるけど。
「……しかしそんだけの荷物担いでるのに、全然平気そうだな」
俺と同じ冒険者ツールセットに、今日買い揃えた装備の類を全て背負っている割には、カナエの足取りは軽やかだ。
重さを感じていないかのように軽やかな足取りで、俺について歩く姿はかなり見た目に似つかわしくない。
見た目だけなら人形めいた美少女なので、厳つい大盾と武器を担いでいる姿が結びつかないという感じ。
「この倍はいける」
「まだ余裕あるのか……」
あの大盾だけでも大人の男性よりは重いはずだ。
それと同等か、下手したら重いであろう武器に、その他の装備重量を考えると、およそ200キロくらいの荷重がカナエにかかっているはずなのだが。
それの倍はいけるって……人間重機じゃん。
そこらの一般人なんて、素手でミンチにできるパワーだよ……。
「ただいまー……」
「おかえりなさいませ、ハイトさん」
宿の部屋に戻ってみれば、シャルロットが笑顔でお出迎えしてくれたのだが、支出が予定よりもかなり増えたので、それを報告しなければと思うと少し気が重い。
とりあえずは、カナエを紹介して気を紛らわせてみよう。
「いい人材がいたんで、即確保してきた。カナエだ」
「カナエ・サーノウ。よろしく」
「シャルロット・シヴィリアンです。よろしくお願いしますね」
シャルロットは無表情のカナエに特別反応するでもなく、にこやかに自己紹介を返している辺り、特別気になるような事は無いらしいな。
まあ、これで犬猿の仲だとかって話になってくると色々と話が拗れるから、ありがたいけどさ。
なんて俺が考えている間に、彼女はカナエの頭のてっぺんから爪先までを眺めて、くるりと俺の方を向く。
「カナエさんほどの人材と装備を揃えたとなると、結構な出費でしたよね。今の残金はいくらですか? それ次第で拠点の移動計画を修正しないといけません」
やっべ、予定以上の出費になってるのが見られただけでバレてる。
とはいえ、怒ったり不機嫌になっている、という風ではなく、ただ純粋に計画の修正が必要そうだから確認する、っていう感じだ。
「ええと、金貨が残り320枚ちょっと……デス」
特に責められているわけでもないのに、後ろめたい気持ちが勝ってしまって、ちょっとだけ言葉尻が弱くなる。
そんな俺を見て、シャルロットは軽く首を傾げた。
「でしょうね。それくらいかかっておかしくないくらいの人材と装備を揃えていらっしゃいますし。ですが、当座の生活費は十二分にありますし、二人で依頼をこなせるという事は、稼ぎが上がるという事ですから、心配もないでしょう」
あれ、怒られるかと思ってたら何も無かったでござる。
いやまあ、何も無いならそれに越した事は無いんだけどもさ。
「カナエさんは狭い場所でも大丈夫でしょうか? もし厳しいようならもう1つ部屋を借りますが」
「平気。どこでも寝れる」
「であれば追加の部屋は不要ですね。拠点移動するまでは狭くて不便かもしれませんが、ご容赦を」
俺が困惑している間に、シャルロットはてきぱきとカナエに話を聞いたり、帳簿を付けたりし始めている。
うーん、シャルロットが優秀すぎてありがたすぎるなあ。
そうだ、今度美味そうな屋台を探して買ってこよう。
何だかんだで食べる事が好きみたいだし。
あ、そうだ。
カナエの食費について話しておかないと。
これは先に話しておかないと、シャルロットがおったまげるやつだ。
「シャルロット、ちょっといいか?」
ちょいちょい、と手招きをすると、首を傾げながらも彼女はこちらに歩いて来てくれる。
近くに来たシャルロットに、カナエの食費についての話をごにょごにょと打ち明けていく。
当のカナエはと言えば、俺たちが何を話しているのだろう、といった感じで首を傾げていた。
「……なるほど。事情は把握しました。ですが、その辺りならいくらでもやりようがあります。幸い、高級な物以外は食べないなんて事も無いようですし」
「すまん、微妙にワケありな人材見つけちまって。面倒かけるな」
「気にしないで下さい。私はハイトさんのお役に立てるのが嬉しいですから」
その返しはずるいって。
某芸人のネタ的に言うと、惚れてまうやろー!
まあ、前世陰キャな俺にとっては、そんな勘違いなんてしようがないんですがね。
おおかた、命を助けられた恩を返したいとか、そんな所だろう。
その辺り、シャルロットってすごく義理硬そうだし。
「お腹空いた」
カナエの腹がぐぎゅるるるるる、と凄い勢いで音を立て始め、俺とシャルロットは苦笑いしながらカナエを見る。
そういえば、買い物したりなんなりで、もう夕食時だ。
ある意味、正確な腹時計だなあと思いつつ、三人で連れ立って食堂に降りていく。
そのまま三人で夕食を摂ったのだが、カナエの食事量が予想以上だったのか、少しだけシャルロットが青い顔をしていたような気がする。
まあ、そこは俺も頑張って稼いでくるようにするから、シャルロットも頑張ってくれ。
なお、カナエは夕食を計10人前は平らげて、女将さんや厨房の旦那さんにたいそう驚かれた。
そりゃあこんな大食い見たらおったまげるよなあ。
俺も開いた口塞がらなかったもんな。
とはいえ、それ以降は特に大きな問題が起こるような事も無く、各々風呂に入った後、夜にはベッドにシャルロット、床には俺とカナエがそれぞれ寝袋で並んで寝たわけだが、ラッキースケベやら何やらが起こるような事もなく、至って平和な朝を迎える事ができたのだった。




