ワケあり1人目⑰
今回は途中からシャルロット視点となっております。
ようやくシャルロットの内面描写を入れたわけですが……可愛く書けてるといいなあ(願望)
「今はそこまでお店も混んでいませんし、よろしければご一緒にいかがですか? その方が彼女さんもご安心されそうですし」
俺の後ろに隠れて出て来ないシャルロットを見て、店員さんが苦笑いでこちらを見る。
まだ背中をぽかぽかしている彼女を見る限り、どうにもさらなさそうなので、俺は覚悟を決めて女性服売り場に足を踏み入れる事にするのだった。
「……そうします」
「それでは、こちらにどうぞ」
店員さんの案内の元、女性服売り場へと突入していくと、言われていた通り、そこまで客数は多くない。
中には、彼氏や旦那さんであろう人と一緒に来ているカップルも普通にいる。
少しばかり神経質になりすぎていたのかもしれない。
「流石に下着売り場には入りにくいから、店員さんと行ってきてくれ。目の届く所にはいるから」
先に下着を選ばせようと思ったので、シャルロットに先に声をかけた。
目の届く所にはいる、と言ったのが功を奏したのか、渋々ながらも頷いてくれる。
さすがに女性下着売り場に行くのはハードルが高すぎるからな。
「それじゃあ、彼女をよろしくお願いします」
「はい。似合う物をオススメさせて頂きますね」
とりあえずは店員さんと一緒にシャルロットを送り出し、下着売り場近くのコーナーで、シャルロットに似合いそうな服を何となく見比べてみる。
下着売り場を直視しないようにしつつ、あまり離れてシャルロットが不安にならないような位置にいないといけないのが難しい所だ。
時折、チラ見で彼女の様子を窺ってみれば、特に人見知りしているわけでもなく、明るい表情で店員さんと色々な下着を見比べている様子。
あれ、人見知りしてたわけじゃなかったのか?
うーむ、よくわからん。
◆――――――――――◇
シヴィリアン公爵家の人間が処刑され、私だけがその難を逃れた後、ダレイス公爵の息子との婚約を迫られて、それを拒否した事で無理矢理奴隷にされてから、ウィクネ毒を飲まされた上で終末の奴隷商に引き渡された時、私はもう死ぬものだと思っていました。
全身を激痛が苛み、呼吸をする事すら億劫に思えてしまうほどの生き地獄。
このまま冷たい牢屋の中で死に、朽ち果てるのだろう、と全てを諦めた時。
ハイトさんが私を購入して、毒を治療してくれたのは、薄れゆく意識の中で把握していました。
それから、ことあるごとに、過保護とも言えるくらいに私の心配をしてくれて、それでいて、私を公爵家の娘としてではなく、シャルロットという一人の人間として扱ってくれて。
私は気付けば、ハイトさんという人に惚れ込んでいたのだと思います。
どこか、年齢不相応に達観していて、それでいて妙な肝の据わり方をしていて。
かと思えば、年相応の少年のような顔をしたりもして。
一言で表すのなら、不思議な少年というのがピッタリでしょうか。
私は昔から経験則である程度の予測を立てられたので、割とすぐにハイトさんの思考パターンを先読みできるようになりましたが、それでも次々と見た事の無い一面が出てきて、一緒にいるのが楽しいです。
この間は陛下と非常に親しい様子でしたし、本当に底の見えないお方ですね。
それでいて、私の素を引き出すのがとても上手いのも、驚きのポイントです。
一応箱入りとはいえ、公爵家の娘としての教育はしっかりと受けていましたし、これでも自分の感情や表情を隠すのは上手い方なのですが……なぜか彼と一緒にいると、みっともなく感情を剥き出しにしてしまう事が多くなっていて。
今日も一緒に買い物……つまりデートでは?
なんて想像をしたせいで、変な対応を取ってしまったため、ハイトさんを勘違いさせて一緒に買い物に行けなくなりそうになったかと思えば、すぐに私を放り出して店員さんに任せようとしてみたり。
もうちょっとこう、女心というものをわかってほしいのですが……。
「お客様はどういったデザインがお好みですか?」
「あっ!? ええ、やはり白系統の薄い色合いが好きですね」
物思いに耽っていたら、ハイトさんが私を気遣って付けてくれた店員さんの話を聞き流す所でした。
いえ、半分聞き流していますね。
デザインを聞かれているのに、色を答えてしまっているじゃないですか。
「……ぶっちゃけた話、彼氏さんの事、どう思っています?」
周囲に人がいない事を確認してから、店員さんが声を潜めて問うてきた言葉に、私は顔から火が出るのではないかというくらい、熱くなってしまいました。
私の一方的な片想いであって、まだ彼氏彼女の関係とかではないというか。
でも、一つだけ確かなのは、私の想いは一度棚に上げるとしても、ハイトさんと一緒にいるのは間違いないという事。
彼自身はあまり自覚していませんが、今回のダレイス公爵征伐に乗り出せた証拠を奪ってきたのは、一足飛びで伯爵位を賜る事すら視野に入る偉業です。
陛下の思惑と本人の希望で、法衣貴族という結果になりましたが、多分、ハイトさんはこれからも国に対する功績を上げ続けるでしょう。
そんな彼の傍にいる事ができれば、私も盤石なはず。
尤も、そんな打算など抜きにしても、彼から離れる事なんてあり得ないのですが。
「ええと、その……結婚できたらいいな、と思っています」
万が一にもハイトさんに聞かれてしまったら、もう二度と彼の顔を直視できない気がするので、ほとんど消え入りそうな声で店員さんの問いかけに答えましたが……店員さんは微笑ましいものを見るように微笑んでいますね。
「だったら、自分を女として、意識させたいですよね?」
まるで悪魔の囁きのような言葉に、私は頷くしかありませんでした。
正直な話、全く意識されていない、という事はないのでしょうが、強く異性として意識されている、というよりは保護対象として見られている、という感じですし。
「私に色々と任せてみませんか?」
箱入りで男女の機微にもあまり聡くない私としては、この女性店員の言葉が妙に頼もしく思えます。
どのみち私一人でどうこうしようとするよりは、勝率は高い気がしますね。
「よろしくお願いします」
「決まりですね。それでは、色々と調べましょうか」
え?
なんで何も持たずに試着室の方に?
なんで両手をわきわきさせているんですか?
なんか怖くなってきたんですが……!
「ひっ……」
私が悲鳴を上げる間もなく、試着室内に入った途端に一瞬で生まれたままの姿に剥かれ、それからは驚きの早業で身体の各所の数値を計られて、少し待っていて下さい、と声をかけてから、店員さんが試着室から消えていきました。
私はもう、茫然として床にそのまま座り込んでしまっていて。
「お父さま、お母さま、私はもう、お嫁にいけないかもしれません……」
これから起こる事が怖すぎて、私はただ祈る事しかできません。
もしかすると、私は地獄の門のようなものを開いてしまったのかもしれませんね……。




