幕間ワケあり1.3人目
「陛下、あれで良かったのですか?」
ハイトとシャルロットを執務室から帰し、警護に戻って来たクスティデル近衛騎士団長は、ぽつりと国王に問い掛ける。
書類を捌く手を止めず、ウィズリアル国王は顔を上げた。
「急いてはあやつは国を移ってしまうであろう。今は繋がりと関係を保てただけで充分だ。どの道、この国におる限り、あやつは何かしらの功績を上げ続ける。昇爵の機会はいくらでもあるだろう」
会話を続けながらも、ウィズリアル国王は次々と書類を捌いていく。
今や大半の官僚を解雇したため、国の業務のほぼ全てを彼一人で処理しなければならないのだ。
それだけダレイス公爵家についていた貴族は多く、死罪になった貴族家は、国内総数のおよそ3分の1にも及ぶ。
死罪とはせずとも、貴族としての地位の剥奪、国からの追放、強制労働等、諸々の処分を含めれば、今や健在な貴族家は国内総数の半分を優に割っており、どこもかしこも猫の手も借りたい状況であった。
おまけに、処分された大半が高位貴族であったため、特に国の運営に関わる人員は少なくなってしまっている。
「シヴィリアン公爵家の娘も、できれば政務を分担させたかったのでは?」
「そうさな。シャルロット嬢の能力を考えれば、喉から手が出るほどだ。だが、あの様子ではハイトの元から離すと潰れてしまうであろう。家族を失った、今の彼女の拠り所は、ハイトだけだ。だがまあ、あやつとシャルロット嬢が一緒にいるなら、こちらにとっても都合はいい」
「と、仰いますと?」
「没落してしまったとはいえ、彼女は貴族家の娘であり、その考えが根付いておる。彼女が傍らにおるのなら、ハイトが昇爵しても手厚くサポートするであろう。将来的には我々の仕事を分担させられる、という事だ」
「ハイトが聞いたら怒りそうですね」
「あやつは束縛を嫌うからな。だが、上手く乗せられればこの上なく有能だ。国王としては、あやつほどの逸材を遊ばせておくわけにはいかん。個人としては、好きに生きてもらいたいのだがな。だが、国王としての責務を全うすると誓ったからには、あやつにも巻き込まれて貰わなければ。無論、お前も盛大に巻き込まれてもらうぞ」
ハイトたちの話をしていた所で、予想していない所で自分に飛び火し、クスティデル近衛騎士団長は苦笑いを浮かべた。
「はは、妻と娘たちに愛想を尽かされない程度にお願いしますよ。いくら国に忠誠を誓っている身とはいえ、個人としての暮らしもありますからな」
「わかっておる。だが、向こう1ヶ月は殆ど休みは無いぞ。物理的に不可能だ。余なぞ1ヶ月はほぼ不眠不休、半年は休日無しだからな」
二人が気心知れた仲であるゆえに、言葉自体は軽い調子だが、会話内容のそれはブラック企業まっしぐらである。
どちらともなく会話を打ち切ると、各々の業務に取り掛かるのだった。
国という屋台骨を折って亡国とならないために。
亡国となって無辜の民が路頭に迷う事の無いように。