幕間 ワケあり1.2人目
短いですが、後の展開に繋がる補完部分になります。
「……にわかには信じ難いな」
リアムルド城内・王の執務室にて、部下からの報告を受けるウィズリアル国王は、わかりやすく顔をしかめた。
「とはいえ、オーゴのやつならやりかねんか……」
王家の遠戚でもあった、オーゴ・ダレイス公爵のしでかした事を聞き、あの男なら、と思い直しながら、ウィズリアル国王は無意識に顎へと手をやり、一旦考えを纏める。
「被害状況は?」
「恐らく冒険者であろう少年が、魔物と化したダレイス公爵を抑え、戦っていましたので、兵士と民間人への被害はゼロです。死刑囚は魔物と化したダレイス公爵に吸収され、全員が死亡したものと思われます」
一般人に現場を任せ、避難したという報告を聞いて、ウィズリアル国王は静かに、それでいて大きく息を吸い込む。
「バカ者! なぜ兵士が戦わずに逃げておる!?」
王からの叱責に、報告を行っていた男はビクリと身体を震わせた。
「現場はダレイス公爵の魔物化により、パニックが起きておりました。処刑場の警備という事で、部隊長クラスの指揮官が不在だったため、統率を取れる者がおらず……」
「なぜそのような人員配置が行われておる!?」
「ダレイス公爵に連なる者を検挙した影響で、兵士だけでなく、各部署で深刻な人手不足が発生しております」
何を問おうとも、返ってくる答えが悉くしょうもないもので、ウィズリアル国王は溜め息を吐く。
「……もう良い。報告は書類に纏めておけ」
これ以上の問答をしても仕方がない、と判断し、部下を下がらせると、再びウィズリアル国王から大きな溜め息が漏れる。
「まさか、ここまで内を蝕んでいたとはな。気付かぬ余もだが、なぜ他のヤツらはこのような状況になっても危機感が無いのか……」
ただ病巣部分を取り除いただけで、国としての能力が著しく低下していた。
それだけ深くに病巣があった、という事なのだが、信頼できる部下が少なすぎる。
「この際、贅沢は言ってられんな」
いくばくかの逡巡の後、覚悟を決めた表情のウィズリアル国王は、執務室を出て、玉座の間へ向かう。
「どうかさなれましたか?」
執務室付近の警護に当たっていた、クスティデル近衛騎士団長が、国王の姿を見て声をかける。
特別出かける予定は無かったはずだ。
「決めたぞ。余はこの機会に国の大改革を行う。しばらく大変だとは思うが、付き合ってもらうぞ」
「御意に」
この直後、後の世に語り継がれる、改革の大号令が行われるのだが、その事をまだ誰も知らない。