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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり1人目⑫

「魔力ばっかり余っててもな……」


 距離を取り、こちらの様子を窺っている死霊高位騎士(デスパラディン)を睨みつつ、小さな声でぼやく。

 戦技(アーツ)は魔術師の魔力量から言えば、さして魔力を消費しないため、俺の場合は装備で補強されている分も含め、自然回復で間に合ってしまう。

 それゆえに、完全に魔力を持て余していた。

 杖という出力装置が無ければ、魔術を発動できないのは、魔術師の弱い所である。

 遥か昔は杖が無くとも魔術を使えたという歴史があるが、どういう経緯で杖が必要になったのか。

 全く不便でしょうがない。


「……ん?」


 右手に握る剣から、微弱ながら魔力を吸われている感覚があった。

 今まではこんな事は無かったはずだが……とはいえ、今は持て余しているだけの魔力に使い先ができた、とも言える。

 封じられた剣が覚醒するきっかけになるのなら、この状況を打開する事もできるかもしれない。

 俺の魔力、たらふく食わせてやるぜ。


『何をしている? ただの剣に魔力を注いだ所で、ただ剣が壊れるだけだろうに』


 俺の行動が理解できなかったのか、死霊高位騎士はこちらに近付くでもなく、逃げるでもなく、ただ様子を見守っている。

 そうだよな。

 己の保身に敏感だからこそ、一見意味の無さそうな行動も、油断を誘う罠かもしれないと、疑ってかかる。

 だが、その悠長さが、お前の命取りだ、クソ親父。


「ありったけ、持っていきやがれ!」


 意識を保っていられるだけの最低限の魔力を残し、その全てを封じられた剣に全賭け(オールイン)だ。

 魔力量だけは相当な量があるはずの俺の魔力を、残さず喰らい尽くした所で、封じられた剣が眩い光を発した。

 閃光に目を灼かれるも、特に死霊高位騎士に襲われる事もない。

 光が消えたであろうタイミングを見計らい、恐る恐る両目を開いてみれば、雨の止んだ、夜の景色が広がっていた。

 あれ、そんなに長時間戦ってたっけ?

 そんな疑問を浮かべた所で、右手に握る剣の存在感が増しているのを感じ、思わず目の前に剣を掲げてしまう。


「剣が……変わってる?」


 全体的な形、長さ、重さは一切変化が無いが、不思議と安心感を覚える感じだ。

 どういった素材で作られているのかは不明だが、剣身は全体的に薄らと月のように輝いており、ごく薄い黄色で彩られた剣身は、とても幻想的でありながら確かな力を感じさせ、鍔元には青緑色の宝石のようなものが嵌っている。 

 俺の魔力で封印が解けた……って事なんだろうけど、何でだ?

 そんな状況ではないはずなのに、思わず目の前の剣を鑑定してしまう。


―――――――――


月光剣・ルナスヴェート


一人のエルフ鍛冶が月魔術を籠めて打った最高傑作のうちの一本。

魔術と祈術(きじゅつ)の触媒としての機能を持ち、剣としても高い性能を併せ持つ。

愛する者のために打たれた一本だが、その者がこの剣を握る事は無かった。

対となる剣が存在し、この剣を握る者には、いずれその所在を知らせるだろう。


―――――――――


 月光剣・ルナスヴェートね……。

 魔術の触媒にもなる、という事は、この剣一本で、戦技、魔術、魔戦技(マジックアーツ)の全てを扱えるという事だ。

 祈術にも使えるようだが、俺はあまり祈術には明るくないので今は置いておく。

 とはいえ、とんでもなくすごい剣なのは間違いなく、こいつが逆転の一手になる事は疑いようもない。


『一体何だ、その剣は……』


 ルナスヴェートを見た死霊高位騎士は、明らかに動揺していた。

 A級越えの魔物が恐れる剣とは、相当なものだろう。

 すなわち、俺の勝ちの確率がグッと上がったって事だ。


「呆けてんなよ、クソ親父!」


 どこか身体が軽く感じ、俺は距離を取って様子を窺っていた死霊高位騎士に猛然と襲い掛かる。

 動揺していようとも、しっかりと攻撃に反応してくるのはさすがと言わざるを得ないが、俺の一撃は、死霊高位騎士をよろめかせた。

 いける。

 手応えを感じ、次々と連撃を繰り出す。

 先ほどまでは俺の方が防戦一方だったというのに、一気に形成が逆転している。

 惜しいかな、魔力が残っていれば一気にカタを付けられたのに。


『くっ、私はまだ死ぬわけには……』


「いっぺん死んでる身だろうが!」


 一度大きく死霊高位騎士の剣を弾き、その隙に騎乗している馬の首を斬り落とす。

 首を落とされた馬は棹立ちになってその場に倒れ、騎乗していた死霊高位騎士は地面に投げ出された。

 地面に投げ出されながらも、死霊高位騎士は漆黒の鎧をガシャガシャとけたたましく慣らしつつ、すぐに体勢を立て直す。

 当然、俺はそのまま追撃をかける。


『この私が! 王になるはずの選ばれた人間が! こんなガキ一人に!』


 往生際悪く、必死に斬り結ぶものの、徐々に死霊高位騎士を押していく。

 勝利の時は、すぐそこに迫っていた。


「知ってるか? 死人に口無しってな!!」


 渾身の一撃。

 防ごうとした剣諸共、死霊高位騎士の首を斬り飛ばす。

 とはいえ、それだけで死ぬとも思えなかったので、滅茶苦茶に鎧を斬りまくる。


『なぜだ!? なぜ私は敗者になった!? 私は強い……は……ず……』


 滅茶苦茶に攻撃しまくった攻撃のうちどれかが急所を捉えたのか、首を落とした時点でケリが付いていたのか、そのどれもが定かではないが、死霊高位騎士が灰のように崩れ落ち、消えていく。

 その全てが消滅するのを見届け、大きく息を吐いた。


「何とか終わった……」


 緊張の糸が切れたのか、斬られた傷が激しく痛みを訴えてくる。

 大丈夫、まだ死ぬほどじゃない……ハズ。

 ヤバい、視界が霞む。

 血を流しすぎたか……。

 魔術で回復しようにも、魔力がそこまで回復していない。

 思考にも靄がかかってくる。

 ダメだ、まだ死ぬ、ワケには……。


「あれ……夜じゃ、なかったか……?」


 よたよたと数歩ほど歩き、風景が夜ではなく、夕方手前くらいになっているのに気付く。

 何が、一体どうなってるんだ……?

 まさか、今までの話、全部、夢オチ……?

 そんな事……あるか?

 ダメだ、思考が纏まらない……。

 意識も、遠のいて……。

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