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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり1人目⑪

「観衆の皆さんは早く避難して下さい!」


 警備についていた兵士が避難誘導を始め、観衆たちはかろうじてパニックを起こさずに避難を始めた。

 俺はその避難の波に入らず、逆に処刑場の中心に向かって進む。


「雨……?」


 曇っていた空から、急に大雨が降り始める。

 まさしく土砂降りというのが相応しく、瞬く間にズブ濡れになってしまう。

 肌に張り付く服を鬱陶しく思いながらも、処刑場の方に進んでいく。

 間もなく処刑場の中心部が見える、といった瞬間、眩い閃光が目を灼く。

 反射で目を閉じ、咄嗟に両手で耳を塞ぐ。

 直後、爆音が身体を揺らす。

 耳を塞いでいなかった人は、もしかすると鼓膜が破れてしまったかもしれない。


「こんな至近距離で雷が落ちるなんて、絶対にロクでもねえ事だよな……」


 閉じていた目を開け、耳から両手を外す。

 すると、そこには落雷が直撃したであろう、処刑台が燃え上がって(・・・・・・)いた。

 土砂降りの雨は降り続いているのに、だ。


『……ふむ、与太話と思っていたが、存外馬鹿にならぬものだな』


 聞き覚えのある声が、直接脳内に語りかけてくるかのように響く。

 同時に、燃え上がっていた処刑台と、転がり落ちて燃えていたクソ親父の首が、青い炎となり、それが一つに集まる。

 処刑台を覆うほどの大きさだった炎は、徐々に小さくなりながら、その形を変えていく。

 最終的に、処刑台の上に立つ騎乗騎士のようなシルエットへと変化していった。


死霊騎士(デスナイト)……いや、死霊高位騎士(デスパラディン)か!」


 俺がその正体に辿り着くと同時に、炎が弾けるようにして散る。

 そこには、騎乗した鎧騎士が顕現していた。

 ただし、馬は鬣と尻尾が青い焔だし、漆黒の鎧騎士も中身が青い焔なので、人間でないのは一目瞭然だ。


『……なるほどな。貴様が今回の件に噛んでいたか』


 鎧騎士の頭が俺の方を向き、ないはずの目玉が真っ直ぐに射抜いてくるような感覚がある。

 どうやら、俺の存在に気付いたらしい。


『やはり、生かしておくべきではなかったか。だが、まあいい。人間の肉体を棄てた今となっては、些末な事だ』


 漆黒の鎧騎士が、腰にある剣を抜く。

 その剣を頭上高く掲げると、騎乗している馬が嘶き、周囲に怨念が渦巻いた。

 死霊高位騎士が、正しくその力を振るえばどうなるか。


「ダレイス公爵! 我々はあなたについていき――」


 クソ親父の次に処刑される予定だった貴族が、媚びようとした瞬間に青い炎に呑み込まれ、やがて灰すら残さずに死霊高位騎士へと吸収されていく。

 一人目の貴族が燃え上がった瞬間に、今まで状況を呑み込めていなかった観衆たちは、自らの命の危機を自覚し、パニックが巻き起こる。

 押し合い、口々に争いながらも、我先にと処刑場から逃げ出していく。

 その間にも、死刑囚たちが次々と死霊高位騎士に取り込まれていった。


「すぐに最上位の浄化魔術か祈術(きじゅつ)を使える人を呼んで下さい! 死霊高位騎士をこのままにしておけば、王都に未曾有の被害が出ます!」


「は、はい!」


 俺の近くで呆けていた兵士に声をかけると、我に返ったように動き出す。

 なんで無関係の子供がいるのかをツッコまずに動き出す辺り、相当パニックだったのだろうが、俺にとっては都合がいい。

 とにかく、あの死霊高位騎士をこの場に押し留めておかないと。

 ……いや、押し留めるだけじゃダメだ。

 今や離縁しているとはいえ、身内の恥である。

 俺がケツを持つのが筋というものだろう。

 まあ、万が一、俺がヤツに敵わずに死んだとしても、増援は来るはずだ。 


「剣しか持ってきてないが……まあ、何とかするしかない」


 まさか本格的な戦闘になるとは思っておらず、今日は装備が封じられた剣のみ。

 実質、魔術と魔戦技(マジックアーツ)を縛った状態で戦わなければならない。

 今から装備を取りに戻ったとて、クソ親父がこの辺りの人間を殺しつくした上で、どこかに消えてしまっているだろう。


飛刃(ひじん)!」


 魔力を籠めた剣を振り抜き、三日月状のカッターを真っ直ぐに飛ばす戦技(アーツ)で、死霊高位騎士に先制攻撃をかける。

 離れた場所からの先制攻撃は、死霊高位騎士の剣一振りで破壊されてしまい、有効打にはなり得なかったが、意識を俺に向けさせる事には成功した。


『大人しく逃げておれば良かったものを。自ら死にに来るとは』


「そっちこそ、死んだなら大人しく死んでおけっての。ったく、死んでもなおハタ迷惑な野郎だ」


『……ほう、言うではないか、青二才が』


 俺の挑発が気に障ったのかは定かではないが、死霊高位騎士は馬を嘶かせながら処刑台から飛び降り、地面に降り立つ。

 既にこの場にいた死刑囚は全員がヤツに取り込まれており、明らかに力が増しているようだ。

 とはいえ、自ら取り込まれる事を望んだ連中は助けられない。

 それほどに、死霊高位騎士は死を力としている。

 少なくとも、冒険者で言えばA級上位クラスの危険な魔物だ。

 どういうカラクリかは不明だが、生前の自我を持つ死霊高位騎士ともなれば、その危険度は計り知れない。

 けれど、俺はこいつを倒さなければならないのだ。

 それが、ケジメだから。


「その首、もう一度叩き落としてやる!」


『逆に貴様を殺して取り込んでくれるわ!』


 俺が死霊高位騎士に向かって駆けるのと同時、ヤツもこちらに向かい、人馬一体となって駆けてくる。

 合流地点で剣を交えてみれば、重く、鋭い一撃が俺の剣を打つ。

 僅かに右手に痺れを感じつつも、一撃を逸らし、反撃を振るう。

 しかし、馬を巧みに操りつつ、俺の一撃を躱した死霊高位騎士が更なる一撃を加えにかかる。

 二合、三合と剣を交え、お互いに有効打の無いまま、一度距離を取った。


『この程度か?』


「まさか。そっちこそ、お仲間を取り込んでそんなもんか?」


 口では強がってみたものの、正直な所で言えばだいぶ厳しい。

 剣技は同等かヤツの方が少しばかり上。

 それ以上に馬の存在が厄介だ。

 後ろを取ろうとすれば後ろ足での蹴りが来るし、正面や側面で戦っていても、隙あらば頭を振って頭突きをかまそうとしてくる。

 まさしく2対1の戦いであった。




……

………




「くそ……このままじゃこっちの体力が保たねえぞ……」


 豪雨の中、しばらく死霊高位騎士と斬り結んでいたが、有効打は一回も与えられず、逆に俺の方が細かいダメージを負わされている始末である。

 おまけに息も上がってきていて、このペースだとあと30分保てばいいところか。

 既に処刑場には俺と死霊高位騎士以外の人間はおらず、ジリ貧だ。

 援軍を待つにも、多分こっちの体力が尽きるのが先だろう。

 長短杖(ロッドワンド)を持ってきていなかった事が、ここまで響くとは。


『よく耐える。そうだな、一度だけチャンスをやろう。私に刃向った事を悔い改め、忠誠を誓うと言うのなら、慈悲を与えようではないか。その年齢でこれだけ戦えるのなら、ここで殺してしまうのは少しばかり惜しい』


「ハッ、お断りだ!」


『そうか。ならば、死ね』


 死霊高位騎士と俺の距離が、ほんの一瞬で消え去った。

 視界に、振り下ろされる剣が見える。

 防御は、間に合いそうにない。

 咄嗟に、反射で後ろに跳ぶものの、鋭い一撃を躱しきる事は叶わなかった。


『ほう、躱したか。無傷ではないようだが』


「クソッ、このままじゃ……」


 左の肩から右腹部の辺りまでを斬られ、少なくない血が流れ出す。

 幸い、内臓にまでは傷が届いておらず、即死する事は無さそうだ。

 とはいえ、処置が遅れれば出血多量で死ぬだろうが。

 死の足音が聞こえてきたような気がして、内心の焦りが強まる。

 こんな所で、俺は死ぬわけにはいかない!

 天寿を全うするまで、死んでいられるか!


「おおおおおおおおっ!」


 雄叫びを上げつつ、追撃の剣を弾き返す。

 失血死する前に、どうにか終わらせないと。

 焦りを心の奥に押し込めつつ、どうやって状況を打開しようか頭をフル回転させていく。

 死霊高位騎士は、初めて攻撃を弾き返されたからか、警戒して少し後ろに下がっていた。 

 何か、この状況を覆す何かがあれば……。

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― 新着の感想 ―
公爵は素直に退場させておくべきでしたね モンスター化させて復活させるとかいう展開が蛇足ですし、その悪役に主人公が苦戦する展開も誰も望んでいません 悪役の使いまわしも、主人公の苦戦展開も蛇足でテンポが悪…
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