ワケあり0人目③
「腹も満たしたし、とりあえず買い物だな、と」
冒険者ギルド併設の食堂で遅い昼食を摂ってから、俺はギルドの武具屋に足を延ばしていた。
外の鍛冶屋とか武具屋とかでもいいんだが、ギルドならとりあえず一定以上の品質は担保されているので、当面の間……少なくとも見習い期間の間は変にいい装備をする必要もないしな。
初心者のクセにいい装備をしていたら、詐欺に遭ったりカモられたりと、ロクな事にならないだろう。
「らっしゃい」
ギルド武具屋の部屋に入ると、店番をしていたのは30代くらいのおっさんだった。
無精ヒゲが目立つ、ぶっきらぼうな感じの職人っぽい出で立ちで、ギルドの制服を着ている。
「置いてある商品は触っても大丈夫ですか?」
「壊さなきゃ触っていいぜ。壊したら弁償してもらうがな」
「ありがとうございます」
おっさんの了承も得たので、色々と商品と物色する。
とりあえず、俺の戦闘スタイル的に必要なのは、メイン武器である剣と短杖、サブの弓矢と短剣辺りだろうか。
ゆくゆくは他にも揃えていきたい所だが、現状ではあまり欲張って資金不足にならないようにしたい。
差し当たっては武器を4種類用意しておけば、そうそう困る事はないだろう。
「ん~……これは微妙、こっちは少しいいやつ……なかなかしっくり来るのが無いな」
初心者用という事で、空樽に雑多に放り込まれている剣を物色していく。
手に取って覚醒能力を使い、情報を読み取りながら掘り出し物を探す。
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鉄のロングソード
ありふれた量産品。
特殊な能力などはないが、長めの剣身は状況対応力が高く、扱いやすい。
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鉄のショートソード
ありふれた量産品。
特殊な能力などはないが、短めの剣身は少し軽く、取り回しやすさに優れる。
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鉄のブロードソード
ありふれた量産品。
剣身を肉厚にして耐久性を上げる代わりに、一般的な剣と比べて少々重くなっているため、十全に扱うには、より筋力が必要。
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鉄のシャープソード
ありふれた量産品。
剣身を薄くして斬れ味を良くした代わりに、一般的な剣と比べて耐久性が低くなっているため、十全に扱うには、より技術が必要。
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基本的にはこの4種類が雑多に放り込まれている、という感じだ。
重さの部分では特にどれを選んでも影響はないので、取り回し、耐久性、斬れ味、どれか一つを選ぶか、平均を選ぶか、といった所。
「ん? これだけ何か違うな……」
どうせなら、と思い、樽の中の剣を片っ端から確認していると、およそ8割程度を確認し終えた辺りで、手に持っただけで何か違う感覚のする剣があった。
違和感の正体を知るべく、手に取った剣に覚醒能力を使う。
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封じられた剣
見た目は一般的な剣に似せられているが、大きな力を封じ込められた剣。
封じられた状態でも、剣として最低限の機能はある。
封印を解く事ができれば……。
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めっちゃ意味深な事が情報として書かれている。
というか、覚醒能力……もう鑑定でいいや。
鑑定するたびに、鑑定した物品にフレイバーテキストみたいな説明あるのなんなんだよ。
いやまあ、それでこの剣見つけたけどもさ。
俺がゲーム脳すぎるせいで、鑑定能力もゲームっぽくなったのかね?
「ま、剣はこれにするか」
他にめぼしい物も無さそうだし、あまり時間をかけすぎると宿を取る時間が無くなってしまうので、サッサと回ってしまおう。
次に見たのは短杖。
これはあれこれ見ても特に掘り出し物を見つけられなかったので、一番魔力変換速度の高い物を選ぶ。
続いて取り回しやすい小弓と、矢の100本セット。
短剣も特にめぼしい物を見つけられなかったので、採取などの雑事に使うナイフ、料理用ナイフ、解体用の大型ナイフ、戦闘用ダガーの四本を選んだ。
とりあえず、武器はこんなものだろう。
「防具……は動きやすければ何でもいいか」
14歳だからまだ身体も成長するし、とりあえず間に合わせで、サイズ調整のできる革の防具一式の一番安いヤツを選び、カウンターに持って行く。
「お前さん、冒険者登録したばかりか?」
「今日登録して初回講習を受けたばかりです」
俺がカウンターに持ち込んだ商品を検めながら、おっさんがぶっきらぼうに聞いてきた。
別に隠す事でもないし、初心者感丸出しだろうから、そう聞かれたのだろう。
「だったらあっちの新人用グッズ一式も買ってけ。そこそこ値は張るが、長持ちするし、他にも買うならいくらか値引きしてやる」
おっさんが指差した先には、新人冒険者スターターセット、というPOPが掲示されたコーナーがある。
俺は言われたまま、新人用グッズ一式を手に取った。
大きなリュックに必要な道具が詰め込まれた形のもので、売り場には内容品一覧を確認できるPOPが張られている。
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冒険者ツールセット
運搬用リュックに、冒険者の必須道具が一式詰め込まれた一品。
リュックには以下の道具が入っている。
・採取ツールセット
・調薬ツールセット
・調理ツールセット
・裁縫ツールセット
・修理ツールセット
・加工ツールセット
・キャンプセット
・防寒マント
・防毒マスク
新人冒険者向けの道具がこれでもかと詰め込まれている。
一つ一つの質も良く、売れても大赤字確定。
初期投資で新人冒険者が生き残るなら、安いものである。
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「ありがとうございます。これも下さい」
間違いなくお買い得商品であったので、俺は新人冒険者用セットを追加でカウンターに置く。
それを見たおっさんは少しだけ口元を緩めた。
「まいどあり。そっちを買うならこれとこれとこれはいらんな。もっといいのが中に入ってる」
そう言って、おっさんは俺が採取用、調理用、解体用で購入しようとしたナイフ三本を避ける。
そうか、一式セットだから中に入ってるのか。
完全に盲点だったな。
「剣に短杖、小弓と矢、短剣に革防具一式と新人セット一式だな。お前さん、一体どこの役割だ? 見た感じ
だと偵察役が一番近いが」
「一人行動が多くなると思うので、過不足なく揃えておこうかと。どの武器も扱えますし、このくらいの量なら携帯してても問題ありません。メインは剣と短杖ですね」
「となると魔術剣士か。短杖を使うという事は、前衛寄りの魔術剣士だな」
俺の話を聞いて、おっさんは俺のスタイルを的確に見抜いてきた。
俺は魔術も近接戦闘も、過不足なく平均以上はこなせるのだが、特化型ではない。
手札を多めに握っておいて、その時に最適な手札を切れるようにするタイプだ。
「現時点でこれ全部の値段が金貨8枚……いや、6枚だな。で、相談だが、予算はいくらある?」
おっさんが俺を値踏みするような目線で見る。
予算次第で何かいいものをオススメしてくれるのだろうか?
これから宿を長期滞在で取る必要があるし、食費やら何やらを考えたら、少なくとも金貨80枚は残しておきたい。
とはいえ、金貨20枚という大金をこんな子供が持っていたら、詐欺めいた事に嵌められかねないしな。
……いや、そもそもこんだけ大口の買い物をしてるんだ。
それなりの予算があるのは少し考えればわかる。
だったら、ふっかけられすぎない程度にしておけばいいか。
「そうですね……一応決めていた予算は金貨10枚ですが、出そうと思えば15枚くらいまでなら何とか」
「最大は金貨15枚だな。わかった。少し待ってろ」
そう言って、おっさんは一度奥の部屋に引っ込んで行った。
一体何をオススメしてくれるのだろうか。
まあ、仮にぼったくろうとしても俺は鑑定ができるから気付けるし、そもそもギルド職員が詐欺まがいの事をやったら大問題である。
まだ時間もあるし、一体どんな物を持ってきてくれるのだろうと、少し心を弾ませながら、おっさんが戻るのを待った。