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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり10人目㉒

「あの感じ、物理は相当に通りが悪そうだな……まあ、爬虫類なら冷やすのが鉄板か」


 あれを爬虫類とカウントしていいかは不明だが、爬虫類と仮定するなら体温が下がれば動きが鈍るはず。

 ともあれ、試してみる価値はあるだろう。

 ダメならダメで次を試せばいい。

 どういう流れであの巨大コブラを処すか、考えつつ1の矢となる魔術を構築していく。

 

凍える氷獄(コキュートス)


 俺が魔術を放つ直前に、近くにいたカナエとジェーンがバラバラに巨大コブラから離れ、どちらを追うかで巨大コブラが動きを僅かに止める。

 その瞬間には、ヤツの周囲の空気が絶対零度にまで下がり、一瞬で凍り付く。

 一瞬で凍り付いた巨大コブラだったが、果たして倒せているのかがすぐにわからない。

 しばしの間、緊張の時間が流れる。


「えい」


 いつ巨大コブラが動き出すか。

 そんな緊張感に満ちた時間は、やる気の無いカナエの声で終わりを迎えた。

 数分間、動きの無かった巨大コブラに、カナエが自分の得物を叩きつけたのだ。

 声からして適当そうに振るわれた一撃だが、カナエの得物は軽く100キロ近い化け物じみた重さなので、その威力は推して知るべしである。

 で、カナエが凍り付いた巨大コブラを殴った結果どうなったかと言えば、粉々に砕け散った。

 どうやら、しっかりと芯まで凍り付いていたらしい。

 拍子抜けな気がするが、物理的に硬かった分、魔術には弱かったという可能性もあるか?


「カナエのやつ、何やってんだ?」


 砕け散った巨大コブラの破片の山を、ごそごそと何かを探すように漁るカナエ。

 カナエの奇行には目もくれず、他の兵士たちは周辺の安全確認や撤収準備に入っている。


「リシア、あれでいいのか?」


 思わず、全体に指示を飛ばしているリシアに声をかけてしまったが、彼女からは好きにさせておけ、とにべも無く返されてしまう。

 カナエが何の意味も無い行動をしているとは思わないが、それを理解できるかと言えば別の話で。


「ぶふぇっ!?」


 全体の指揮はリシアに任せながら、俺はチラチラとカナエの様子をていたのだが、彼女が凍った巨大コブラの残骸から、1人の人間を掘り起こしたのを見て、思わず吹き出す。

 当然、いきなり吹き出したもんだから、周囲の目線が俺に集中する。

 自分でやらかした事とはいえ、恥ずかしさで顔が熱くなった所に、ててて、とさっき掘り起こした人間を頭上に掲げたままカナエが戻ってきた。

 相変わらずの無表情だが、どこからかガラクタを拾ってきて、尻尾を振りながら褒められ待ちの駄犬に見えるな……。


「生きてる人見つけた」


 べしゃっ、と俺の前に頭上の人間を放り出すと、そのままカナエはそこかに走り去っていく。

 仮にも病人みたいなものなのに、随分と扱いが雑じゃねえ?

 なんて問い質すヒマも無かったので、とりあえず放り出された人間の様子を見ると、見覚えのある人物だった。


「聖女、だよな」


 以前、教国に来た時の会議の場で、何も知らずに俺たちが悪だと信じていた、あの温室育ちの聖女様だ。

 今は意識が無いようだが、呼吸はしていて血色も悪くない。

 どういう経緯でこの場にいるのかは不明だが、考え得る原因としては、あの巨大コブラの触媒やら素材やらにされてたけど、命がたまたま助かった、といった所だろうか。

 それだと俺の魔術で凍ってないのは説明が付かないが、大筋は間違ってない気がする。


「生存者がいると聞きました! どちらに!?」


 バタバタと足音が聞こえてきたので、顔を上げてみれば、カナエがオルフェさんを引き連れて戻ってくる所だった。

 確かに、今の状況なら彼女に診せるのが一番手っ取り早いな。

 けど、確か拘束した村人診てるはずだったな、オルフェさん。

 まあ、急を要するのはどっちかと言えばこっちなのは間違い無いから、とりあえずはいいか。


「こっちだ! 頼んだ!」


 とりあえずオルフェさんに聖女を任せ、俺はカナエの手を掴んでその場を離れる。

 彼女は特に抵抗も無く、されるがままに俺と一緒についてきたが、ある程度人目から離れた所で、俺はカナエにデコピンをした。

 パチリ、と小気味いい音がしたが、当の本人は全く動じていない。

 まあ、彼女の頑健さからしたら、俺のデコピンなぞ虫が這ったようなものだろう。

 むしろ、全力でデコピンなんてしようものなら、ダメージを受けるのはこっちなのだが。

 当然というべきか、デコピンをされたカナエは、ただ首を傾げるのみ。


「カナエ、もうちょっと順序ってもんを理解してくれ。色々と最短の方が良かったのはわかる。けどな、周囲の見え方とか、色々と問題あるんだよ」


 俺を顎で使ったのもそうだし、指揮系統を無視して直接オルフェさんを連れ出した事もそうだ。

 幸い、リベルヤ家の関係者しか現場にいなかったから、いつもの事かーで済むのだが、これが帝国や連合国の人がいる前だと問題なのである。

 貴族という面倒なしがらみのせいと言えばそうなのだが、だからこそ体面というのが大事になってしまう。


「……難しい」


 元より、貴族のしきたりといった知識の無いカナエには、俺の言う事を理解するのは難しいようだ。

 無理も無い話ではあるのだが、はいそうですかと許すわけにもいかないのが俺の立場。

 うーん、難しいね貴族って。


「それがカナエの良さってのはわかるんだけどな。俺が貴族である以上は、これは譲れないんだよ。悪いけど、こればっかりはそっちに譲歩してもらうしかない」


 逆に言えば、言いつけた事を守れないのなら、人目に付く仕事には出せない。

 別にクビにするつもりはないが、カナエを屋敷の警備とかに回す事になってしまう。

 はっきり言ってできない事は無いだろうし、最強の門番になる。

 けど、能力を考えるとそれはもったいなさすぎるのだ。


「……わかった。言う通りにする。ハイトの側から離れたくないから」


 肩を落として、見るからにしょんぼりした様子のカナエ。

 多分、生存者を見つけて褒められると思っていたんだろうな。

 けど、状況が状況だからみんなの前で褒めるわけにもいかない。


「みんなの前では褒められないけど、生存者を見つけてきたのは誇っていいぞ。俺は気付かなかったからな」


 念のため、とフォローを入れてみれば、しょんぼりしていたのが嘘のように、足取り軽く去っていく。

 うーん、なんというか、チョロいな。

 とはいえ、これは彼女が俺に好意を持っているから成り立っているのだ。

 それを無碍にはしたくないし、今後も上手い落としどころを探していくしかないか。

 能力はあるだけに、運用が難しいな、と思いつつも、俺は事態の収拾に当たるのだった。

今回でワケあり10人目は終了です。

次回からワケあり11人目に入りますのでよろしくお願いします。

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