ワケあり10人目㉑
「聖女の威光を恐れぬ愚か者どもめ! 貴様らなど棺桶に入れて送り返してくれるわ!」
決戦当日。
旧教国派が潜むと目される辺境の村が残す所あと2つとなったので、俺とヴァルキア代表はそれぞれ軍を分け、俺たち王国の戦力100人と、連合国戦力100人で、それぞれを同時攻撃する事となった。
その上で、残る連合国の騎兵100人には、敵の討ち漏らしと増援の警戒のために件の村2つを包囲して警戒に当たらせる。
それが今回俺たちが取った作戦の形だ。
で、俺たちが踏み込んだ村なのだが……。
「当たりっぽいな」
「だろうな。向こうが外れなら、連合国軍100人が後詰めで来る事になる。負ける要素は無いだろう」
武装した村人が、俺たちに向かって武器を構えて威嚇してきている。
そんな村人を見て、俺とリシアは顔を見合わせた。
「さて、とりあえず大人しくしてもらうか」
多少武装していようが、所詮は素人の集まり。
リシアの鍛え上げた精兵たちは、真正面から村人たちを無力化して拘束していく。
最終的にどうするかは決まっていないが、どうせ旧教国派に唆されたのだろうし、一旦大人しくしてもらって、それから洗脳を解くなりなんなりすればいい。
開戦、といってもいいかどうかわからないが、戦端が開かれてから30分もしないうちに、俺たちは村の内部に足を踏み入れていた。
「大人しく降伏しろ! そうすれば命までは取らない!」
最後となる、村長の家に立て籠もった連中に向けて、降伏勧告を送る。
「控えなさい! 他国の軍が教国を侵すなど、教えに背きますよ!」
降伏勧告に対し、彼らが取った行動は、家の中から声を返してくるのみ。
これは強制突入もやむなしかね。
幸いと言っていいのは、人質を取られたりしてはいない事だ。
無力化して拘束した村人たちは、未だ興奮して暴れようとしているが、全員縄でふんじばって物理的に動きを封じているので、横槍が入る心配も無い。
俺たちの勝ちは、揺るがないように見えた。
「教えの祖たる竜よ、母なる大地よ、我々に祝福を!」
祝福。
その言葉に、俺はどこか薄らと寒さを覚える。
こういう狂信者のような相手の言う祝福って、ロクなものじゃないんだよな。
そんな事を考えていたら、包囲していた村長宅が弾け飛び、土煙を上げながら、何かの影が浮かび上がる。
「総員一時退避!」
どことなく、イヤな予感がしたので、俺は即座に包囲の兵士を後ろに下げた。
兵士たちは即座に後退し、何かがあってもすぐに動けるように身構えつつ、未知の存在に対して警戒を解かない。
「我々ハ、竜と一つニ……」
人と何かが混ざった、独特の声を発しながら、謎の影がその姿を白日の下に晒す。
それは、醜悪な怪物であった。
「なんだこれ……キモいな」
村長宅を廃墟に変えつつ、鎌首をもたげたのは、巨大なコブラのような蛇。
ただし、首元の襟の部分には、人間の顔が浮かんでいる。
まず間違いなく、大聖堂地下のおぞましい研究の産物である事に間違いは無いだろう。
「神ガ与え賜ウた神聖ナる姿ニ、何たル侮辱だ!」
襟の部分に浮かんだ顔から言葉が発されている。
どうやら、人格の部分は独立しているらしく、巨大なコブラの方は舌をチロチロとさせながら、その巨体を持ち上げた。
全長は多分、10メートル近いだろうか。
胴体の太さは軽く1メートルを越えており、人間など簡単に一呑みにしてしまうだろう。
「あたしとカナエ以外は全員退避しろ! アレはそういう類の怪物だ! メインはあたしらでやる!」
かなりの精兵とはいえ、一般兵士にアレの相手をするのが荷が重いと判断したか、ジェーンが指示を飛ばす。
そもそもの話、カナエとジェーンのコンビが全力で戦闘すると余波が結構なものになるからな。
周囲に兵士がいると全力を出せないのもあるんだろう。
「気を付けろ! 多分、毒を使うぞ!」
コブラと言えば毒蛇である。
そんなわけで事前に気を付けろと声をかければ、分かったという合図なのか、カナエとジェーンはそれぞれ手に握る武器を頭上に掲げた。
「オルフェさん、何かあったらすぐにでも動けるよう準備しておくように」
「もちろんです」
オルフェさんに毒を浴びたりした際の治療は任せた、と声をかけてから、俺はデカブツ相手ならと背中の大剣――ルナチェイニを抜く。
とはいえ、前線には既にカナエとジェーンが出張っているので、積極的に前に出る必要は無いか。
「矮小な人間ガ、竜に勝てルはズが無い!」
巨大コブラが、まずは手近なカナエを丸呑みにせん、と大口を開いて迫るも、カナエはそれを冷静に大盾で殴りつけて弾き飛ばす。
もんどりうって吹き飛んだ巨大コブラは、村長宅の残骸を更に粉砕しながら、地面を滑っていく。
まあ、そうなるわ。
そもそも、カナエは能力的にこういうデカブツ相手に一番輝く。
人間相手もできない事はないけど、手加減が必要だったりでどちらかと言えば巨大な魔物なんかを相手取る方が向いてるんだよな。
なんて事を考えていたら、吹っ飛んだ巨大コブラにジェーンが追撃をかけている。
これはすぐに終わるかな、と抜いたルナチェイニを戻そうとした時だった。
ジェーンの特大剣による一撃が、硬質な音を立てた。
「硬ってぇ! コイツ、なんつー硬さしてやがる!」
一撃離脱で距離を取ったジェーンが、悪態を吐きながらカナエの後ろに戻る。
巨大コブラも無傷というわけではないが、ジェーンの一撃を受けたにしては、大した傷を受けていない。
防御力極振りで、毒で時間をかけて勝つタイプか?
「なら、こうする」
相変わらず、感情の無いカナエの声の後に、ガコン、という動作音。
何となく、俺は次の光景を察する。
吹き飛んだ巨大コブラが起き上がり、威嚇の声をシャーッ、と上げた時には、カナエが懐に潜り込み、左手の大盾を振りかぶっていた。
「竜の肉体にこンな事をぶへべぇ!?」
カナエの大盾に仕込まれている、杭打ち機構が巨大コブラの腹を直撃。
起き上がって何かを喋りかけていた襟部分の人面が、悶えながら再び吹っ飛んだ。
「うん、これは硬い」
発動させた杭打ち機構を元に戻しながら、カナエは珍しく嫌そうに呟く。
再度吹っ飛んだ巨大コブラだったが、杭打ち機構の直撃を受けた部分には穴こそ開いているものの、貫通には至っていない。
カナエのアレを食らって爆散しないのは、確かに相当頑丈だとは思う。
あの杭打ち機構、威力がありすぎてそこらの大型魔物でも、かなり簡単に爆散させるからな。
前に依頼で大山熊を一撃で爆散させたのには驚いたものだ。
大山熊は名前の通り、山岳部に生息する魔物で、全長は最大で8メートルくらいまで達する超大型の魔物だ。
当然、それに見合う筋肉量と頑強さを備えているはずだったが、敵から受けた攻撃の威力を溜め込んで、それを開放して打ち出す杭打ち機構の仕組みにより、あえなく大山熊は爆散してしまったのである。
爆散させてしまった事で、討伐照明の回収が困難になってしまった、というオチが付いたのだが。
「ハイト、魔術でやっちゃって」
カナエの最強の一撃が致命傷を与えられないとなれば。
当然、その上を行く火力を魔術で出せる俺に白羽の矢が立つわけで。
それそのものは別にいいけどさ。
仮にも雇い主を顎で使うなよカナエ。
まあ、状況が状況なだけにやるんだけどさ。
後であいつお説教だな、と心に決めて、俺は魔術の準備に入るのだった。




