ワケあり10人目⑲
「……エスメラルダの様子は?」
突如としてサンクリド近郊に現れた、バイレンド傭兵団を完膚無きまでに叩き潰してから、俺たちは拠点にしている宿に戻ってきたわけだが、今回は結構危ない所だった。
結果的に死者は出ていないが、エスメラルダがかなり危なかったのだ。
きっと、彼女の事だから敵陣の内容を探ったついでに、将の1人でも暗殺してしまおうとしたのだろうけど、魔眼の不意打ちで動きを封じられて、危うく女性の尊厳を汚されかけたわけだが……。
幸い、間一髪で救援が間に合ったので、俺の直感という名の危機感知センサーも捨てたもんじゃない。
とはいえ、かなり危険だった事には変わり無いはずだし、本人が考えている以上に精神的な負担も大きかったはず。
とりあえず、今日の所は汗を流して休むよう指示を出したわけだが、割とワーカホリックの気があるから、俺は念のためにこっそりとフリスにエスメラルダの動きを探らせていた。
「先ほど部屋に入って、ベッドで横になる所まで確認してきました。さすがに彼女も、主様の考えがわからないほど馬鹿じゃないですよ」
「その辺はシャルに近しいものがあるから、大丈夫だとは思ってたけどな。念のためってヤツだよ。結構仕事人間だしな」
偵察に放っていたフリスから、エスメラルダが無事に休んでいる事を確認できたので、俺はホッと肩の力を抜く。
一応、オルフェさんにメディカルチェックとその後のフォローは頼んでおいたし、一旦は俺にできる事は全部済ませたかな。
捕らえた捕虜がどうなるとか、諸々の細かい後始末は残ってるっちゃ残ってるけど、そんなにすぐに片付くものでもない。
「では私はこれで。また何かあったらお呼び下さいね」
役目は終えたとばかりに、フリスは俺の部屋から去った。
変わらず、影としての仕事に邁進するらしい。
よくよく考えてみると、彼女に休みという概念はあるのだろうか?
年中無休のような気もするけど、たまーに空いた時間で甘えに来たりする事もあるし、何だかんだで上手くバランスを取っているのかもしれない。
「私たち、結局何もできなかった」
少し気を抜いた所で、同じ部屋にいる双子がしょんぼりしているのが目に入る。
今日に関しては、俺が全力でエスメラルダを助けに行ったし、ノーカンというか、まだ護衛に加わってから初日だ。
新人にいきなり仕事をやれと言ってもできるはずが無いし、そんなに落ち込むような事でもないんだけどな。
まあ、気持ちはわからないでもないけど。
奴隷なんて身分が罷り通る世界だし、突如として理不尽に勤め先を失う可能性だってある。
そういう意味では、自分たちが有能であると示せないのは、不安でしょうがないのだろう。
「そこに関しては、まだ初日だから気にしなくてもいい。それに、俺と歳は殆ど変わらないだろ。公式の場ならそれなりにしてもらう必要はあるけど、こういう他人の目が無い所なら気楽に話してくれていいぞ」
彼女たちの事はそこまで詳しく知らないが、両親を失い、今は身寄りも無いのだから、仕事を失う事に不安を抱くのも仕方ない部分はある。
だが、だからといって仕事一辺倒に教育してしまうのも、それはそれで違う気がするのだ。
子供でいられる期間くらい、少しは子供らしく振舞ってもバチは当たらないはず。
そんな事を考えながら、俺は改めて双子を鑑定してみる事にした。
内容次第では、効率的に配置転換やら業務の調整を、あるいは彼女たちに寄り添った事を話す事ができるはずだ。
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カトレス
13歳
種族:狐獣人
身長:158センチ
体重:48キロ
状態:健康
生命力:35
精神力:12
持久力:15
体力:10
筋力:18
技術:14
信念:15
魔力:4
神秘:3
運:5
特殊技能
・武器熟練:槍・短剣
・感覚同調
・馬術
・狩猟術
・料理術
・隠密術
―――――――――
クルス
13歳
種族:狐獣人
身長:158センチ
体重:48キロ
状態:健康
生命力:35
精神力:10
持久力:12
体力:10
筋力:16
技術:18
信念:5
魔力:15
神秘:3
運:5
特殊技能
・武器熟練:弓・短剣
・感覚同調
・馬術
・狩猟術
・料理術
・隠密術
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見た目通りの一卵性双生児らしく、身長と体重は全く一緒だ。
年齢は、俺の1つ下で13歳か。
そこまで年齢は変わらないと思ってはいたけど、年下だとは思わなかったな。
女性は身体が早熟と聞くけど、この辺りは種族的なものもあるのだろうか?
13歳にしては身体つきがかなり女性らしい丸みを帯びているし、身長も結構ある。
まだ成長はするだろうが、さすがに急成長はもうしないだろうか。
能力においては、双子ながら若干の差異が見られ、共通しているのは高い生命力くらいだ。
カトレスは槍を得意としていて、筋力と技術がバランス良く伸びている。
やや筋力寄りの上質戦士といった所か。
信念も少し高めなので、もしかすると祈術の素質もあるのかもしれない。
クルスは弓を得意としていて、やや技術寄りの上質戦士といった感じ。
カトレスとは対照的に魔力が少し高めなので、魔術に適正があるかもしれないか。
今回の件が落ち着いたら、色々と試してみてもいいかもしれないな。
年齢的にも素質的にもまだ能力は伸びるだろうし。
あとは今までの生活の中で身に付いたであろう技能たちが並んでいた。
馬術に関しては、元貴族という部分で身に付いたものかもしれない。
「えっと、その……」
「エスメラルダだって、カナエだって、ジェーンだって、公式の場じゃなきゃ気楽な態度だよ。そこに遠慮なんていらないさ」
俺が許可を出したとはいえ、どこか躊躇う双子に、その必要は無いと改めて伝える。
特にエスメラルダの俺に対する態度を思い出したのか、2人は顔を見合わせてから、少しばかり緊張した面持ちで俺を見た。
「その、これから頑張るから、うちらをクビにしないでくれると助かる」
「もう行くアテも無いから……お願いっ」
どうやら、仕事を失うのが相当にマズイと考えているようで、双子の願いは切実さが滲んでいる。
まあ、下手すりゃ教国に放り出されるかもしれないと思えば、必死にもなるか。
「さっきも言ったけど、心配しなくてもクビになんてしないさ。とにかく人手不足だからな」
実際、幹部級が全然足りてないのも事実なのだ。
これから教育するにしても、やはり時間はかかるし、そういう意味では双子はかなり早い段階で戦力になりそうだし、大切にすべき人材である。
気付けばまた女子が増えているわけだが、そこは気にしたら負けだろう。
というか、2人とも素の状態だと結構ギャルっぽいというか、若者らしい感じになるんだな。
ちょっとだけ意外に感じながらも、俺は双子と交流を深めていくのだった。




