ワケあり10人目⑱
前回に続いてエスメラルダ視点です。
「テメェが王国の代表か。ガキとは聞いてたが、見た目ってのはアテにならねえなぁ」
隻眼は、健在。
どうやら、ハイトの攻撃をちゃんと防いでいたみたいね。
「なかなかできるみたいだな。コイツの試し斬りにはちょうどいい」
対するハイトはと言えば、黒い大剣を両手で構えている。
確か、いつもなら普通の剣を使っていたはずだけれど……。
「ハッ、ガキのクセに、俺に力で勝てると思うな!」
ハイトの黒い大剣と、隻眼の大曲剣がぶつかり合って、激しく火花を散らした。
とはいえ、体格で劣るハイトは全く押されず、逆に隻眼を押している。
ハイトが大剣を振るたびに、背中から魔力の燐光が周囲に舞う。
「おっと、これじゃ俺が強すぎるな。少しパワーダウンしないと」
そんな中、ハイトの背中から溢れ出る魔力の燐光が消えて、いつものハイトに戻った。
どうやら、身体強化の魔戦技を使っていたみたいね。
逆に言えば、隻眼相手に身体強化は不要、という意味にも取れる。
「ナメやがって! テメェも動けなくしてやんよ!」
「ハイト! 魔眼よ!」
隻眼が眼帯を外して、隠されていた目が怪しげに光る。
恐らくは、相手の動きを止める系統の能力。
マトモに浴びれば、どんな強者でも致命的な隙を生む。
けれど、それは効果があればの話。
「俺に魔眼を使いたいなら、この大陸イチの魔力持ちになって出直してきな!」
魔眼を使うために隙を晒した隻眼へ、ハイトが容赦無く大剣を叩き込む。
虎の子の魔眼が、欠片も効いた様子のないハイトに驚きつつも、しっかりと反応して武器で一撃を受け止める辺りはさすがと言うべきだけれど、それでも素の剣術の腕は圧倒的にハイトが勝っているみたいね。
徐々に押されていって、隻眼の表情がどんどん苦いものに変わっていく。
「なんだよあの女は!?」
「戦槌を受けてもビクともしねえぞ!?」
「こっちはやたらと早い女が来て滅茶苦茶だ!」
「早すぎて捉えきれねえ!」
バイレンド傭兵団の団員たちから、混乱が伝わってくる。
きっと、リシアが正面からカナエとジェーンを突入させたのでしょうね。
あの2人を止められるような人材が、果たして何人いるのやら。
「この人に護衛、必要あります?」
服を剥がれてしまった私に、どこかで拾ってきたであろうマントを被せつつ、カトレスが呆れたように呟く。
隣のクルスも無言で首を縦に振っているけれど、確かに最初っからこんな光景を見せつけられたら、確かにそう思うのも無理は無いわね。
けれど、貴族という建前上、護衛無しっていうわけにもいかないのよ。
「実力的な意味で護衛が必要あるかないかで言えば、無いでしょうね。ハイトは多分、リベルヤ家の中で誰よりも強いのは間違い無いでしょうし。でもね、貴族っていう色々と建前の必要な立場だから、あなたたちのような貴族の立ち振る舞いができて、それなり以上の腕がある護衛は必要なのよ。ロクに護衛も用意できない貴族って思われるのも、立場上よろしくないし。これが男爵とか子爵みたいな下位の貴族なら、何かしら理由を付けて誤魔化せなくもないのだけれど……今は伯爵でも、ハイトは将来的に公爵くらいまで行くでしょうね。それもそう遠くないうちに。内々にだけれど、王女様方4人が降嫁する事も決定済みなのよ?」
どうせ後で知る事になるのだから、と双子にハイトの事を色々を情報開示してみれば、2人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、固まってしまう。
自分たちと、そう年齢の変わらない子が、相当な人物とは思わないでしょうしね。
「……これ、もしかして私たち、とんでもない所に就職しちゃった?」
もしかしなくても、とんでもない家に就職しているけれど、すぐに自分たちの置かれた状況に考えが及ぶ辺り、同年代の子と比べると達観しているのは、これまでの人生が関係しているのかしらね。
けれど、ハイトの側仕え兼護衛としては、逆に噛み合わせがいいかもしれないわ。
年齢も近くて、お互いに子供らしからぬくらいだし、色々とちょうどいいでしょう。
ハイトも自身も、女が優秀である事に目くじらを立てるような人間じゃないし。
むしろ、優秀な人間は積極的に登用しているしね。
「もしも主様を裏切ったら、地の果てまでも追いかけて始末しますよ?」
「「ぴゃっ!?」」
半分は冗談混じりなのだろうけれど、冗談に聞こえないのよね、フリスのアレは。
しかも、物騒な事を言いながら気配無く背後に現れてるし。
普通の子なら失神してもおかしくないわよ。
驚くだけで済んでいる辺り、あの子たちも相当に肝が据わっているけれど。
「私はフリス。主様の影です。以後お見知りおきを」
薄く殺気を出して脅かすような登場をしてから、にこやかな笑みを浮かべて即座に退場。
本当にあの子は、独特な感性の持ち主よね……。
「あれでも、あなたたちの事を歓迎しているのよ……多分ね」
ちょっと自信は無いけれど。
でも多分、あの子なりに親愛を示していると思うのよね。
たまにハイトに冗談にならなそうな冗談を言ってる時もあるし。
「そう……なんですかね?」
「割と本気で殺気をぶつけられた気がしましたが」
「あの子は影だから、本来は気配を出さないのよ。裏切りは許さないって言うのは、半分くらいは本気でしょうけれど、あなたたちが変な気を起こさなければ大丈夫」
さっきまで、相当に追い詰められていたはずなのに、何だか色々と考えるのがバカみたいになっちゃった。
この双子にも私の表の仕事を引き継がないといけないし、これから忙しくなるわね。
「ふう、まあ肩慣らしにゃなったかね」
私たちが話し込んでいる間に、ハイトは隻眼を倒したみたいね。
背中の鞘に黒い大剣を納めて、こちらに歩いて来て……赤くなって顔を逸らしたわ。
何でかしら?
「エスメラルダ、前、ちゃんと閉じないと」
私に背を向けながら、気まずそうにハイトが声を出している理由は、自分の身体を見下ろしてみてわかった。
双子から受け取ったマントを羽織ったまでは良かったのだけれど、前をちゃんと閉めていなかったから、色々と肌が見えてたわね。
幸いというか何というか、局部は隠れていたけれど、脚とかお腹とか、肌色面積は結構あったから。
でも、こんなくらいで赤くなるなんて、初心ね。
こういう所は、まだ子供っぽい。
少しばかりのお礼と、揶揄いの意味を込めて、薄着の状態でハイトの背中に胸と身体を押し当てる。
「……ありがと。おかげで純潔を奪われずに済んだわ」
ハイトの耳元に息を吹きかけるように囁くと、彼は身体をビクリとさせて私から離れた。
お礼の意味もあるんだから、もっと私の胸と身体を堪能しても、役得で済んだのに。
「い、一応嫁入り前の身なんだから、そういう事はするなよ! 一応は貴族出身だろ!?」
嫁に行けなくなったらどうするんだ、と若干焦った様子で説教をしてくるハイトだけれど、首の後ろまで真っ赤にしているんじゃ、説得力なんて無いわよ?
「確かに言ってる事は間違いじゃないけれど、私の職業上、そうそう結婚なんてできるものじゃないし、私より弱い男は願い下げなのよね。だから……あなたが責任持って面倒見て。ハイト」
今はまだ、好きとは言わない。
もしかしたら、一時的な感情かもしれないし。
でも、これが私の中に芽生えた好きという感情なのだとしたら、それは何と滑稽なものだろう。
500歳差を越えていて、なおかつ間違いなくハイトが先に死ぬ。
私は、ほぼ無限と言える時を生きる吸血鬼族。
こんな年増に好きと言われた所で、人間のハイトには迷惑でしかないはず。
……でも、シャルロットの計画上は、私もハイトの嫁候補に入ってるのよね。
もしかして、私が心変わりする事も、予見しているのかしら?
「……あの子の事だから、無いとは言い切れないわね」
マントの前を閉めてから、ポツリと呟いた一言は、ハイトに内容そのものは聞かれていないようだけれど、反応はされてしまったみたい。
「エスメラルダ、大丈夫か?」
「大丈夫よ。もう立ち直ったから」
「そうか? ならいいけど。戻ったら、すぐに風呂入って着替えろよ」
バイレンド傭兵団の大半は捕虜となり、私たちは大勝で戦場から引き揚げた。
これは後から聞いた話だけれど、私たちの軍は被害無し、バイレンド傭兵団は総勢200名のうち、50人は死亡、残り150人は捕虜になったそう。
扱いをどうするかはこれから協議する、と言っていたけれど、恐らくはバイレンド傭兵団の本隊と交渉の後、行先が決まるのでしょうね。
本当に、ハイトが色々と規格外だと、改めて思い知らされた日だったわ。
この回を書いていて、エスメラルダがお姉さんではなくお母さんになっているような気がした作者でした。




