ワケあり10人目⑮
「私たちが?」
「護衛に?」
急に重要ポジションに抜擢された双子は、それぞれ首を傾げていた。
まあ、そもそも重要ポジションかどうかを理解していない可能性もあるが。
とはいえ、模擬戦で実力を確認されてすぐ、役職のある仕事を振られるとはそうそう思うまいて。
「今は私が担当しているのだけれど、ちょーっと業務過多なのよね。ずっと後任が欲しいなって思って所なの」
現担当者であるエスメラルダから、暗に扱き使いやがって、という言い方をされたように感じないでもなかったが、こればっかりは事実なので文句を言えない。
というか、そもそも勤まる人材がエスメラルダしかいなかっただけとも言える。
俺の仕事柄、王族とも会う機会が多いし、公式の場でしっかりとした振る舞いができる教養があって、なおかつ護衛として優れた実力を持っていなければならないという、割と無理難題を要求する役職なのだが。
「君たちならば貴族としての教養もあり、立ち振る舞いの点では現状心配がいらない。実力においては、これから訓練に励んでもらう事にはなるが……まあ、うちにいれば強い訓練相手には事欠かんし、嫌でもすぐに実力が上がる事だろう。というか、私が強くする」
すっかり双子を教育するとロックオンしているリシアに、思わず俺は苦笑いしていしまう。
まだ本人たちの意志も確認していないだろうに。
「まあ、現状はすぐに教国から出られるわけでもないからな。正式な契約は王国に戻ってからになる。だから、まず教国にいる間はお試し期間って事で。んで、王国に戻ってもまだ続ける意志があるなら、正式に契約といこう。もし、キツくて無理だって思ったなら、すぐに言ってくれ。その時は別の仕事を割り振るから」
「しばらくは私と一緒に、ハイトの側仕え兼護衛がどんな仕事かを体感してもらいましょうか」
トントン拍子に話が進み、戸惑う当人たちを他所に、双子の今後の運用が決まってしまった。
まあ、とりあえずはお試し期間だし、無理そうなら他の仕事に行ってもらう他ない。
とはいえ、元は貴族家の出身らしいし、話していた感じでは受け答えなんかは貴族として標準以上ではあったから、慣れれば問題無く勤められるんじゃないかなと思う。
「そんじゃ、話も纏まったし、宿に戻ろう」
これからエスメラルダから報告を受けて、情報の内容次第では帝国と連合国に共有する必要も出てくる。
彼女らがどんな情報を持ち帰ってきているかによるが、願わくば状況が動く事を祈りたい。
…
……
………
「それじゃ、報告に入るわね」
拠点である宿に戻って、主要メンバーを俺の部屋に集めてから、エスメラルダの調査結果の報告が始まる。
竜人族が絡む可能性がある、という事で、その筋から新たに調査をしてもらった形だ。
「結果から言うと、今回はかなり相手の動きを追えたわ。けれど、本拠地までは絞り込めなかったから、あくまでヤツらの手口が見えてきただけね」
なるほど。
仮に本拠地を割り出せなかったとしても、相手の手口が見えたのなら、次の行動を予測する事も不可能ではない。
事前の警戒がしっかりできるのとできないのとでは、対応幅が雲泥の差だ。
「まずは聖女を抱えているという彼らの言い分は、事実だったわ。もっとも、薬で洗脳して言う事を聞かせているだけから、聖女本人の意思は介在していないけれどね」
「神輿としてはちょうど良かったという事なのだろうな」
この辺りに関しては、恐らく教国問題のゴタゴタに紛れて聖女を確保し、じっくりと洗脳を進めていたのだろうな、と思う。
薬による急激な洗脳は、人格や精神を破壊しかねない。
逆に、時間をかければ元々の人格はある程度残しつつ、上手く本人の意思で反乱を指導しているように誘導する事もできる。
その辺りの匙加減が上手かったという事か。
リシアの言うように、聖女という名声が、神輿にはちょうど良かったという事だ。
「今は洗脳した聖女を使って、教国の街や村を転々としてるみたいね。行く先々で聖女による演説をさせて、旧教国を取り戻そう、みたいな思想で各地に反乱の種を蒔いている段階みたい」
「バイレンド傭兵団の誘致は囮だったのか?」
バイレンド傭兵団が通った後には、搾取され尽くした村や街しか残らない。
仮に彼らの協力で旧教国派が実権を取り戻したとして、その立て直しをどうするつもりだったのだろうか?
「正確には、成功しても失敗してもどちらでも良かったのでしょうね。彼らが私たち外部の勢力を追い出せればそれで良し、失敗したならしたで、近場で脅威となる可能性のあるバイレンド傭兵団の勢力に打撃を与えられる。どちらに転んでも旧教国派には痛手ではないわ」
結果的には、俺の威圧行為で戦わずにバイレンド傭兵団は退いていった。
これに関しては旧教国派の想定外だった可能性はある。
だからこそ、次の手段としてじっくりと教国内に反乱の種を蒔く作戦に出たわけだ。
各地で同時に反乱が起これば、その混乱を収拾するのに俺たちは嫌でも人でを取られるし、そうなれば手薄な所から打ち破る事も不可能ではなくなる。
「ちまちまと鬱陶しい連中だ。見つけたら叩き潰してやるのによ」
現状では対応が後手に回ってしまっているため、フラストレーションが溜まっていそうなジェーンが、手の平に拳を打ち付けた。
彼女の言うように敵の本体を叩ければ手っ取り早いのだが、それができれば苦労しない、というわけで。
「そうだ。会議の場で気になる情報が出たんだが……」
バイレンド傭兵団を追い返して、それから会議の場で出てきた竜人族の商人の情報をエスメラルダに伝えると、彼女には珍しく、目を丸くした。
「そういう線で繋がりがある可能性は否定できないわね。考えてみれば、違法奴隷を運んでいたのも竜人族の集団だったわ。もしかすると、件の商人と繋がりがあるのかもしれない。至急、そっちの方向で情報を洗ってみるわ」
どうやら、エスメラルダ自身は竜人族の商人の情報そのものは持っていたようだ。
だが、今回の件に結び付くという思考には至っていなかったらしい。
これについてはしょうがない部分もあるか。
とはいえ、よくよく考えてみれば奴隷関連にも薬による洗脳は応用できる。
むしろ、奴隷関連から応用して、聖女を洗脳したとも考えられるな。
点と点が線で繋がるかもしれないと仮定して考えれば、色々と辻褄が合うかもしれない。
「旧教国派の足取りはどこが最後だ? 場所がわかってるなら連合国と帝国に情報を上げて捜査してもらおう。人手はどう考えても向こうの方が多い」
「最後に掴んだ足取りは、小国家群と国境を面している西側方面の村ね。情報を纏めておくわ」
まだ確固たる動きではないけど、ある程度は旧教国派の足取りが掴めてきて、竜人族が関連しているという話も出てきたし、ここからは色々と進展していきそうだな、と考えながら、俺は話を進めていくのだった。




