ワケあり10人目⑭
「では、早速だが何ができるか聞かせてくれるか?」
リベルヤ伯爵家で働く上で、能力の適性とか本人の希望は大事だからな。
張り切って面接官のような質問をしているリシアを見て、ちょっとだけ微笑ましいなと思ってしまう。
「なに、シャルからどうせ現地で誰かしら増やすだろうと事前に言われていたからな。その時はハイトを助けてやれと言い含められていただけだ」
そしてこんな状況でも予見してるシャルの想像力の高さよ。
多分、リシアは俺の考えてる事を何となく予想しただけなんだろうけど、まさかこんな状況までシャルが考えてるとは思わんって。
「まあ、内輪ネタはほどほどにするとして、だ。実際にできる事とか、やりたい仕事に希望は無いか?」
何のこっちゃ、と首を傾げている双子に改めて問い掛けてみると、お互いに顔を見合わせてから、小さく頷く。
姉妹間で何かしらのアイコンタクトがあったのは想像に難くないが、内容までは俺たちにはわからない。
「希望、というほどのものではありませんが、私もクルスも戦闘が得意です。お互いに得意分野は違いますが、実力はそれなりにあるかと。一応、武家の出身ではありますし、父と一緒に狩りをしておりましたので」
戦闘が得意、という話を聞いた瞬間、リシアの目の色が変わる。
元より名門武家であるアーミル侯爵家の出身だからか、戦闘に関しては一家言あるからだろう。
「なるほど。ならば実力のほどを見せてもらおうか。ついて来い」
かと思えば、俺が認可する前に双子を連れてリシアが動き出してしまう。
行動が、行動が早すぎるよリシアさん!
とはいえ、既に話は動き出してしまったので、俺は彼女たちの後を追いつつ、途中でオルフェさんを捕まえて同行させる。
リシアが仕切るのなら怪我人は出ないだろうが、戦闘行為が絡むとなれば念のための備えは必要だろう。
オルフェさんも快諾してくれて、俺たちは宿を出てからそのままサンクリドの街の外へ。
さすがに街中では暴れられないもんな。
しれっと10人くらい護衛の兵士が物言わずについてくるのは、もう貴族家ならば普通の事なので慣れたものである。
「さて、それでは実力の程を見せてもらうとしよう。武器は何を使う?」
自らは愛用の装備を身に纏いながら、リシアは双子を見た。
ここに来て緊張したりはせず、双子は堂々とリシアに向かい合っている。
やり取りを遠目に眺めていると、双子が兵士から装備を借りているようで、カトレスは槍、クルスは弓を選んだようだ。
それぞれ得意距離が近距離と遠距離で別れてるわけね。
「それでは、胸を借りさせていただきますね」
「うむ、遠慮せずに来い」
カトレスが前に、その後ろにクルスが立つ構えで、双子とリシアが向かい合う。
先手は譲るつもりのようで、リシアは剣と盾を構えた。
対する双子もすぐに動けるように構えを取っており、その様子から、付け焼刃のものではなく、しっかりと血肉に馴染ませたものである事が伺える。
先手で動いたのは、クルスだ。
鋭い矢の一射が、リシアの肩口を狙っていたのだが、リシアはそれを難なく剣で切り払う。
短いながらも防御行動を取ったリシアに向けて、腰だめに槍を構えたカトレスが突撃していく。
「いい連携だ」
左手の盾で槍の突撃を横にいなしつつ、追撃で放たれた矢は剣で切り払う。
今の所、リシアが圧倒的に優勢といった様子だが、油断している様子も無い。
正しく双子の実力を測っているのだろう。
「だが、私を無力化する一撃で捉えられると思っているのなら、その考えは改めろ。殺す気で来い」
リシアの言うように、双子の攻撃が急所を外すようにしているのには俺も気付いていた。
槍の一撃も脚の辺りを狙ったものだったし、矢も肩口や足といった直接死ぬような位置は狙っていない。
逆に言えば、双子がそれだけの気遣いをしながら、正確に狙えるだけの技量を持っているという証左でもあるのだが。
いざとなれば俺も止めに入ればいいし、万が一にも怪我が出たとて即死でなければ、オルフェさんがキッチリ治療してくれる。
備えは万全であった。
「……どう思う?」
苛烈さを増す3人の組手に、俺は横で様子を見守っているオルフェさんに問う。
「総合的な実力はセファリシアさんがかなり上だとは思いますが、あの子たちもそう引けは取らないと思います。2人がかりなら私とそう変わらないのではないかと。祈術も込みで考えるのなら、私の方がさすがに上だとは思いますけど」
オルフェさんの見立ては、俺とそう変わらない。
双子ゆえの息の合った連携はさすがとしか言いようが無いが、それでも現状の実力はリシアの方が圧倒的に上だろう。
とはいえ、俺とそう歳が変わらないであろう双子があれだけやれるのなら、将来性も込みでかなりの有望株だ。
少なくとも、1兵士として起用するには惜しいと言える。
「……動きが変わったな」
模擬戦を始めてから5分後くらいして、クルスの動きが目に見えて変わった。
最初はカトレスのフォローや、カトレスの生み出した隙を突くように矢を放っていたが、それが通じないとわかってからは、曲射を使い出したのだ。
上に高く撃ち上げた矢が、時間差でリシアへと襲い掛かる。
そんな状況でも盾と剣を用いて器用に捌いているが、少なくとも表情はより真剣になっているので、余裕そうに見えて案外そうでもないのかもしれない。
そんなクルスの動きに呼応するように、カトレスもその動きを変えていく。
隙の少ない突きしか使っていなかった彼女が、大振りの薙ぎ払いも使い出す。
いきなり攻撃のリズムが変わっても、的確に対応しているのはさすがと言う他ないが、逆に言えばリシア側から攻められない程度には、双子が善戦しているとも言えるか。
「あら、面白そうな事をしてるじゃない」
いつの間にか、気配すら感じさせずにエスメラルダが観戦の輪に交じっていた。
気付いたら横にいるのは完全にホラー以外の何物でもないのだが、エスメラルダに限らずフリスも似たようなものなので、もはや気にもならないが。
とはいえ、フリスは存在感がある時は完全に遊び好きな大型犬のそれなので、オンオフが激しい。
エスメラルダが戻ってきたというのなら、とりあえず色々と話も進みそうかね。
「エスメラルダ、どう思う?」
「いいんじゃない? 私の後任にちょうどいいわ」
双子の猛攻を捌きつつ、こちらに振り返らずにリシアがエスメラルダに声をかければ、彼女は短い問いに対しても正確に意図を読み取って返事をしている。
エスメラルダの後任、ってどういう事だ?
「よし、ここまでにしよう。2人の実力はわかった」
俺が1人で?マークを浮かべていると、リシアが模擬戦を打ち切った。
終わりが来たとわかると、双子は呼吸を荒げながら構えを解く。
どうやら、体力的には厳しかったらしい。
「カトレス、クルス、君たち2人をハイトの側付き兼護衛に任命する」
「私はこれで裏方に専念できるわね」
リシアはしれっと重要ポジションに双子を抜擢し、少しばかり肩の荷が下りたと伸びをするエスメラルダ。
もう話が急すぎて俺はついていけないよ!
ともあれ、今までエスメラルダが務めていた側付き兼護衛のポジションに、カトレスとクルスの双子が付く、という事が決定事項なのは理解できたのだった。




