ワケあり10人目⑬
「俺の事を呼んでたって聞いたけど、何か話があるのかな?」
部屋の中に入り、努めて優しく声をかけながら、保護していた女の子たちの様子を伺ってみれば、先日のように怯えた様子はかなり薄れており、だいぶ精神的に持ち直したように見える。
反応を伺っていると、大部屋の中にいる4人のうち、前に来た時に代表として話していた狐耳の少女がこちらに歩み出て来て、ぺこりと頭を下げた。
「まずは、改めて助けて頂いた事にお礼を申し上げたいと思います。重ねて、誠に勝手ながら、あなたの事を試していましたので、その非礼についてはお詫びを申し上げます」
先日とは様子の違う狐耳の少女を見て、俺は思わず目を見開く。
まるで、高位貴族のような洗練された振る舞いに、先日の怯えた少女の姿が重ならない。
「ええと、試してたっていうのは?」
とりあえず、試されていて、納得のいく答えが出たからこそ、俺を呼び出したのだろう、というのはわかる。
しかし、細かい理由や目的はさすがに教えてもらわないとわからん。
「はい。順を追ってご説明しますね」
ハキハキと喋る狐耳の少女は、真っ直ぐにこちらを見据え、小さく頷く。
その様子は、本当に年相応の少女かと思ってしまう。
「まず、わたしたちは元々、王国のとある貴族家の傍流として生まれ落ちました。去年の春頃、国内が荒れる予兆を見た両親と共に、密かに王国を抜け出し、特に国や人種の垣根の無い連合国に身を寄せたのです」
去年の春、と言えばうちのクソ親父が大暴れしてた頃だな。
ちょうど、俺が生家から追い出された辺りだろう。
その時点で国内が荒れるのを見越してたって事は、彼女のご両親はさぞかし先見の明があったんだな。
そして、傍流とはいえ貴族の出身ともなれば、こうして立ち振る舞いがしっかりしているのも納得か。
「とはいえ、正規の移民としては居住できませんでしたので、連合国の国境付近にある、はぐれ移民の隠れ村に住み、しばらくを過ごしていました。状況次第では王国に戻る事も選択肢に入っていたので。全てが自給自足で、決して楽な生活ではありませんでしたが、束の間の平和と安息を得て……このまま隠れ住んでいるのも悪くないと家族が思い始めた時でした」
流暢に生い立ちを語る狐耳の少女の顔が、急に真剣なものとなる。
ここから何かしらの事件が起こったのは、想像に難くない。
「ちょうど1ヵ月前、武装した竜人族の襲撃を受けて、隠れ村は壊滅しました。わたしたちのような若い女性は奴隷にするために連れ去られ、残る者たちは皆殺しにされ、例外はありません。もちろん、両親も殺されました」
悔しさを滲ませた声で、狐耳の少女は自らの激情を抑えるように、語り口を一度閉じて大きく深呼吸をする。
辛かったな、と声をかけるのは簡単だが、目の前の彼女はそれを望んでいるようには見えない。
まだ会話の続きがあるのだろう、と俺は無言で続きを促す。
「それから、あなた方に助けられたのが、事のあらましです。最初は、あの竜人族の集団と関わりがあるか、あるいは良からぬ事を考えてはいないか、とあなたの事を試してしまった次第ですね。改めて、申し訳ありませんでした」
綺麗な仕草で大きく頭を下げる狐耳の少女に、俺はどういう言葉をかけようかと僅かばかり逡巡し、隣のリシアにアイコンタクトを取る。
しかし、彼女から返ってきたのは思った通りにしろ、というものだったので、その通りにするしかなかった。
「君の話した境遇が本当なら、他者を警戒するのは当然の事だし、ましてや頼れる大人もいないんだから、自己防衛を考えるのは当たり前だ。その事については気にしなくていい。それで、俺を呼び出した理由を教えてくれるかな?」
なぜ、奴隷にされそうだったのかはわかったが、俺を呼び出した理由はハッキリしていない。
そこがハッキリしないと、そもそも話が進まないのだ。
「……寛大なお心でお許しをいただけた事、誠に感謝いたします」
俺が試した事に関しては気にしてない、と言ったからか、少しばかりホッとした様子で狐耳の少女は顔を上げる。
「率直に申し上げるなら、わたしたちを雇ってほしいのです。重用して下さいとは言いません。下働きでも結構です。もはや、寄る所も無く、自分で身を守る事も難しいですから」
「ワタシからも、お願いします」
代表者として話していた狐耳の少女だったが、似た声で彼女の近くに進み出て、一緒に頭を下げる少女が1人。
大きな狐耳にふさふさの尻尾。
全く瓜二つな外見で、彼女らが双子であるのは自明の理であった。
というか、チラッと見て獣人が2人いるなーと思ってはいたけど、細かい事を気にしてなかったから、双子なのに全然気付かなかったわ。
「うちは万年人手不足だから、そう言ってくれるのは助かるよ。ええと、後ろの2人は帰る場所があるんだっけ?」
狐耳の双子はとりあえず何かしらうちで雇うとして、残る2人の少女は、確か身元がハッキリしていたはず。
念のために確認の声をかければ、後ろにいる2人の少女は無言で頷く。
「事のついでだ。この場で君たちが何をできるのか、どういう仕事を望むのかを聞かせてもらおう」
とりあえず、厄介事が増えたわけではなかったな、と内心で安堵していると、さっきまで横で黙って話を聞いていたリシアが口を開く。
少し圧のある彼女の口調に、後ろの2人が小さくビクリとしたものの、狐耳の双子は特に物怖じする事も無く、勢い良く顔を上げる。
「その前に名前を教えてもらってもいいかな? お互いに名前を知らないのも不便だろうしね」
後ろの2人は身元が分かってるから、名前とかもわかるんだけど、狐耳の双子に関してはその辺りの情報が全く不明だったし、名前も聞き出せていなかったからな。
どういう形で彼女らがリベルヤ家で働くかわからないが、何となく、一般の使用人以上の立場になる予感がする。
鑑定でもすればいいのだろうけど、せめて名前くらいはちゃんと聞いておきたい。
「これは、気が逸ってしまって申し訳ありません。わたしはカトレスといいます。苗字はもうありませんから、ただのカトレスと」
「ワタシはクルス。カトレスの方が姉です。よろしくお願いします」
「知ってるかもしれないけど、俺はハイト。ハイト・リベルヤだ。一応、王国では伯爵の地位を賜ってる」
お互いに自己紹介をしながら、横に並んだ双子を見比べる。
口元にあるほくろが左右で違うのが、パッと見でわかる違いかな。
左側にほくろがあるのがカトレスで、右側にほくろがあるのがクルスだ。
「私はセファリシア・アーミル。将来的にはセファリシア・リベルヤになるがな。よろしく頼む」
流れでこの場にいる主要人物同士の自己紹介を終えて、具体的な話をしよう、という流れになっていく。
部屋を変えるべきという気もするが、とりあえずはこのまま話を進めよう。
どっちにしても、調査に出してるエスメラルダが戻って来ない事には、旧教国の連中については動きようが無いし。
新作を公開しました。
新作のタイトルは「異世界に渡りてヒーローとなる」
です。
こちらもよろしければお楽しみいただければと思います。
細かい事は活動報告にも載せていますので、こちらもご確認下さい。




