ワケあり10人目⑫
「ひとまず直近の危機は去ったと見て、間違い無いですね」
バイレンド傭兵団を追い返し、サンクリドに戻った足で、俺たちは3国代表者会議を開いていた。
ヴァルキア代表の言うように、一旦は安全を確保できたとは思う。
とはいえ、バイレンド傭兵団が完全に諦めたかどうかは不明だし、旧教国の黒幕はまだ捕らえられていない。
あくまで余裕ができたというだけだ。
「まずは無事にバイレンド傭兵団を退けられた事は祝うべきだな。だが、旧教国の勢力を駆逐しなければ、根本の解決にはならない」
「確かにそれはそうですね。現状、バイレンド傭兵団の足取りと関係性から旧教国の勢力を追っていますが、有力な情報は出てきていません。どうも、取り引きに関しても2重3重に偽装を重ねているようで、相当に頭が回る相手のようです」
旧教国勢力の足取りを追うのに、意外にもうちの暗部と諜報部隊が苦戦していたりする。
王国内で大貴族の不正取引なんかもすんなり発見した、元世界最大の暗殺組織が、だ。
合法な捜査から、非合法な捜査まで、ありとあらゆる足取りを追うノウハウがあるにも関わらず。
この事から、恐らく相手のバックにはこの手の事に慣れた有力者か、あるいは組織がついている、というのが現状の見立てである。
「王国外で、そういった内容に強い個人や組織に、何か心当たりはありませんか?」
俺個人は国外の事には詳しいとは言えないし、自国の事であれば俺よりも細かい情報に強いであろうお2方もいるので、ここは素直に知恵を借りたい。
あるいは、視点が変われば導き出す答えが違う事だってあり得る。
知らず知らずのうちに、俺たちの思考が凝り固まって可能性もあり得るし。
「役に立つかはわからないが、最近小国家群で勢力を増している商人がいると聞く。何でも、珍しい竜人族の商人だとか」
俺の問い掛けに、少しばかり悩んでから、ソリド将軍は思い出したようにポンと手を打つ。
ここにきて、また竜人族絡みか、と俺は内心で思ったものの、一旦は飲み込む。
詳しく聞けば、幅広い商品を扱う商人で、日用品や雑貨、食料に始まり、奴隷まで扱っているという。
ますます、俺の中で疑念が膨らむ。
もしかすると、エスメラルダたちも情報としては知っているかもしれないが、今回の件とは関係が無いと判断している可能性がある。
やはり、視点が変わるだけで情報の価値というのは変わるものだ。
まして、活動拠点が小国家群ともなれば、バイレンド傭兵団にコネがあっても全くおかしくないわけで。
「竜人族の商人でしたら、我が国も取引がありますね。時には行方不明になっていた我が国の民を連れ戻してくれる事もあります」
穿った見方かもしれないが、最も違法奴隷として民衆が攫われる確率の高い連合国に、その民を連れ戻しているともなると、出来レースではないかとさえ思える。
例えば、連合国内で秘密裏に30人を拉致したとして、そのうち20人をさも見つけた風に喧伝すれば、連合国という大国に恩を売った上で、残る10人を捜索する目から逃れる事も不可能では無さそうだ。
最初はそれほど意識されないかもしれないが、何度も繰り返し人助けをしていれば、その人には間違い無くいい人のイメージが付く。
いい人のイメージが付けば、自然と疑われる事も減るわけで。
殺人事件があったとして、容疑者2人のうち、犯罪歴のある1人と、品行方正で有名な1人、真っ先に疑われるのはどちらか、という話である。
「なるほど。もしかすると有力な手掛かりになるかもしれません。ソリド将軍、ありがとうございます」
「人手を出す以外には捜査に貢献できんからな。この程度の些細な情報が役立つのなら、役立ててくれ」
思わぬ情報が繋がるかもしれない、とソリド将軍に礼を述べれば、彼は人手を出す以外には捜査に協力できないからと言う。
現状、表立って人手の必要な事はうちで賄えない(暗部はあまり表に出せない人が多い)ので、人手を出してもらえるのが1番大助かりなのだ。
「他に何か情報はありませんか? 些細な事でも構いませんから」
…
……
………
「現状ではこんな所か。それではリベルヤ伯爵、引き続き捜査の方は頼む。変わらず人手のいる役割は我々が請け負おう」
「はい。それが1番助かります」
細かい情報提供をいくつか受けつつ、会議はお開きとなった。
脳内で情報内容を精査しつつ、拠点としている宿の方に歩いていく。
いくつかの細々とした情報は出てきたが、現状で一番可能性がありそうなのは、やはり竜人族の商人の話だろうか。
どこか、あの胡散臭い糸目の竜人族が脳裏にチラつく。
とりあえず、エスメラルダが戻り次第、情報共有をしておくべきだろう。
「ハイト、戻ったか。疲れているだろうが、1つ急ぎの要件があってな。付き合ってもらえるか?」
歩きながら今後の方針を固め、自分の部屋に入ろうとした時だった。
背後からリシアの声がかかり、俺は背後に振り返る。
「急ぎの要件?」
そんなに差し迫った要件があっただろうか、とざっくり記憶を漁るものの、急ぎの要件というものに心当たりが無い。
とはいえ、急ぎというのだから、俺でなければならない何かがあるのだろう。
「行けばわかる」
とりあえず、すぐに来てほしいみたいだったので、俺はリシアに案内を任せて後に続く。
彼女が向かった先は、サンクリドに来る前に保護した少女たちのいる部屋だ。
確か、交渉はエスメラルダに任せていたから、俺が関わる案件は無かったように思うが。
「保護していた子が急にハイトに会いたいと言い出してな。私も事情を兵士伝てに聞いただけだから、細かい経緯等はわからない。ならばいっそ、すぐに本人を呼び出した方が早いかと思ってな」
なるほど、と納得しつつ、俺はリシアを伴って保護した子たちのいる部屋をノックする。
やはり、女性は同席していた方がいいだろう、という配慮だ。
「……どうぞ」
扉の奥からくぐもった声が聞こえてきたので、俺はゆっくりとドアノブを回す。
聞こえてきた声には、緊張感が漂っていたので、何かしらの決心をしているように思うが、果たしてどんな話が飛び出すやら、と内心では戦々恐々としながら、俺は扉を開くのだった。
前回のアンケートもどきで新作を見たい、という意見があったので、10ページくらい書き溜めたら公開します。
それまでは裏でコツコツ進めておくので、公開をお楽しみにして頂ければと思います。




