ワケあり9人目⑭
「さーて、鬼が出るか蛇が出るか」
エンシェントゴーレムを倒して新たに表れた道は、下り階段となっており、中は光源が全く無いのか、暗くて先を見通す事ができない。
目視が先が確認できないのなら、と魔力をソナーのように使って内部を探る。
そこまで細かい確認はできないが、大まかな通路の作りなどは把握できるので、ある程度の状況はハッキリするだろう。
「……通路は、そんなに長くないな。その先には……また小部屋? 行き止まりで、部屋の中心に何かがある。それ以外は何も無し、か。罠とかがあるかもだけど、ある程度はどうにかできるか」
少なくとも、物理的な罠(ワイヤーやスイッチ等)と魔力反応の罠は確認できなかったので、とりあえず進んでも大丈夫だろう、と判断し、魔術の明かりで通路を照らしながら、階段を下りていく。
コツコツと石造りの階段を下りる靴音だけが響くが、かえってそれが不安感を煽る。
特に生命反応も無かったのが更に不気味で、普通に歩けば5分程度の道を抜けるのに、たっぷり10分以上をかけてしまった。
「……結局、何も無かったな」
取り越し苦労だったのは良かったけど、まだ油断するには早い。
入るのは大丈夫でも、帰り道で何かが起きる可能性だってあるからだ。
某ファイナルなファンタジーで、苦労して強いボスを倒してダンジョンから出ようとしたら、パーティーの竜騎士が裏切って重要アイテムを持ち逃げするのは、人によっては記憶に強く残っているのではないだろうか。
あるいは、遺跡のような場所の最奥部でお宝を手に入れたら、帰り道が崩壊してダッシュで駆け抜けないといけないとか、考え得る状況はいくらでもある。
警戒をして、足りないという事は無いだろう。
「これは……」
奥の小部屋の入口に到着してから、俺は思わず目を見張ってしまう。
入口には、魔術的な封印が施されているのだが、そこそこどころか、かなり魔術には精通している自信のある俺でも、まるで解く手段が見当たらない。
表面上から読み取れる魔術式だけでも、相当に複雑で、かなり古いものだ。
所々で読み取れる古語の言い回しで、古い時代の封印魔術だろうと当たりを付ける事はできても、現状の知識では読み解く事は不可能である。
「……ん? ルナスヴェートが反応してる?」
どうにかとっかかりだけでも掴めないだろうか、と封印魔術に顔を近付け、魔術式とにらめっこをしていると、右手に握っている剣、ルナスヴェートから魔術式に共鳴するような反応があるのに気付く。
何となく、封印魔術の前にルナスヴェートを掲げてみると、お互いが光を帯びて反応を強めた。
細かい事はわからないが、間違い無く、この封印にルナスヴェートが関係している、という事だけは理解できる。
そこでそういえば、とルナスヴェートを鑑定した時の事を思い出す。
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月光剣・ルナスヴェート
一人のエルフ鍛冶が月魔術を籠めて打った最高傑作のうちの一本。
魔術と祈術の触媒としての機能を持ち、剣としても高い性能を併せ持つ。
愛する者のために打たれた一本だが、その者がこの剣を握る事は無かった。
対となる剣が存在し、この剣を握る者には、いずれその所在を知らせるだろう。
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つまり、これはこの先にルナスヴェートの対となる剣がある、という事だろうか。
そう考えると、この封印の魔術を扉の錠とするのなら、さしずめルナスヴェートは鍵。
であれば、とルナスヴェートの切っ先を封印魔術に向け、そのまま突き刺す。
ルナスヴェートはそのまま何の抵抗感も無く、封印魔術の中に切っ先を埋めたが、剣身の半ばほどまで埋まった所で、何かにぶつかる。
これで奥まで鍵を挿せたという事ならば、とそのまま鍵を回すようにしてルナスヴェートを捻ると、光が弾けるようにして、封印魔術は呆気なく消滅。
先へ進む事ができるように。
「……よし、行くか」
1回だけ深呼吸をしてから、俺は意を決して小部屋の中へと足を踏み入れる。
その瞬間に、部屋の中心に明かりが灯った。
殺風景な石造りの小部屋だが、その中心には石の台座があり、そこには1振りの剣が鞘に収まった状態で鎮座しており、飾り気などは皆無だが、どこか荘厳さを感じさせるものだ。
真っ直ぐに台座に向かって歩いて行くと、遠目から見たよりは大きな剣で、分類としては大剣と言ってもいいくらいの物。
何もありませんように、と心に願いつつも、俺は迷わずに台座の大剣を手に取った。
大剣だけあって、ずしりとした重さを感じさせるが、俺が振れるギリギリくらいの重さか。
片手でも振れない事は無いが、基本的には両手持ちでの運用になるだろう。
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月影剣・ルナチェイニ
一人のエルフ鍛冶が月魔術を籠めて打った最高傑作のうちの一本。
魔術と祈術の触媒としての機能を持ち、大剣としても高い性能を併せ持つ。
愛する者のために打たれた一本だが、その者がこの剣を握る事は無かった。
対となる剣が存在し、1対の剣が一つになる時、真の力を発揮するだろう。
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鑑定によれば、やはりルナスヴェートの対となる一振りであるのは間違い無いようだ。
ルナスヴェートとルナチェイニが一つになる時、真の力を発揮するとらしいが、物理的に一つにする事なのか、何か他の手段があるのかは現状ではわからない。
ともあれ、これ以上はこの場に何も無さそうだし、このまま撤退する事にしよう。
「……お約束は無かったな」
エンシェントゴーレムを倒した小部屋まで、特に何事も無く戻れた所で、俺はホッと一息。
小部屋から出ようとしたらデ〇ンズウォールが襲ってくるとか、道が崩落してくるとか、そんな事は無かったので、一安心である。
あとはレイネスタを拾って、帰るだけだ。
「おーい、レイネスタ、帰る、ぞ……」
「マスターノマスター、トウロクシマシタ。ツギノモクヒョウヲセッテイ。キョテンへトキカンシマス」
彼女に帰るぞ、と声をかけたら、機能停止していたはずの4足歩行ゴーレムがイキイキと喋っているのを見て、俺は言葉を失った。
何で普通にコイツ復活してんの?
しかも言葉から察するに、レイネスタがコイツを復活させて、しれっと新しくマスター登録されてるじゃん。
そんでもって、彼女が何を説明したか知らんけど、レイネスタのマスターとして俺が登録されてるし。
超展開すぎて俺、ついていけないよ……。
「どうどう? アタシ、天才かも!」
4足歩行のゴーレムを再起動させた事を褒めて褒めてー、と目を輝かせているレイネスタに、俺は咄嗟に言葉が思い浮かばず、すごいな、と生返事をするしか無かった。
もっとも、本人はそれで満足したらしく、存分にドヤ顔を披露しているが、もう色々とツッコミが追い付かないって……。
「チケイジョウホウカラ、アンゼンカツサイタンルートヲワリダシマシタ。ゴアンナイシマス」
これ、どうしよう……という俺の心情を他所に、4足歩行ゴーレムは俺たちを先導し始めるし、レイネスタはそれに喜々としてついていくし、情報過多でパンクした俺は、ただただ流されるがままに、帰路につくのだった。




