ワケあり9人目⑬
ゴーレムが繰り出す大剣の攻撃を紙一重で躱し、いなし、弾き、1発も攻撃を貰わないよう、綱渡りのような立ち回りをしながら、合間にカウンターの一撃を入れていく。
先ほどの装甲のようにゴーレムは硬くなく、こちらの攻撃でしっかりと傷が入る。
ただ、自己修復能力があるようで、数分経つと傷は修復されてしまう。
相手の攻撃を捌きながらのカウンターだけでは、ダメージを与えた端から回復されてしまうため、どこかでこちらも戦技等による威力のある一撃を加えていく必要があるな。
「おら、よっと!」
袈裟斬りの一撃を上手くいなした事で、ゴーレムの振るう大剣が、床に大きくめり込む。
ほんの少しではあるが、隙が生まれたため、俺は剣を下段に構え、力を籠める。
「跳舞斬・後翔刃!」
下段から大きく剣を振り上げ、その勢いを利用して後方に跳んで距離を取る一撃を放つ戦技。
確かな手応えと共に、俺は後方へと身体を躍らせた。
俺が着地するのと同時に、重い音が小部屋を震わせる。
ゴーレムの方を見てみれば、見事に左腕が切断されており、右手だけで大剣を保持している状態だ。
これで、だいぶ俺の方が優勢なはず。
今のうちに、畳みかけよう。
「飛斬撃!」
斬撃を飛ばす戦技を放ち、それを盾にして離した距離を詰め直す。
飛ばした斬撃は難なく防がれてしまったものの、こちらの間合いに入る事はできた。
念のため、腕を拾ってくっつける、なんて事をされないよう、斬り落とした左腕を蹴り飛ばしておく。
身体の重量バランスが崩れたのか、ゴーレムの動きはかなり精彩を欠いており、左腕を蹴り飛ばすという余計な行動を取っていたにも関わらず、こちらの攻撃態勢が整う方が早い。
「魔力大剣刃!」
勝負の決め時、と判断して、俺は魔戦技を発動して剣を魔力の大刃と化し、一息に振り下ろした。
ゴーレムの方も大剣でもって防ごうとしたが、防がれるよりもコンマ1秒早く、俺が魔力の大刃を振り下ろしきる。
一瞬の静寂。
その後、役目を終えた魔力大剣刃が魔力の粒子となって霧散し、俺が自然と止めていた呼吸を再開した時。
頭から股までを縦真っ二つに両断されたゴーレムが、左右に分かれて崩れ落ちる。
真っ二つになってなお、赤い光を発していたセンサー部が、ゆっくりとその光を消していく。
やがて、完全に光を失い、動きを停止したゴーレムを見て、俺は完全に倒したと判断し、レイネスタにかけていた結界魔術を解除。
それから大きく息を吸い込む。
「レイネスタ! ゴーレムを倒したぞ! こっちに来い!」
離れた場所にいるレイネスタに聞こえるよう、大きな声を出して呼び掛ければ、程なくして大急ぎでレイネスタが小部屋に駆け込んでくる。
「ゴーレムはどこ!?」
「あそこだ」
縦真っ二つになったゴーレムを示せば、レイネスタは素早くそちらへ移動し、持参してきた工具であれこれ調べながら作業を始めた。
鼻歌交じりにしている辺り、とてもご機嫌なようだ。
「さて……あとは作業が終わるまでは休憩かな」
魔術も剣も使える俺にとっては、それなりに相性のいい相手だったからか、最初の初見トライでどうにか倒す事ができたものの、実力としてはS級クラスはあったように思う。
あとは搦め手を使わない、純粋なフィジカルファイターだったのも大きいか。
立ち回りは綱渡りな部分もあったものの、終始自分のペースで戦えた。
以前に比べて、確かに実力を付けられた、という実感を覚え、戦闘後の疲労感すら心地良い。
「ねえハイト。ここに来る途中に転がってたゴーレムは何?」
周囲の警戒は継続しつつ、壁に背を預けて休憩に入っていると、動かす手は止めずにレイネスタから質問が来る。
あの、人語を解する4足歩行のゴーレムだな。
「俺にもよくわからない所が多いけど、恐らくは人の手で作られたゴーレムなんじゃないかと思う。ここに来る直前に、危ないから行くなって、注意してきたけど、すぐに機能停止したから、そのまま放置してきた」
「へえ、それはすごいね。興味あるなあ。こっちを片付けたらそのゴーレムも調べたい!」
レイネスタの事だし、そう言うと思ってた。
まあ、ここまで来たらもう少し待ち時間が増えても変わらん。
「別にいいぞ。けど、コンテストは間に合わるようにな」
「わかってる。ちなみに、持って帰るのはアリ?」
人語を解するゴーレム。
俺の知らないテクノロジーが使われているのは間違い無いだろう。
正確にはゴーレムというよりはロボット、と言うべきなのかもしれない。
この世界にロボット、という概念は存在しないのだが。
「持って帰る事自体は反対じゃないが……そもそも持って行けるのか?」
大きさは、おおよそ一般的な大人の男性くらいだから、持って帰るという事そのものは不可能ではないものの、重さは恐らく相当なもの。
少なくとも俺一人で持ち帰れるとは思えない。
「それなら荷物はアタシが引き受けるからダイジョブだって。これでもドワーフだし、力には自信あるよ」
「無理はしないようにな」
鑑定上ではジェーンと同等の筋力だったし、まず間違いなく俺よりも力はあるだろう。
とはいえ、先ほど倒したゴーレムも込みで考えると、相当な荷物になりそうな気がする。
「良し、っと。これで素材のエンシェントゴーレムは処置と回収完了!」
そうこうしているうちに、レイネスタは巨大な背嚢をパンパンに膨らまむまで素材を詰め込み、下手をすれば自分よりも大きいくらいのそれを、驚くほどの安定感で持ち上げて見せた。
マジか。
俺なら絶対に持ち上がらないぞ、あんなん。
よくよく小部屋の中を確認してみると、パージされた装甲含めて、綺麗サッパリ回収されている。
そりゃあ背嚢がパンパンにもなるわな。
「そういえば、これも持って帰った方がいいな」
レイネスタが唯一放置していた物を、無造作に手に取ると、ズシリと重さが伝わってくる。
そう、あのゴーレムが振るっていた大剣だ。
肉厚で、幅広の剣身は、俺の身長よりも少し小さいくらいの大きさ。
重量としては、多分40キロはあるだろう。
両手でどうにか持ち上げると、その重さがよくわかるな。
俺には武器として振るうのは無理だが、うちの屋敷には使えそうな人物が何人もいるし、使い手に困る事は無いだろう。
あとはレイネスタに預けて解析してもらってもいいし。
念のため、鑑定してみるか。
―――――――――
破術の大剣
触れた術を破壊する効力を持つ大剣。
肉厚な剣身は、力任せに叩き斬るためのものだが、それゆえに使用者に強い筋力を要求する。
物理的にも頑強だが、特に魔術に対しては特攻レベルの武器であるため、こと対術関連に関しては盾としても機能する。
古代から生きるエンシェントゴーレムが自己進化の過程で生み出し、長年をかけて磨き上げた一振り。
―――――――――
ゴーレムが握っていた時は鑑定が通らなかったが、こうして持ち主の手を離れたら、鑑定が成功した。
自分の能力ながら、今イチ鑑定の効く効かないがよくわからん。
使い込んで上達するものかもわからんし、ままならないものだな、と考えつつ、肩を支点にして破術の大剣を担ぐ。
持ち運ぶだけなら、これで何とかなる。
戦闘が始まったら、一旦放り出さなければいけないが。
「ハイト、あれは?」
背嚢を背負ったレイネスタが、小部屋の奥を指差す。
そこには、新たな道が生まれていた。
あのエンシェントゴーレムを倒す事が鍵だったのだろうか。
少なくとも、戦闘前には確認できなかった。
ギルドへの報告もあるし、確認は必要か。
「ちょっと調べてくる。レイネスタは……」
「それじゃアタシはあっちのゴーレム見てるから、あとよろしく!」
指示を出すまでも無く、レイネスタは4足歩行のゴーレムの方に駆け出していく。
パンパンの背嚢を背負ってるとは思えないほど、軽やかな駆け足だ。
勝手な行動をするなと言ったはずなんだが……。
まあ、ここまでの安全確認は済んでるからいいけどさ。
念には念を入れて、先ほどの4足歩行のゴーレムがいた辺りを中心に、3メートル四方を結界魔術で覆っておこう。
恐らく、彼女は夢中で4足歩行のゴーレムに付きっ切りだろうから、俺が戻るまではこれで大丈夫。
後顧の憂いを絶ってから、俺は新たに生まれた道を進むのだった。
暴走機関車レイネスタ、制御できず。
果たしてハイトが彼女を制御できる日は来るのか?




