ワケあり9人目⑫
「……コイツ、だろうな」
喋るゴーレムから先に1分くらい歩いた先に、小部屋があった。
扉が無いため、中の様子が見える。
おおよそ5メートル四方の部屋で、剣を振り回したりするのに不足は無い。
中には恐らく目標のエンシェントゴーレムであろう、甲冑が剣を床に突き立てた状態で仁王立ちしている。
あの姿だけを見ると、生ける鎧にも見えるが。
ある意味では、自己進化の過程で洗練された結果、と考えれば納得もできるか。
ともあれ、とりあえず接触してみるとしようか。
様子を見る感じ、部屋に入ったら襲ってくる感じだろうし。
そうして小部屋に入ってみれば、俺の予想は外れる事無く、小部屋に入った時点で鎧の頭部に赤い光が灯った。
鎧ゴーレムはゆっくりとした動きで剣を引き抜くと、両手でそれを握る。
幅広で重厚そうな大剣なので、一撃の威力は推して知るべし、といった所。
基本的に防御はせず、流すか躱す事を主眼に置こう。
「さて、一勝負といこうか!」
先手必勝、と一気に鎧ゴーレムの懐に潜り、がら空きの胴体に横薙ぎ一閃。
硬い手応えと共に、僅かな傷を付けたものの、恐らくは大した痛痒も与えられていないだろう。
どうやって装甲を崩すか、と思案しつつ、後ろに大きく移動すると、反撃の一撃が振り下ろされており、先ほどまで俺のいた位置の床が爆砕される。
想像通り、一撃の威力は相当なものだ。
カナエほどではないにしろ、マトモに受けたくはない。
とはいえ、フィジカル全振りタイプの相手であれば、このままヒットアンドアウェイですこしずつ削っていけそうだ。
問題は、何かしらの特殊能力がある場合か。
とりあえず、何をしてくるかわからないので、最新の注意を払いながら色々試すとしよう。
とはいえ、レイネスタが素材としてコイツを利用すると言っているので、跡形も無く消し飛ばしてしまうような魔術は縛る必要があるな。
属性的には火辺りはやめておこう。
「やっぱ鑑定が通らないか。とはいえ、物理的な攻撃は効果が薄そうだ。魔術の方も色々試すか」
念のため、鑑定を試してみるも、予想通り何かが見える事は無かったので、魔術を吸収するとか、そんな能力があったりする可能性も考慮しつつ、まずは距離を保ちながら下級魔術で各属性を当てていく。
無、特に無し。
効き目はイマイチ。
火、特に無し。
効き目はイマイチ。
水、特に無し。
効き目はイマイチ。
風、特に無し。
効き目はゼロ。
地、特に無し。
効き目はゼロ。
雷、特に無し。
少しだけ効きやすい。
光、特に無し。
効果ゼロ。
闇、特に無し。
効果ゼロ。
「これといって何かは起こらないけど、こりゃ千日手だな」
特別魔術が効きやすい、というわけでも無く、ちゃんと物理魔術共に耐性がある。
属性としては雷が少しだけ通りやすいが、そこまでしっかりと差があるわけでもない。
「おっと……一応遠距離攻撃もあるか」
僅かな変化も見逃さないよう観察していたおかげで、急に鎧ゴーレムの魔力が高まった事に気付き、咄嗟に横に走った。
すると、鎧ゴーレムが大きく横一文字に大剣を振り抜き、そのまま魔力のカッターが飛んできていたので、先んじて躱す形になったわけだが、連発できるようなものでもないらしい。
やはり一撃一撃は大振りで、基本的にはフィジカル特化型と見て間違い無さそうだ。
あとはまあ、ゲームの強敵あるあるで、ある程度のダメージを与えたら、形態変化が起きる、とかか。
「とはいえ、現状はこれが一番効くんだ。使わない手は無いわな。貫く雷撃!」
雷の魔術の中でも、特に相手の耐性を貫通しやすいものをぶつける。
見た目は俺の手から雷撃が相手を貫いているだけの中級魔術なのだが、こうして硬い相手であれば、下手な上級魔術よりも防御貫通でダメージを与えやすい。
時折飛んでくる斬撃飛ばしを躱しながら、相手の間合いに入らずに貫く雷撃をひたすら撃ち込んでいく。
…
……
………
大体100発くらいの貫く雷撃を撃ち込んだ頃だろうか。
少しずつ鎧ゴーレムの動きが鈍ってきた。
ダメージの蓄積によるものなのか、雷撃による効果なのかはイマイチ判断はできないが、少なくとも確実に削ってはいるはず。
このまま負けない戦いをしておけば、いつかは勝てる。
そのいつかが、できれば数日後とかでない事を祈りたいが。
「とはいえ、いい加減に面倒だな……っ!」
魔術を2~3発撃つ、避ける、のサイクルを繰り返しているだけで、魔力は余裕で自然回復分でまかなえているし、体力の消耗も殆ど無いが、人間は不眠不休で戦えるようにはできていない。
できれば今日のうちにカタを付けてしまいたい所だ。
「貫く三叉の轟雷撃!」
強化型の貫く雷撃を同時に3本放つ、上級魔術を鎧ゴーレムにぶち込む。
普通の相手に対しては魔力と威力効率が見合っていない魔術だが、コイツのような硬い相手には効果抜群な魔術だ。
それなりにいいダメージが入っただろう、と思わず口元に笑みが浮かぶ。
しかし、そんな俺の笑みを掻き消すように、鎧ゴーレムからかなりの魔力が放出される。
これは、恐らく形態変化だろう。
そう考えるが早いか、俺は全力で部屋の入口の方に退避。
いざとなったらすぐに逃げ出せるようにしつつ、前面に全力の結界魔術を展開。
何があってもいいように備えておく。
「眩しっ」
キィィィン、と何かが鳴動するような音がしたかと思えば、小部屋内は眩い光に包まれた。
結界魔術のおかげで特にダメージを受けるような事はなかったが、普通に視界が塞がれているため、手を翳して光を和らげつつ、ジッと待つ。
時間にしてみれば、1分かそこらくらいだろうか。
光が収まったので、恐る恐る翳していた手をどけてみれば、眼前には人型のゴーレムが頭部のセンサー部を赤く光らせ、悠然と佇んでいる。
どこか筋肉のような見た目の外観で、今まで装着していた鎧のような装甲はパージしたらしく、周囲に残骸が散らばっていた。
身軽になった、と考えるのなら、先ほどまでの大振りで重い攻撃が、より素早く連続で繰り出される、という事だ。
退却の文字が頭を過ぎった瞬間に、ゴーレムが瞬時に俺の目の前へ到達し、横薙ぎに大剣を振りぬいていく。
その直後、俺が全力で展開していた結界魔術は、まるでガラスのように粉々に砕け散る。
「今の感覚……」
かろうじて反応が間に合い、結界魔術が砕けた瞬間にしゃがんだ事で、どうにか攻撃を貰う事は避けられたが、背筋に冷たいものが流れ落ちる。
ゴーレムが追撃の振り下ろしに入ろうとしていたので、横に転がってそれを躱し、体勢を立て直す。
先ほど、結界にヤツの大剣がぶつかった時の感触が、妙に軽かった。
違和感を感じたので、追撃を躱した事により、身体の向きをこちらに変えるゴーレムが握る大剣を見る。
先ほどまでは無骨な大剣だったのに、今は剣身に文様が浮かび上がっており、ほぼ間違いなく、あの大剣には魔術を無効化、あるいは破壊する効力があると確信。
魔術による防御を選択肢から捨てた。
あるいは、攻撃の方も無効化されかねないか。
「なら、純粋な腕前比べといくしかないな!」
気炎を上げ、俺はゴーレムに斬りかかるのだった。




