ワケあり9人目⑩
筆が乗ったので2回目の更新です。
「やれやれ、なんでこんな事に、なってんだろう、なあっ!」
周囲の魔物を剣で斬り払いつつ、思わず愚痴を零す。
事の発端は、鍛冶コンテスト2日前となった今朝に遡る。
………
……
…
レイネスタの鍛冶道具が揃い、打ち合わせで日程も細かく詰めてからは、順調にスケジュールが進み、俺も公務の合間を縫って、必要な素材を調達したりしていた。
順次作品も仕上がっていき、残す所は武器部門の剣と槍、防具部門の盾と鎧一式となっている。
鍛冶コンテストまで残り2日。
予定通りなら、素材も揃っているので、あとはレイネスタ次第といったところだ。
「ハイト! ちょっとお願いがあるんだけど!」
今日は公務も無いので、ゆっくりできそうだな、なんて考えていた矢先。
ドアノックすらせず、執務室に作業着のまま飛び込んできたレイネスタが、静寂を破る。
「……用事があって入ってくるのは構わないけど、せめてノックして返事くらい聞いてくれ」
一般常識くらいはちゃんとしろ、とジト目で彼女を見れば、そんな事は知るかとばかりに、執務机を挟んで俺の前にドンと両手を付く。
「それどころじゃないって! アタシ、新しいレシピを閃いちゃった! 上手くいけば、計画してたものよりもすごいのができるよ!」
とにかく閃きを形にしたい、という欲求に突き動かされている様子のレイネスタは、俺からの指摘などどこ吹く風、とばかりに目的を告げてきた。
よし、今は考える余地が無いみたいだから見逃してやるが、鍛冶コンテストが終わったら覚えとけよ。
シャルたちに頼んで地獄の教育コースに叩き込んでやる。
「で、何が必要なんだ? どうせ新しい素材がいるとか、そういう話だろ?」
「そう! そうなの! エンシェントゴーレムの核と、装甲が欲しいの! アイツらの素材って倒した瞬間から劣化が始まっちゃうから、これからすぐに素材調達して、劣化する前に加工したいの!」
エンシェントゴーレム、ときたか。
エンシェント、というだけあって、ゴーレムの中でも長く生きた個体がそう呼ばれるのだが、自己進化の過程で様々な金属や魔物の素材を取り込み、生半可な攻撃では傷一つ付けられない化け物だ。
あまり強くない判定の個体でさえ、A級最上位クラスだし、強い個体はS級を超えてSS級、なんて事もザラな魔物。
そもそもゴーレムという存在が、淀んだ魔力を核に、周囲の無機物を取り込んで意思を持ったものを差すのだが、時間を経るごとにその意思は自己進化していく。
時間を経た個体は、熟練の戦士といっても相違無い上、そもそもが固い装甲を持つので物理攻撃が効きにくいし、取り込んだ素材によっては、魔術も効きにくい厄介さがある。
当然、無機物であり生物ではないので、状態異常などが全く効かない。
早い話がとてつもない厄介者だという話。
「ね、お願い! 最下級のヤツでいいから! ちょっとだけ!」
装甲はともかく、核は倒さないと入手できないんだから、ちょっとだけもクソも無いんだよなあ。
さて、どうしたものか。
とはいえ、この調子だと自分一人でも探しに行きかねない気がするし、全く取り合わないワケにもいかないか。
「……ギルドに依頼があればな。無かったら諦めろ」
考えた結果、俺はギルドに依頼が無かったら諦めさせる、という方針を採った。
そもそもの話、やべーエンシェントゴーレムなんてS級冒険者の仕事であって、俺は一応まだA級冒険者だから、受ける事すらできないだろう。
そんな打算もあって、俺はレイネスタと共に冒険者ギルドの王都支部へと向かった。
なお、レイネスタを置いて行って、依頼は無かった事にしようと最初は思ったのだが、素材が手に入った時点から手を付けるために自分も同行する、とレイネスタが聞かなかったので、しれっと流す作戦は失敗に終わっている。
「おお、ハイト様ではありませんか。ちょうどいい所に」
依頼窓口に顔を出した所、俺の専属になっているイケオジが、嬉しそうな表情で依頼書を取り出す。
あれ、これすごーく嫌な予感がするぞ。
「王都近くの鉱山の地下深くに、新しい鉱脈が見つかったのですが、そこにエンシェントゴーレムもいるという事で、排除しなければ採掘が進められないと、リアムルド王国から指名で緊急依頼が来ております。エンシェントゴーレムは個体差が凄まじいので、まずは調査に赴いて頂き、討伐可能であればその場で討伐して頂いて構いませんが、個体能力次第ではS級2人も集めての合同討伐を手配します」
なんで……?
なんでこんなタイミングでちょうどいい依頼が来ちゃうの?
まるで天がレイネスタにエンシェントゴーレムの素材を与えようとしているかのようだ……。
「やった! アタシたち、ツイてるじゃん!」
ちょうどお誂え向きな依頼があったという事で、同行しているレイネスタもテンションが高い。
くそっ、今日はのんびりしようと思ってたのに!
少なくとも丸1日は潰れる事確定したじゃないか!
「……わかりました。その依頼を引き受けます」
とはいえ、心の中ではどんなに休日を望んでいても、陛下から俺への指名依頼となれば、断るワケにもいかなくて。
俺は内心で、ものすごーく渋々ながら依頼を引き受けた。
レイネスタと2人乗りでヴァルツに乗り、王都付近の鉱山へと向かう。
「ギルドの依頼を受けて来ました。新しい鉱脈はどちらに?」
現地に到着してから、現場の管理人に会って話を聞けば、件のエンシェントゴーレムは、新たに見つかった深部の鉱脈付近に立ち入らなければ襲って来ない、いわゆる縄張り守護タイプのようだ。
いざ戦闘となっても、縄張りの外に出ればそれ以上は追ってこない。
そういう意味では、かなり調査そのものは簡単にできる。
縄張りの端っこで戦闘を仕掛け、ある程度の情報が集まればすぐに撤退できるので、安全面も比較的確保しやすいか。
「ハイト!」
「今行くから急かすな」
もう、我慢できないとばかりにウズウズとした顔のレイネスタを宥めつつ、俺たちは管理人に話を通してから鉱山の中に踏み入っていく。
一応、内部にも魔物は多少なりと発生するようだが、深部以外は常に安全のために魔物が間引かれているため、ほとんど魔物に遭遇する心配は無いようだ。
「……ここ、何かある!」
革鎧に身を包み、自衛用の鉄棍を握ったレイネスタが、道端の壁を鉄棍で殴りつけた。
「バカ! 勝手な事をするな!」
何の予告も無しにいきなりの行動だったため、俺は彼女を止める事もできず、勝手を許してしまう。
そんな俺の気も知らずに、レイネスタは数回壁を殴打すると、ヒビの入った壁がボロボロと崩れ、ちょうど小さな子供が屈めば通れるくらいの小さな穴が空く。
すると、彼女は迷わずにその中へと入ってしまい、俺はいよいよ頭を抱える。
おいおい、自由すぎるだろ……。
俺ではどう頑張っても通り抜けられない穴で、変に広げようものなら、周辺から崩落してレイネスタどころか俺まで生き埋めになりかねない。
そうなれば、俺はここで待つしかないわけで。
「……何だ? この香りは」
穴の方から、何やら匂いが漂ってくる。
どこか精神を高揚させるような、そんな香りだ。
「……地震? おい! レイネスタ! 早く戻ってこい! 洞窟の様子が変だ!」
穴の中に怒鳴り声をかけても、反応は無し。
くそ、放ったまま俺だけ逃げるわけにもいかないし……早く戻ってきてくれ。
そんな俺の想いを他所に、レイネスタの魔力反応は徐々に俺から遠ざかっていく。
イチかバチか、魔術でレイネスタを引きずり出そうかと考えた瞬間に、地震がどんどん近付いている事に気付いた。
これは、地震じゃない。
……足音だ。
少しばかり時間が経って、俺たちが進んできた道の奥から、子供くらいの歩く土人形、もとい、プチゴーレムの群れがわらわらとこちらに向かってきていた。
両手を振り回し、完全に戦闘態勢だ。
「やれやれ、なんでこんな事に、なってんだろう、なあっ!」
…
……
………
以上、回想終わり。
対して強い魔物でないとはいえ、数の暴力はなかなかにしんどい。
群がってくるプチゴーレムを薙ぎ払いながら、俺はレイネスタが穴から出て来るのを待つのだった。




