ワケあり9人目⑦
本日は筆乗りが良いので2回目の更新です。
「これはまた、外観詐欺だなー」
ボロボロの外観はどこへやら。
店内に足を踏み入れれば、内装だけリフォームしたかのような綺麗な状態だ。
全体的に落ち着いた雰囲気で、様々な商品が棚に並べられている。
しっかりと出入口にレジが置かれている辺り、万引き対策もしっかり意識されているらしい。
「……おや、レイネスタじゃないか」
鍛冶道具なんかはどこにあるだろうか、と広い店内を見渡していたら、レジの方から男の声がレイネスタを呼んだので、俺はすぐに声の元へと振り返った。
すると、背の低いずんぐりとした男がこちらへ歩いてくるのが見える。
恐らく、ドワーフだろう。
白髪交じりの髪は丁寧に撫でつけられ、濃い髭もキチンと手入れされていて、ダンディズムを感じる顔立ちだ。
「知り合いか?」
向こうがレイネスタを知っているようだったので、彼女に確認してみれば、無言で頷く。
「おじいちゃん、久しぶり」
おじいちゃん、ね。
王都の出身なのだから、身内がいてもおかしくはないが、逆にその事実は俺に警戒を抱かせるには充分で。
「待って。おじいちゃんは大丈夫だから」
俺が少し警戒心を出したのがわかったのか、レイネスタが慌てて俺を止めるように動く。
本人が言うのなら大丈夫か、と少し警戒を緩めると、彼女はホッとしたように小さく息を吐いた。
「あのバカ義息子にバカ娘め、レイネスタを勘当して奴隷商人に売り渡したと言っておったが、本当のようだな」
俺たちを交互に見て、レイネスタの祖父は大きな溜め息を吐く。
「急に話しかけてすまなんだ。俺はスミロス・ノウノック。ノウノック道具店の店長兼職人だ。レイネスタの母方の祖父にあたる」
レイネスタの祖父、改めスミロス氏は、こちらに会釈をしてからレイネスタを抱き締める。
「今まで辛かったろう。助けてやれなくて、本当にすまなかった……」
「大丈夫。いい人が私を買ってくれたから」
スミロス氏は涙を流しながらレイネスタとの再会を喜んでいるようなので、一旦好きにさせておく事に。
そういえば、彼女が売られた奴隷商は使い捨ての人材として買われる所だったな。
普通なら、いつ死んでもおかしくないような仕事に従事させられていたのかもしれない。
そう考えると、知らないうちに彼女が死んでいる可能性もあったのだから、再会を喜びもするか。
「いかんな。歳を取ると涙脆くなっていかん。見苦しい所を見せた」
スミロス氏は5分程度で落ち着いて、こちらに頭を下げてきた。
「無理もないでしょう。彼女が売られていた奴隷商は使い捨ての奴隷を売っているような場所でしたから」
「理解してくれて助かる。ここで話をするのもなんだし、少年、奥に来てくれるか?」
色々と込み入った話になるだろうから、人目のある場所でというのも憚られるな。
大丈夫です、と返事をすれば、スミロス氏が自ら俺たちを店の奥の方に案内してくれる。
奥の方はスタッフ用スペースのようで、倉庫や従業員控室のような場所が見受けられた。
そこから2階の方に上がっていくと、そちらは居住スペースのようで、建物自体は店舗兼住居という事なのだろう。
「イーザー! イーザー! いるか!?」
居住スペースへと上がるなり、スミロス氏は大声で奥の方へと呼び掛ける。
「うるさいねえ! 1回呼べばわかるよ! まだ耳は遠くなってな……い……」
声を張り上げながら威勢良く奥から出てきた、スミロス氏の奥方であろうイーザーと呼ばれた女性。
身長を見る限り、人間であるようだが、年齢的にはそんなに変わらなそうか。
スミロス氏と同じような、白髪交じりの髪をおさげにしているが、性格的には肝っ玉母さん、といった様相だ。
だが、俺たちの前に姿を現した途端、レイネスタの姿を見て言葉尻が萎んでいく。
「本当にレイネスタ、なのかい……?」
信じられない、というようにレイネスタの名前を呟くと、下でスミロス氏がそうしたように、イーザーさんも彼女を抱き締め、泣き始める。
「レイネスタ、良かったよ……使い捨て奴隷を売ってる奴隷商に売られたって聞いて、あたしゃもう生きて会えないと……」
感情がダイレクトに出やすいのは、遺伝かねー。
この2人を見ていると、レイネスタの感情表現が素直なのもわかる気がするな。
「ごめんよ。客人がいるのに、取り乱しちまって」
イーザーさんも5分くらいで落ち着きを取り戻して、ばつが悪そうに頭を軽く掻くと、俺たちを居間の方に案内してくれる。
掘りごたつのようになっているテーブルに案内され、座っているよう言われたので、とりあえずは言われた通りにしておく。
レイネスタも、特に不快感を露わにしたりせずに大人しく言葉に従っているから、とりあえずは問題無しと判断していいか。
「大したモンじゃないけど、最低限のもてなしはさせておくれ」
俺たちが座って待っていると、スミロス氏とイーザーさんがお茶と軽食を持ってきてくれたので、それを受け取ってから4人で改めて掘りごたつに座る。
「少年が今のレイネスタの主人、という事でいいのか?」
スミロス氏の確認に対し、俺は小さく頷いて、ちょうどいいかと自己紹介に移った。
「レイネスタを買ったハイトと申します。以後お見知りおきを」
貴族名を名乗るかどうか迷ったが、あまり貴族というのを意識させるべきじゃないと判断し、名を明かすのみに留めておく。
とはいえ、王都ではぼちぼち有名人なので、もしかしたら名前でバレるかもしれないが。
「……まさか、ハイト・リベルヤ伯爵様?」
そんな俺の懸念は的中し、スミロス氏は少し青い顔で俺の名前を言い当てた。
「そうとも言いますね。あまりお二方を緊張させたくなかったので、意図的に貴族としては名乗らなかったのですが」
「あらまあ、最年少で伯爵位になったって噂の。どんな人かと思ってたら、思ったよりも子供だねえ」
顔を青くしている旦那とは対照的に、イーザーさんは近所のおばちゃんっぽいノリで俺を思ったよりも子供、と評したが、実際その通りだと思う。
当然、そんな発言を聞いたスミロス氏は顔が真っ青だ。
「イ、イーザー! 伯爵様に何て口の利き方を!」
「気にしないで下さい。公式の場でもないですから」
むしろ、スミロス氏のように変な緊張をされるよりは、イーザーさんのように気安くしてくれた方が楽だし。
遠まわしに気安くてもいいよ、と言ってみると、イーザーさんがほら、大丈夫だったろ、とスミロス氏の背中を叩く。
うーん、見事なくらい正反対な夫婦だな。
ともあれ、レイネスタの事とか、色々と聞いておこうか。
家族から得られる情報なら、その確度は高いだろう。
暗部にベスプリームの事を調べさせているし、近いうちにそこから情報が上がってくるだろうけど、自分で情報を拾えるのなら、それも悪くない。
そう考えながら、俺は出された茶で喉を潤すのだった。




