ワケあり8人目㉗
「よし、それじゃこっちの屋敷は頼む」
「はい。行ってらっしゃいませ」
秋の空気が流れ始めた9の巡りの1日。
俺たちは交易都市ラウンズに向けて王都を発つ。
リリスが来るまでは、最初期メイドの中でリーダー格だった副侍女長に、王都の屋敷を任せ、主要なメンバーとトーマス隊長を含む警備兵の精鋭10名、同じく精鋭の使用人10名を連れて、馬車5台での移動だ。
馬車以外に、俺とリシアはそれぞれヴァルツとスノーホワイトに騎乗し、目的地に向かっている。
『人間の馬具とやらはどんなものかと身構えていたが、存外邪魔にならぬものだな』
立派な体躯のヴァルツは、普通の馬具ではサイズが合わなかったため、専用で作成した特注品を使用しているのだが、意外と嫌がる事は無かった。
本馬曰く、付け心地は悪くないそう。
「嫌がられなくて良かったよ。馬具無しだと、背中に乗る人間側は大変だからな」
まあ、恐らく嫌がりそうだなーと思う部分はこっそり構造を弄ってもらっているので、完全にヴァルツ専用にしているのだが。
その甲斐あってか、久しぶりに王都の外に出たヴァルツは機嫌がいい。
『素早く野を駆けるのもいいが、こうして歩いて移動するのも悪くない』
「そりゃ良かった」
主要な街道を移動しているのもあって、魔物やら盗賊のようなトラブルは特に起こらず、平和な移動が続く。
急いで飛ばせばラウンズまで数時間で着く(恐らくヴァルツが全力で駆ければ1時間かかるかどうかくらい)距離ではあるため、ゆっくりとした移動でも半日あれば余裕だ。
そんな理由もあって、分乗した5台の馬車でもって、ゆったりと移動しているのだが、久しぶりにゆっくりとした状況である。
「ハイトさん、ヴァルツさんは何と?」
背中の方から耳心地の良い声が聞こえ、俺は今まで意識から外していた温かな体温と、背中に当たる柔らかい感触を再認識してしまう。
今回、移動に際してシャルが一緒にヴァルツに乗ってみたいと言ったので、本馬に確認を取ってから2人乗りをしているわけだが……背中の感触が幸福だけど煩悩に染まりそうで良くない。
そんな俺の葛藤を知らないシャルは、楽しそうに声を弾ませながら2人乗りを楽しんでいる。
「久しぶりに外に出れて気持ちいいとさ」
俺とシャルのやり取りは、使用人たちやリシアたちから、生暖かい目で見守られているのだが、その辺りは気にしない事にした。
どうせこれから嫁が増えるのだし、そうなるとイチャイチャする機会を誰かしらに見られる事は増える。
ある意味、この場の全員が身内なわけだし、その辺りはもう開き直っているわけだ。
というか、これから王女様方3人が新たに嫁いでくる事がほぼ確定しているので、開き直るしかないとも言う。
シャルの立てているハーレム計画がどれくらい深淵なものかわからないし、俺はもうシャルを受け入れると決めた時点で、彼女のハーレム計画を受け入れる事が確定しているので。
「ある程度ラウンズでの業務が落ち着いたら、王女様方がラウンズに来てみたいと打診が来ていますので、色々とおもてなしを考えておいて下さいね」
「やる事が落ち着いたらな。まずは色々と改革する事になるだろうから、しばらくは忙しいぞ」
ラウンズに着いたらまずは現地の代官からの引継ぎだ。
その内容次第で俺がどのくらい手を入れるか、どれだけ新しい事をできるかが決まる。
まあ、王家直轄地の代官がそうそう不正に手を染めているはずもないし、無能という事は無いはず。
恐らくは、殆どシヴィリアン公爵の統治を維持しているのだろうと思われれるが、その辺りは話を聞いてみてからか。
『近くにはぐれの魔物がいるな。強くはないがどうする?』
俺がラウンズに着いてからの事を考えながら、煩悩を紛らわせていると、ヴァルツから魔物がいるという報告が。
強くはないとの事なので、放っておいてもいいだろうし、こちらに襲ってくるようなら倒せばいい。
というか、警備兵の皆さんがどうにかするだろう。
個々が最低でもB級冒険者上位の実力を持っているし、トーマス隊長に至ってはA級上位と比べても遜色が無い。
貴族家当主となったからには、この辺りの対応も部下に任せるようにしなくてはならないのだ。
「ま、俺たちが出張るような事にはならんだろ」
『……む、そのようだな』
俺たちが対応するまでもない、と思っていたら、すぐに検敵必殺で警備兵の皆さんがはぐれ魔物を倒したようで、程なくして魔物を倒して後処理もしたという報告が上がってきた。
うんうん、優秀な部下ばかりで何よりだな。
というか、領地を持つのだから、ある程度の常備軍は持たないといけない。
もしかすると、既に常備軍がいる可能性もあるが、練度と規模次第ではかなり最優先で手を付けないといけない可能性がある。
ラウンズは規模も大きいから、絶対にうちのメンツだけじゃ手が足りない。
調練は基本的にリシアに任せればいいとしても、1日2日でトーマスさんたちに並ぶ能力を得られるはずもないし。
「やる事、いっぱいありそうだな」
「私の腕の見せ所ですね」
「ああ。頼りにしてるよ」
こうして、道中に特別大きなトラブルも無く、俺たちはラウンズへと向かったのだった。
ちょっとシャルといちゃつきながらラウンズへ向かう道中でした。
次回から、新領地での活動が始まります。




