ワケあり8人目㉑
「来たな。突然の用事で逃げ出すかと思ったが、心を決めたようで何よりだ」
エスメラルダに王城へと連行され、馬車を降りてから城の使用人の案内で通されたのは、小規模なサロンだった。
それほど大きな人数は収容できず、10人前後での小さな集まりをするだけの部屋だ。
どちらかと言えばプライベートや密談などに使われる空間なのだろう。
丸テーブルが2セットあって、各テーブルに椅子が6脚ずつ備えられているが、その間隔はやや狭い。
恐らくだが、普段はもっと少ない数の椅子で運用しているのではかなろうか。
入口から奥の方にある丸テーブルの上座側に、陛下を挟むようにして王妃様と側妃様の3人が座っているが、3人の表情は一様にしてやったりの笑みだ。
「そうですね。事前に知らされていたら何かしらの理由を付けて逃げたでしょうね」
かねてより王妃様や陛下たちから、王女殿下方と茶会で顔合わせをしてほしいと言われていたのだが、冒険者ギルドからの緊急依頼やら何やらで、どんどん後回しにしてしまっていた。
俺も気遅れしてしまうし、神経も使うので、それでいいと思っていたし、それで上手く忘れられないかなー、と思っていたわけで。
「ラウンズ側の準備を遅らせた甲斐があったな」
陛下からラウンズの引継ぎが遅れているという理由で、俺の移動が延ばされていた理由が語られ、なるほどと納得してしまう。
ラウンズに行って統治に関わり始めれば、否応なしに忙しくなるし、そうなると王都に来る機会も減る。
俺が手を入れた統治が安定するまで、茶会などに参加している暇はしばらく無いだろうから、その前に顔合わせは済ませてしまおう、という魂胆だったんだろうな。
「わざわざ最高権力を使ってそこまでやりますか?」
種明かしをされた事で、俺は思わず呆れた表情で陛下を見てしまう。
しかし、この場に俺の味方はいなかったようで、場の空気が冷たい。
「諦めなさい。面倒だからって後々に回し続けたあなたが悪いわ」
横のエスメラルダからもツッコミが入り、俺はがっくりと肩を落とす。
エスメラルダ、お前も陛下側なのかよ。
いや、そもそも今日のこれが隠されてたって事は、シャルがそもそも了承を出しているはず。
もしかして、陛下たちは最初からシャルを抱き込んでたか?
「あなたを動かすには、シャルロット嬢を動かすのが手っ取り早いですもの。具体的な日取りを提示したら、喜んで予定を調整して下さいましたわよ?」
俺が真実に思い至った頃合いに、側妃様から答え合わせをされ、俺は隠すまでもなく表情をしかめた。
「とはいえ、自分たちに利があると判断したからこそ、シャルロット嬢はこちらの条件を飲んだのですよ。彼女はあくまで、あなたやリベルヤ家の繁栄と発展を望んでいますから」
言っている事はわかる。
王家と強い繋がりができれば、今後リアムルド王国で貴族として暮らしていく上で、これほどない後ろ盾となるし、もし俺の子孫がリベルヤ家を継ぎ、その役目を果たすのなら、お互いに助け合う事もできるのだから。
「……1人でぶすくれててもしょうがないか」
俺がごねた所で、もうどうこうできる段階には無いので、覚悟を決めて下座の席に腰を下ろす。
それを見た陛下たちは、満足気に頷いている。
クッソ、覚えとけよ。
また特大の面倒事をぶん投げてやる。
「それじゃ、あとはごゆっくり。私は離れた場所で護衛に当たらせてもらうわ。こんな所で何も無いとは思うけれどね」
俺が観念したのがわかって、エスメラルダは満足気に笑いながら離れていく。
テーブル付近から離れ、壁際に移動した所で足を止め、こちらの様子を伺っているので、あくまでただの従者兼護衛として控えるつもりのようだ。
「さて、それではさっそく子供たちを呼ぶとしようか。少々騒がしくなるであろうがな」
とりあえず舞台は整った、とばかりに陛下は小さな鈴を鳴らす。
透き通った音が鳴ると、俺が入ってきた入口とは違う入口から、ぞろぞろと陛下の子供たちと思しき方々が入ってくる。
さすがにしっかりと教育されているのか、その誰もがしっかりと洗練された貴族らしい動きをしており、ただの歩き姿勢すらも美しい。
子供たちが陛下たちの横にずらりと整列し、王族一家が揃った様は、さすがに壮観だ。
「では、歳が上から順にハイトに自己紹介をせよ」
陛下が子供たちに呼び掛けると、一番身長の高い、一番上の子が前に歩み出て、綺麗なお辞儀を披露する。
「初めまして。長男のサクス・リアムルドです。以後お見知りおきを。噂に聞くリベルヤ伯爵とお会いできて光栄です」
まずは長男のサクス様。
どちらかと言えば王妃様似で、切れ長の目が凛々しい。
確か16歳だったかな。
順当にいけば、次期リアムルド国王は彼になるはず。
何というか、あの放蕩王の子供とは思えないほどにピシッとしてて真面目そう。
これは性格も王妃様に似たのかな?
「次男のトラヴィス・リアムルドだ。そのうち王家からは出ていくから、あんまり覚えなくてもいいぜ」
次は次男のトラヴィス様。
こちらは陛下似で、軽薄そうな物言いなのが特徴。
サクス様とは年子のはずなので15歳かな。
いつかは王家を出て行くと宣言しているが、何かやりたい事でもあるんだろうか。
細かい理由は不明なので、一旦置いておこう。
「長女のマーシャ・リアムルドです。本日はお近付きになれて大変光栄でございます」
ここから女の子に切り替わって長女のマーシャ様。
顔立ちは基本的に王妃様に似ているけど、目元とか鼻筋は陛下似に見える。
確か前に聞いた時は王妃様が13歳って言っていたよな。
柔らかい笑みと、丁寧な物腰から、とてもしっかり者な印象だ。
「次女。クワイエット・リアムルド。眼の見習い。よろしく」
そして次女のクワイエット様。
顔はほぼ王妃様そっくりで、びっくりするほど表情筋が動かないし、言葉も端的だ。
これはあれか、カナエと同類の表情が動かない人種かね。
10歳だったはず。
「三女のレイジュ・リアムルドですー。初めましてー」
王妃様の子としては最後で、三女のレイジュ様。
間延びした話し方で、すごくのんびり屋な印象が強い。
表情からして、とてもほわほわしていそうな感じ。
とはいえ、6歳と考えると随分としっかりした言葉遣いではあるな。
「僕は長男のアルギス・リアムルド。騎士団見習いをしている」
「同じく次男のエルギス・リアムルドだ。魔術師団の見習いをしている」
続いて、褐色肌のイケメン双子が側妃様の長男と次男。
ツリ目なのも相まって、側妃様の要素が外見的にかなり強く出ている。
それぞれ騎士と魔術師を志望しているみたいだ。
年齢としては、俺とさほど変わらないか、少し下くらいだろうか?
「長女のシャティ・リアムルドだ。影見習いをしている」
最後に、側妃様の長女がシャティ様。
こちらもツリ目だったり褐色肌だったり尖った長い耳だったり、かなり側妃様の遺伝子が濃い。
そして、影見習いとな。
言葉遣いからして、武人っぽさは感じていたが、影の見習いとは、また随分と修羅の道を往くものだ。
少し遅れて、明確に側妃様と違う点が一つある事に気付く。
そう、ちゃんと胸があるのだ。
側妃様は、それはもうビックリするくらいすとーんとしている(膨らみが全く無いわけではない)のに。
年齢的には12歳とかそんなもんだろうけど、既に側妃様を余裕で超えている。
トリプルスコア以上の大差だ。
「リベルヤ伯爵、どこを見比べておりますの?」
視線で考えがバレたのだろう。
側妃様からドスの効いた注意が入ったので、失礼しました、と頭を下げておく。
もしかすると、胸が小さいのを気にしているのかもしれない。
「さて、一通りの自己紹介も済んだ事だし、始めるとしよう」
陛下の号令一つで、城の使用人たちが紅茶やお茶請けの給仕を開始。
王子・王女殿下方も各々が椅子に着席していく。
そうしているうち、女性陣とトラヴィス様は俺のいるテーブルに、それ以外の男性陣は陛下たちの座るテーブルの席へ座ってしまう。
陛下の娘さん方がメインで俺と交流したい、という事か。
とりあえず、適度に幻滅してもらえるよう、上手い事やらないとな、と俺は人知れず決意を新たにするのだった。
まさしく華麗なる一族。
側妃様<越えられない壁<シャティという胸囲の格差社会。




