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ワケあり1人目②

猛毒解除トキシック・ディスペル


 宿の部屋へと駆け戻り、少女をベッドに寝かせてから、最上級の解毒魔術を施す。

 自分の生死に直結すると思って、公爵家にいた頃に、解毒と回復の魔術は最上級のものを覚えておいて良かった。

 とはいえ、毒の中には魔術では治せない類のものもあるらしいので、過信は禁物だが。


―――――――――


シャルロット・シヴィリアン

14歳

種族:人間

身長:164センチ

体重:54キロ

状態:衰弱(疲労・空腹)

生命力:10

精神力:15

持久力:10

体力:8

筋力:6

技術:6

信念:12

魔力:12

神秘:2

運:2


特殊技能

・瞬間記憶

・並列思考

・帳簿計算

・指揮

・経験予測

―――――――――


「よし、毒は消えたな」


 解毒魔術を施してから、改めて鑑定してみれば、少女の状態から毒の文字が消えている。

 とりあえず、峠は越えたと言えるだろうか。

 奴隷だったため、服は粗末な貫頭衣一枚だ。

 春なので温かいはずだが、身体が弱っている状態で冷やすのは良くないだろう。

 とりあえずベッドの上に寝かせただけの状態から、毛布をかけておき、一旦は様子見だろうか。

 そうだ、一応宿の方にも話を通しておく方がいいだろうな。

 

「病人? ああ、変に部屋を汚したりしなきゃ構わないよ。他に移るモンでもないんだろう?」


 一度放っておいても大丈夫そうだったので、女将さんに話を通しに行った所、別に構わないとの事。

 部屋の代金も特に増やす必要無いらしいが、食事代だけは人数分取るとの事だったので、彼女が回復して食事を摂る時は追加で払う、という形に落ち着いた。


「ちなみに少し厚かましいお願いをしてもいいですか?」


「なんだい? 藪から棒に」


「部屋にいる病人が目を覚ました時に、何か消化にいいものを別で作って貰ったりはできますか? もちろん、別途で料金はお支払しますので」


 お粥とかがあるかはわからないが、少女はかなり身体が衰弱していたようなので、いきなり普通の食事をたべさせるのは良くないだろう。

 俺が別途自分で準備してもいいんだが、いざという時に目を離していたせいで彼女を死なせてしまうのは目覚めが悪い。


「それくらいお安い御用さ! ねえ、あんた!?」


「おう!」


 幸いな事に、病人食を作る事そのものは問題ない、と女将さんが請け負ってくれた。

 彼女が確認するように厨房の旦那さんに声をかけると、威勢のいい返事が返ってくる。

 これで俺が彼女に付きっきりでも大丈夫そうだ。


「それでは、その時になったらお願いしますね。それじゃ、部屋に戻ります」


 女将さんに頭を下げてから、そそくさと部屋に戻る。

 ベッドで眠る少女は、かなり呼吸が安定しているようで、あとは彼女の回復力に任せる形になるだろう。

 今日はこれ以上外出する事もないし、ゆったりと装備の手入れをしつつ、彼女の状態を見守るとするか。




……

………




「うぅん……ここは……?」


 装備の手入れを終えて、少しウトウトしていたら、少女が目を覚ました。

 衰弱が酷かったからか、少し声がか細い。


「ここは燕の休息地っていう宿の部屋だ。起きれるか?」


 少女に、努めて優しい声色で声をかける。

 まだ現状を理解しきってはいないだろうに、彼女は無言で頷くと、生まれたての小鹿の如く身体をプルプルさせながら、たっぷり5分くらいかけて上半身を起こす。

 思ったよりも回復していそうだな、と思いつつ、適当に買っておいた木製のカップに水を入れ、魔術で温めて白湯にしておく。


「とりあえずこれ、飲めるか?」


 カップを手渡すと、少女は両手で受け取り、ゆっくりと口に運ぶ。

 少しずつ彼女の喉が動くのを見て、とりあえずは一度離れても大丈夫か、と判断する。


「食事を用意してくるよ。まあ、作るのは宿の人なんだけんどな」


 少女に声をかけてから、俺は部屋を出て女将さんの所に向かう。

 もう夜になっているし、自分の分のメシもついでに貰っておこうか。


「すみません、病人食をお願いします。あと、俺のメシも」


「あいよ、もうできてるから持っていきな」


 ちょうど夕食時だったのも相まって、既に食事は用意されていたようだ。

 病人食も温め直すだけだから、と言われ、5分もしないうちに自分のメシと、少女用の病人食――麦粥が大きいトレイに乗っかって出て来た。

 女将さんに代金を支払いつつ、俺はそれを持って部屋に戻る。

 戻ってみれば、少女は上半身を起こしたままの状態で待っていた。


「お待たせ。食欲はある?」


 俺の問いかけに、少女は無言で小さく頷く。

 麦粥の器に木匙を入れて、そのまま器を少女に渡す。

 彼女は器を受け取ると、太腿の間辺りに置いてから、木匙で湯気を上げる麦粥を掬い、ふうふうと息を吹きかけて冷まし始める。

 とりあえず、食事の介助はいらなそうだな。


「無理して全部食べなくていいから。食べ過ぎて体調を崩す方が良くない」


 病人……というか、衰弱していた人は食が細くなるだろうと思っていたので、一声かけてみれば、少女は一口目の麦粥を頬張りながら無言で頷く。

 とりあえず、食欲はしっかりあるみたいで良かった。

 ちょくちょく少女の様子を見ながら、俺も自分の食事を摂っていく。

 時折、少女から羨ましげな視線を向けられているような気がしたが、気付かないフリをしておく。

 心配しなくても、体調が戻れば同じメシ食えるから。

 早く食べたいなら頑張って体調を戻しておくれ、と心の中で念じておこう。

 効果があるかは未知数だが。


「おお、完食したな」


 なんだかんだと時間をかけつつも、少女は麦粥を綺麗に平らげた。

 少し物足りなさそうな感じが見えるが、目覚めたばかりならこれ以上はやめておいた方がいいだろう。

 足しにはなるかと思い、先ほどのカップに再び白湯を作って少女に渡せば、彼女は無言で受け取り、ちびちびと飲み始める。


「食器を戻してくる。まだ目覚めたばかりなんだから、大人しく寝てるようにな」


 一声かけてから食器を返しに行き、部屋へと戻ってくれば、少女は再び横になっていた。

 先ほど渡したカップは既に空になっていて、この調子なら回復は存外早いかもしれないな。

 とりあえず、命に別状は無さそうだし、多少はほったらかしても大丈夫だろう。

 そう思って、俺は彼女を置いて風呂に向かう。

 さすがに汗くらいは流したいしな。

 少女も、動けるようになればお風呂に入れてあげないと。

 とはいえ、まだ完全に起き上がれるようになるまで、どのくらいかかるかわからないし、しばらくは自分で身体を拭いてもらうしかないか。

 今日はさすがにまだそこまでできないだろうから、明日以降から彼女の回復具合を見つつかな。

 明日以降はどう動こうか、と計画を練りつつひとっ風呂浴びてから、部屋に戻ってみれば、ベッドで少女が小さく寝息を立てていた。


「……俺も寝るか」


 仰向けで眠る少女の顔は美しく、まだあどけなさこそあるものの、大人になればかなりの美人になるだろう。

 ちょっとだけ良くない目を向けそうになったので、俺は荷物の中から夜営用の寝袋を取り出し、そそくさと床で横になる。

 何だかんだで疲れていたのか、程なく眠気に意識を奪われていった。

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