ワケあり8人目⑫
セファリシアとのデート会です。
「今の在庫で準備できるのはこんな所だな。確認してくれ」
カウンター奥に引っ込んだブライアンさんが、あれこれと装備を持って来てくれたので、その内容を確認していく。
結構な候補があったようで、何度か往復を繰り返し、カウンターが溢れそうなくらいの数を並べてくれていた。
「おお、これはすごいな!」
たくさんの装備が出てきたのを見て、リシアが目を輝かせる。
こういう所は本当に、武の人間なんだな、と思う。
見た目は長身の凛とした美人、という感じなのだが。
ともあれ、一緒に内容を確認していこうか。
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聖銀騎士の剣
聖別された白魔銀を用いた合金で作成された、聖銀騎士たちの直剣。
高い聖性を持ち、不浄の魔物や不死の魔物に特攻を持つ。
また、持ち主の祈術の効力を高める効果がある。
直剣にしては長めのものであり、扱いには高めの筋力と技量の両方を要求する。
十字を模した全体の形状から、この剣を祈りの十字架とする聖銀騎士も少なくなかったという。
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聖銀騎士の戦嘴槌
聖別された白魔銀を用いた合金で作成された、聖銀騎士たちの戦嘴槌。
高い聖性を持ち、不浄の魔物や不死の魔物に特攻を持つ。
鳥の嘴のような頭部と戦鎚としての頭部を併せ持ち、状況に応じて刺突と打撃を使い分ける事が可能。
また、持ち主の祈術の効力を高める効果がある。
自らを祈りの術で強化した、聖銀騎士による渾身の一撃は、片手で金属鎧を易々と貫き、不浄の魔物を粉砕したという。
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聖銀騎士の籠手
聖別された白魔銀を用いた合金で作成された、聖銀騎士たちの籠手。
頑丈な割には軽く、さらに高い聖性を持ち、呪いや汚染を良く弾く。
祈術の触媒とする事ができ、その効力を高める。
祝福による聖別は、聖女や聖者と呼ばれる人物が一つ一つ手作業で行い、清き祈りを神が聞き届け、それは聖別されると信じられている。
この籠手を纏った聖銀騎士は、武器を失った際の最終手段として、拳を不浄の魔物に叩き付けたという。
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聖銀騎士の鎧
聖別された白魔銀を用いた合金で作成された、聖銀騎士たちの鎧。
頑丈な割には軽く、さらに高い聖性を持ち、呪いや汚染を良く弾く。
また、持ち主の祈術の効力を高める効果がある。
堅牢な板金鎧であり、肩部は関節の稼働を妨げない作りでありながら、曲面加工で攻撃を逃がす工夫がされているため、かなり高い防御効果を持つ。
聖銀騎士の中でも高い地位の者だけが着用を許されており、その白銀の輝きは、内部腐敗によって聖銀騎士が廃止されるまで、一般聖銀騎士の羨望の的であった。
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聖銀騎士のブーツ
聖別された白魔銀を用いた合金で作成された、聖銀騎士たちのブーツ。
頑丈な割には軽く、さらに高い聖性を持ち、呪いや汚染を良く弾く。
また、持ち主の祈術の効力を高める効果がある。
祝福による聖別は、聖女や聖者と呼ばれる人物が一つ一つ手作業で行い、清き祈りを神が聞き届け、それは聖別されると信じられている。
このブーツによる蹴りは、不浄の魔物をよく怯ませ、時には打ち倒したという。
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聖銀騎士の盾
聖別された白魔銀を用いた合金で作成された、聖銀騎士たちの盾。
頑丈な割には軽く、さらに高い聖性を持ち、呪いや汚染を良く弾く。
また、持ち主の祈術の効力を高める効果がある。
やや大型のカイトシールドで、大盾ほどの大きさはないが、広い範囲を守れる代わりに扱いが難しい。
自らを祈りの術で強化した聖銀騎士の守りは、魔物・人間を問わず大盾のごとく鉄壁を誇ったという。
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オルフェさんの装備を整えた時にも出てきた、聖銀騎士シリーズの装備だな。
祈術を使った俺に近い戦闘スタイルの彼女には、悪くない選択肢だろう。
ただ、攻撃系の術は適正が無いらしいから、若干追加効果が腐りがちになるか。
「ふむ、悪くないが、私には若干向いていなさそうだ。この中から使うとすれば、籠手くらいか」
防具が祈術の触媒を兼ねているのは便利そうだしな。
そんで、増幅効果もある。
というか、パッと見てこれらの装備の効果を理解しているらしい。
リシアに鑑定能力とかは無いはずだが。
「わかるのか?」
「ああ。祈術に反応しそうな感覚があるからな。魔術にしろ祈術にしろ、その辺りは感覚的にわかるものだろう?」
あー、確かに触媒1つ取っても魔力の伝導性や増幅性の良し悪しは、術を使う人間ならすぐにわかるか。
ただ、殆ど触れてもいないのにそれを感じ取れるのは、相当感覚が鋭敏だと思うが。
「ああ、そういえばこれ、リシアならもっと上手く使えるんじゃないか?」
最近はルナスヴェートに取って変わられて、めっきり出番の無くなっていた試作型剣槍をリシアに渡す。
持ち歩いてはいても、魔術の触媒を兼ねるルナスヴェートが便利すぎて、それ以外の武器を使う事がめっきり無くなってしまったのだ。
近接武器の適性がどれも高いのなら、俺よりもよほど上手く扱えるのではないだろうかとも思えるし。
「ふむ、これは……なるほど。剣であり、槍なのか。穂先が大きくなる分扱いは難しそうだが、これは便利だな」
俺が説明せずとも、変形機構を何となくで動かし、その機能を目の当たりにしたリシアは、嬉しそうに表情を緩める。
「店主、この剣は長さを調整する事はできるだろうか? この状態だと剣として扱うには些か短い。そして、槍の穂先とするには長すぎる。柄を伸ばすのとは逆に、剣身を縮める事ができればより使い勝手がいいのだが」
「なるほど……ハイトはそのまま使ってたが、そういう調整もあるか。確かに、穂先の長すぎる槍は扱いにくいよな」
俺とは別視点の可変武器への指摘を受け、インスピレーションを刺激されたのか、ブライアンさんはカウンターでメモ用紙に色々と書き込み始めた。
武器を色々と扱える彼女ならではの視点というのもあるのだろう。
「それこそ、この剣の長さくらいだと私にはちょうどいいな」
彼女が聖銀騎士の剣を手に取り、このくらいの長さにしてほしい、と要求すれば、ブライアンさんは熱心にメモへ書き込んでいく。
それから、祈術よりも戦技関係の強化が欲しいという注文も付ければ、ブライアンさんは出した装備を持って再度カウンター奥へと引っ込んだ。
うーん、武器は俺の渡した剣槍になるとして、あとはどうすっかなあ。
戦闘スタイルが俺に似てるから、俺と同じように戦技強化の追加効果やらの装備があればいいんだが。
「こうして装備選びをするのは楽しいものだな。今の私の装備は侯爵領の鍛冶師に打たせたものだが、先ほどの品は遥かにいいものだった。惜しくも私に向かない物ではあったが、オルフェ辺りの装備としては良さそうに見えたな」
こういった武具に関しての審美眼を、鑑定能力無しでここまで磨いているのは、話をしていて素直に驚いた。
当初は、フルアーマーのオルフェさんが出来上がる予定だったのだが、装備重量に彼女が耐えられなかったので、防御面は大きく削るしかなかったのだが、その事をしっかりと見抜いているのだ。
今や正式に我がリベルヤ伯爵家の指南役になったリシアは、驚くべき事に所属している人間1人1人の戦闘スタイルや能力を把握している。
得意分野においては、シャルやエスメラルダ並みにぶっ飛んだ優秀さだなと思う。
しかしまあ、こんな色気の無いはずの会話でイキイキしちゃって。
好きな事は人それぞれだけど、見かけにはよらないな、と思いながら、俺たちはブライアンさんが次の装備を持って来るのを待つのだった。
次回に続きます。




