ワケあり8人目⑪
これで最後のデート対象、セファリシアです。
「ハイト! 待っていたぞ!」
エスメラルダと1日を過ごした翌日。
約束の時間に門の所へと行けば、もうそれは今日を楽しみにしていました、という様子のセファリシア嬢が待っていた。
大型犬が尻尾ブンブンで飛び掛かるのを我慢してウズウズしてる感じがするね。
「おう、お待たせ。で、その恰好は何だ?」
到着して、待っていた彼女の装いは、どう見ても戦闘用装備である。
動きやすさを重視した皮鎧、腰に佩いた長剣、左腕に付けた盾。
一体何をしに行くつもりなんだ。
「もちろん、冒険者登録をして依頼をこなすんだ!」
目がキラッキラですねセファリシア嬢。
大方、カナエやジェーンがそうしているのを聞いて、自分もしたいと思ったんだろう。
まあ、そのうちするつもりだったし、それが早まったと思えばいいが、わざわざ今日である必要があるのか言われれば疑問に思うが。
「あー、そうしたいなら俺はいいんだけど、本当にいいのか?」
「うむ。買い物や食事など、いつでもできる。いつもと違う場所でそれをする事も意味があるのだろうが、私は今、ハイトと2人で冒険者活動をしてみたい。これから先、領地運営をするとなれば、冒険者としての活動をする機会も減るだろう?」
彼女の言う事は間違いではない。
俺の場合は、立場的に冒険者稼業の方が優先される(ギルドからの緊急依頼か国からの依頼に限る)のだが。
「わかった。それならそれで俺も準備してくる」
普通にお出掛けするつもりの恰好だったので、冒険者活動をするとなれば、さすがに場違いになるだろう。
どうせ冒険者ギルドに行くのなら、彼女の装備を整えたりもすべきだろうし。
着替えたり装備の準備をしてから、俺は一度シャルの所に寄った。
これから冒険者ギルドに向かう事、そこでセファリシア嬢の装備を整えるための予算が欲しい事を伝えれば、即座に準備をしてくれる。
ホント、対応が早くて助かるよ。
「待たせたな、セファリシア」
準備を整えた俺が門の所に移動すると、セファリシア嬢はあからさまにムッとした表情に。
「私たちは婚約者なんだ。リシアと気軽に呼んでくれ」
なるほど、もっと親しみを持ってくれ、って事ね。
相変わらず、感情がストレートに出るなあ。
むしろ、俺相手だからそうしているのかもしれないが。
「わかったよ、リシア」
「うむ!」
個人的にはもうちょっと段階を踏んでから愛称で呼ぶべきかな、と思っていたのだが、俺が思っていた以上に彼女からの好感度が高かったようだ。
言われた通りに愛称でリシアと呼んでみれば、彼女は満足そうな笑みを浮かべた。
「で、その馬は?」
「スノーホワイトだ!」
俺が準備をしている間に連れて来たのだろう。
彼女の近くにいる、立派な体格の白馬の存在に、思わずツッコミを入れてしまった。
そして、白馬の名前であろう返事が返ってきて、俺はズッコケそうなってしまう。
いや、そうじゃない。
名前も知らなかったけどもさ。
こっちに彼女が越して来た時に馬車を引いてた馬だから見た事はあるんだよ。
今聞いてるのは、何でその馬を連れてるのかって話だよ。
乗るための装具もバッチリフル装備だしさ。
「この子は私と一緒に幼少の頃から育ったんだ! 魔生物の馬の両親から生まれた子でな、すごく賢くて、力強いんだぞ! 軍馬として訓練されているから、ちょっとやそっとじゃ動じないぞ! 弱い魔物くらいなら踏み潰して、蹴り飛ばす!」
立派な白馬、スノーホワイトを自慢するリシアに追従するように、白馬からブルルルル、とリアクションが。
まるで自分はすごいんだぞ、と言っているようだ。
「2人で動くのに、馬車は大仰だろう? それなら2人乗りでスノーホワイトに乗ればいい。彼女なら体力もあるし、人間の2人くらい、軽々だ!」
ああ、なるほど。
移動手段として2人乗りで行こうって事ね。
確かにわざわざ2人で動くのに馬車ってのも大変だわな。
「スノーホワイト、俺が乗ってもいいのか?」
馬というのは賢い動物だ。
気に入らない相手を乗せないという話は良く聞く。
そんなわけで、俺はお伺いを立てるようにスノーホワイトに手を伸ばす。
両親が魔生物の馬と言っていたから、この子も魔生物なのだろう。
相当に立派な体躯をしているし、頭もいい。
それならば、と賄賂代わりに魔力を白馬に向けて放出しておく。
俺の策略は功を奏したのか、スノーホワイトは俺の伸ばした手の匂いを嗅ぐようにしてから、放出した魔力を味見するように吸収し、それから目を細めて俺の手に頭をスリスリ。
とりあえず、嫌われてはいないかな?
「おお、スノーはハイトの事を気に入ったみたいだな! それでは、早速行こうじゃないか!」
装備の重量を感じさせない動きでヒラリとスノーホワイトに騎乗すると、リシアは俺に手を伸ばす。
彼女の手を取り、引き上げられるようにして、スノーホワイトの背に跨る。
「よし、私に掴まっているんだぞ。行くぞ、スノー!」
彼女の号令に合わせ、俺はリシアの肩を掴む。
そのタイミングでリシアは身体を一瞬だけビクリとさせたが、そのままスノーホワイトの手綱を握り、移動を開始。
街中なので、早足くらいで移動しつつ、冒険者ギルドを目指す。
「……しかしこれはすごいな。景色が何も見えない」
移動中、俺の視界はリシアの立派な羽根の翼で覆われており、一面純白の翼か、その隙間から覗くリシアの後頭部くらいしか見えない。
まあ、人間1人の質量を飛ばすだけの翼を考えれば、相応の大きさは必要だろうなとは思うが。
それにしても、相当に大きい。
翼の片側だけで、人間1人くらいの大きさがあるのではないだろうか。
今は可能な限り畳んでいるのだろうが、それでもその存在感はすごい。
「む、それはすまん。だが、これ以上翼は畳めないのでな。ギルドに着くまでは我慢してくれ」
そんな状態でギルドに到着してから、すぐにリシアの冒険者登録をして、初回講習については俺の方でやっておく、と話を付けてギルドショップの方へ。
こういう時、A級冒険者の肩書きはとってもありがたい。
「よう、その子がもう1人の婚約者か? リベルヤ伯爵サマ」
ギルドショップに入れば、ブライアンさんが冷やかすように声をかけてくる。
この人、毎回俺が新しい仲間を連れて来るの楽しんでるだろ。
「うむ、この度ハイトの側妻として婚約したセファリシア・アーミルだ。将来的にはセファリシア・リベルヤになる予定だな」
そして、リシアはリシアで婚約者として認知されているのが嬉しかったのか、ご機嫌なご様子。
まあ、相性が悪くなさそうだから装備選びもサックリ終わりそうかね。
そういえば、彼女を鑑定した事は無かったな、と思い、俺は意識してリシアを鑑定する。
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セファリシア・アーミル
16歳
種族:天翼族
身長:175センチ
体重:120キロ
状態:健康
生命力:35
精神力:20
持久力:25
体力:30
筋力:25
技術:25
信念:35
魔力:6
神秘:1
運:2
特殊技能
・武器熟練(全ての近接武器・祈術触媒)
・根性
・指揮統率
・指導教練
・礼儀作法
・鼓舞
・祈術強化延長
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鑑定してみた結果、なるほどと納得できる特殊技能の数々。
特に武器熟練に関しては、圧倒的な適正の広さだ。
能力も非常に高い数値を叩き出しており、上質祈術戦士といったところか。
これなら色々な装備が候補になりそうだな。
少し気になったのは、一般女性と比べて体重がすごい事だが、恐らくは翼が大きい分、重量もあるのだろう。
こうして重さがある、という事は、魔術的な力などではなく、筋力で翼を羽ばたかせて物理的に飛ぶ、という事なのだと思われる。
「そんじゃ、リシアに合う装備を見繕ってくれ。いつも通りにな」
「了解。そんじゃ色々聞かせてくれや、嬢ちゃん」
いつも通りに頼む、とブライアンさんにお願いすれば、リシアから色々と話を聞いて、彼女の要望を確認してからカウンター奥へと引っ込んだ。
うん、いつも通り。
今回は一体どんな装備を持ってくるかな。
俺は自分の使う物じゃないのに、とてもワクワクしているのだった。
一緒に待っているリシアもそれは同じようで、待ち合わせの時のように目を輝かせている。
装備周りの話も、恐らくはみんなから聞いているのだろう。
さあ、今回はハードルが上がってるぞ、ブライアンさんよ。
俺たちの満足する品を出してくれる事を期待してるぜ。
まだデートは続きます。
これからワケあり8人目の話も出てきます。
ようやくか、と思われてそうですが……。




