ワケあり8人目⑧
フリスとデート回その2。
「……どうしようか、これ」
動物カフェ内に魔力が行き渡るよう、適当に調節した魔力を垂れ流しにしていたら、俺の周囲にこのカフェ内にいる全ての魔生物が集まってきていた。
最初にいたリスっぽいのと珍しい色のカラスはもちろんそのままで、追加で大型の黒い虎、黄色い熊、青い大蛇、白いトカゲ、二足歩行の恐竜……etc。
俺の肩や膝の上に乗れる大きさの動物たちは、場所を取り合うように集まり、所狭しと引っ付いている。
トカゲなんかは背中にくっ付いてるくらいだ。
当然、その魔生物たちの重量は俺にのしかかってくるわけで。
大型の動物たちは俺の近くで寝転んだり、頭だけをスリスリしてきたり、といった感じで小型の動物たちよりはこちらを気遣ってくれているようにも感じられた。
「主様、本当に動物に好かれるんですね!」
そんな俺を見るフリスさんは、尊敬の眼差しで俺を見つめている。
何だかズルをしているようで居た堪れない気持ちになるが、これを口にするとフリスさんが拗ねそうだからやめておこう。
「そういうフリスさんこそ、めっちゃ動物に好かれてるな」
俺の方に魔生物が集まったように、フリスさんは膝の上に猫、両肩には鸚鵡と梟、頭の上にはモモンガが乗っているのだ。
彼女は彼女で動物からの好かれ具合が大概な気がするが。
「まあ、獣人種は動物に好かれやすいですからね。獣人族の中でも差はありますが、動物側は仲間と認識しやすいみたいです」
狼系獣人なら、狼とか犬とかに好かれやすい、みたいな?
フリスさんは全然そういう種族差とか関係無さそうだけども。
「お客様、良ければ、餌を与えてみませんか? こちらの想像以上の魔力を提供いただいていますので、こちらのお代はサービスさせていただきます」
動物に群がられている俺たちを見て、店員さんが餌の小袋をフリスさんに差し出す。
どうやら、俺が適当に魔力を放出したせいで、規定以上の魔力を与えてしまったらしい。
「ぜひ、お願いします!」
元々やるつもりだったのかはわからないが、フリスさんは店員さんの提案に全力で乗っかり、餌の小袋を受け取った。
中身は猫のカリカリに似たペレット状のドライフードだ。
どうやら、どの動物にあげてもいいようで、ペット用万能飼料、みたいなものらしい。
「ほーら、ご飯が欲しい子はこっちにおいで」
小袋の封を開け、フリスさんが手の上にペレットを1粒取り出すと、動物たちは綺麗な餌待ちの行列を作り上げる。
まるで訓練された軍隊のような動きに、よく躾られているんだな、と感心していると、先頭の犬に餌を与えたフリスさんは、まるでムツ〇ロウさんの如く、よーしよしよしよしよし、と激しく撫でまわしまくっていく。
嫌がらないだろうか、と少し不安に見ていると、どうやら的確に気持ちいいポイントを攻めているようで、嫌がられる様子は無いので安心して、朝食を摂る。
横から眺めていると、フリスさんは本当に楽しそうに動物たちと戯れているので、そんな姿にほっこりしながら、楽しいひと時を過ごしたのだった。
「はぁ~……最高でしたね!」
「俺はフリスさんが幸せそうにしてたのを眺めてるだけで、充分だったよ」
店を出てから、次の目的地に向けて歩いていく。
そんな道中だったが、フリスさんが不満そうな顔でこちらを見た。
「主様はいつまで私の事をさん付けで呼ぶおつもりですか?」
彼女からそんな事を言われると思っていなかった俺は、きょとんとして足を止めてしまう。
全身から不満です、というオーラを出しているフリスさんに、どう答えたものかと考える。
そもそも、フリスさんをさん付けで呼んでたのって、何となくだったんだよなあ。
雰囲気的にさん付けがいいかなーって程度。
確かに立場を考えるなら、俺が彼女をさん付けで呼ぶのは些か変ではある。
「あまり深く考えた事が無かった。すまない」
考えた結果、特にこれといった事情が思い浮かばなかったので、素直に謝ってみた。
すると、彼女はますます不満そうな顔でこちらを見てくる。
「もう、主様と私は1つしか歳が変わらないんですから、立場も考えれば、もっとちゃんとして頂かないと!」
「って言われても、別に不自由はしてないだろ?」
「もう! 私がもっと気軽に呼んで欲しいって事ですよ! 言わせないで下さい!」
もふっ。
ぷりぷりと怒るフリスさんが、ジャンプして横に回転しつつ、長くてもふもふな尻尾でビンタをかましてくるが、全く痛くない。
むしろ、長くて柔らかい毛の肌触りの良さがわかっただけだ。
「あー、フリス、って呼ぶよ」
「そうして下さい! その方が私も嬉しいですから!」
俺が呼び方を変えると素直に応じれば、口調はまだ怒っているような感じだが、少し先を歩くフリスの尻尾がわっさわっさと振られている。
ホント、感情が良く出る尻尾だなー。
どちらかというと裏の人間だというのに、そんなにわかりやすくて大丈夫か。
「さあ、次はここですよ!」
俺が呼び方を変えると言ってすぐに機嫌を直したフリスは、意気揚々と次の目的地に向かい、到着した先を自慢げに手で示す。
そこは大きな花園だった。
入場料を払って、大きな花園をぐるっと回る感じの施設。
まさか花が好きなんて、考えもしなかったな。
「2人です!」
「かしこまりました。入場料は銀貨2枚です」
テンションの高いフリスさんと共に花園へと入場すると、入ってすぐに圧倒的な花の物量が目の前に現れる。
あまり花の種類には詳しくないが、様々な種類や色の花たちが、見る者を楽しませるために計算され尽くした配置で植えられているのはわかるな。
「ここの花の香り、疲労回復にいいんですよ。この所はずっと連続でお出かけでしたし、少しゆっくりしてもいいと思います。ほら、あっちにベンチもありますよ」
彼女が花好きなんだと思っていたら、まさかの俺を気遣ったデート先チョイスだったのか。
まさかそんな気の遣い方をされるなんて、思ってもみなかったよ。
「そんなに俺、疲れてそうに見えたか?」
せっかくのデートだというのに、こんな所で気を遣わせてしまうなんて、男としてはどうなんだと言われそうだな。
これでも、その辺は公爵家仕込みのポーカーフェイスしてたのに。
「気を遣ったというのも間違いではないですが、私がここで主様とのんびりしたかったので、気にする事は無いですよ。主様は特に疲れた素振りは見せていなかったですし。それでも、見えない所で気を遣ってたりはするんじゃないかなー、とは思ってました」
うーん、思ったよりも俺という生き物を理解していらっしゃるな、彼女は。
まあ、半分以上は彼女の希望らしいし、それならここでゆっくりするのも悪くない。
「さあ、主様はこちらへどうぞー。今ならレアな私の尻尾を触る権利をあげましょう」
俺の手を引いてベンチの方に行ったかと思えば、先に端の方に座ってから、俺を挑発するかのように尻尾をフリフリしながら手招き。
そういえば、さっき尻尾ビンタされた以外に彼女の尻尾を触った事は無かったな。
イメージだけど、獣人がケモミミとか尻尾を触らせてくれるのって、それだけ気を許してくれていると思っていいのだろうか。
「ほら、私の膝枕でゆっくりして下さい。カナエさんや奥様ほどじゃないですが、それなりに柔らかいと思いますよ」
ポンポン、と自分の膝を示しているフリスの太腿に、俺は頭を横向きに乗せる。
程よい弾力と人肌の温かさを感じつつ、目の前に差し出されるもふもふ尻尾を、手櫛で梳いて、その毛の柔らかさを堪能していると、フリスは俺の頭を優しく撫でてきた。
「えへへ、私の尻尾、気持ちいいですか?」
とても上機嫌そうな彼女に、尻尾を撫でる事で応えると、満足そうに笑みを浮かべ、彼女も俺の頭を撫でる。
ゆったりとした、甘い時間。
そんな時間を過ごしているうちに、1つだけやりたい事ができた。
「なあ、耳は触っちゃダメか?」
フリスを仲間に迎えた時から、いつかあのケモミミを愛でてみたいと思っていたのだ。
ちょうどいい機会だと思い、お伺いを立ててみると。
「いいですけど……尻尾ほど気持ち良くないですよ?」
なんで耳を触りたがるのだろう、という感じの反応をしつつも、俺が触りやすいよう、彼女は頭を俺の方に下げてくれる。
「じゃあ、ちょっと失礼して……」
優しく、彼女の狼耳に触れると、尻尾と違ってしっかりとした感触の、固めの手触り。
どこかくすぐったいのか、ケモミミがピコピコと動く。
「ひゃわ……触覚は敏感だからダメですよぉ……」
彼女のケモミミを愛でていたら、手が触覚に触れてしまったらしい。
艶っぽい吐息を上げられてしまい、俺はかなりドギマギした。
「悪い、わざとじゃないんだ」
「別に触ってもいいですけど……あふぅ……触る時は一言お願いしますよ……」
頬を上気させ、血色の良くなった彼女の顔に、女の色香を感じ、このままだと良くないと己を律し、再度もふもふ尻尾をもふる。
いっそ、顔に当てて吸う。
どうにも、めちゃくちゃやってる気もするが、動物好きな人は吸うから問題無いはず。
ちなみに、彼女の尻尾からは微かに甘い匂いがしました。
全力で欲情の方面から距離を取っているうち、俺はいつの間にか寝落ちしてしまったのだが、フリスと揃って閉園時間にスタッフに起こされたのは、また後の話。
次回はエスメラルダとデート回です。




