ワケあり8人目③
今回はジェーンとのデート回です。
またまた感想をいただきました!
ありがとうございます!
前回のカナエとのデート回、今の所は好評?っぽくてホッとしています。
「フム……これといって異常は見られんのう。呪いやらでも無さそうじゃし……今の時点ではお手上げじゃな。もし、また違和感を感じる事があれば、すぐに調べた方がええじゃろうが、今の時点ではなーんの変化も見られんわい」
カナエとのデートを終えた翌日。
早朝からモーリア老が訪ねてきて、俺の身体を色々と調べてくれた。
重鎮のはずなのに、あまりにもフットワークが軽い。
まあ、この辺は陛下の思惑なんかも絡んでいそうではあるけど、それなりに国には貢献しているはずなので、頑張ったご褒美として受け取っておこう。
「わざわざご足労頂いたのに、何も無くて申し訳ないです」
「ほっほっほ、人間健康が一番じゃ。礼なぞ美味い茶と飯だけでも充分じゃよ。それでは、これからも身体には気を付けるようにのう。お前さんは自分が思っているよりも多くの人々から期待されておるでな」
何も異常が無かったとはいえ、宮廷魔術師をもてなしもせずに帰したとあっては、貴族家として恥である。
そんなわけで、俺はモーリア老に朝食と食後のお茶を楽しんでもらったのだ。
お世辞の可能性もあるが、とりあえず満足してはもらえたようなので、そのまま王城に戻るというモーリア老を見送り、一度自室に戻った。
身だしなみを整え、出かける用の服装に着替える。
それなりに綺麗な服だが、貴族っぽくないものを選び、市井にでても違和感が無いようにしておく。
まあ、これに関してはシャルとカナエのデートでも同じだったのだが。
準備を整え、玄関から外に出てみれば、既に準備を整えたジェーンが門に寄りかかって待っていた。
「悪い、待たせたか」
「あたしも来てすぐだ。気にすんな。お前こそ、来客があったのに、大変だったろ」
待ち合わせていたジェーンから、モーリア老の応対をしていた事を労われ、相変わらず言葉遣いは粗野だけど、それに似合わず気遣いはできるんだよなあ、と思う。
言葉遣いからすれば、もっと俺様系というか、自分勝手な感じなんだけど、意外に他人を気遣うし、すごく面倒見もいい。
簡単に言えば気風のいい姉御肌、というところだ。
「まあ、俺は診察される側だったからな。ただジッと待ってただけだ。モーリア老も細かい事は気にしない性格だし、俺は何も苦労してない。そんな事より、行こうぜ」
「お前が大丈夫ならそれでいい。そんじゃ、行くか」
今日も今日とて、俺は歩きで外に出て行く。
ある程度は事前に打ち合わせをしているが、カナエと同じく、ジェーンは自分で予定を組むと言っていたので、彼女を少しばかり前に出して、それについていく形だ。
特別会話もせず、ただ一緒に歩いているだけだが、これといって気まずさがあるわけでもなく、お互いにさして気を使わない、いい意味での適当な距離感を保っている。
友人同士、というのが一番しっくりくる関係性だろうか。
「……歓楽街か」
商業区の奥の方に進んでいき、通常の商業区とは雰囲気の違う一画に足を踏み入れる。
ここは商業区の中でも比較的奥まった場所で、娼館や賭場などが存在するため、防犯の観点から、気軽に未成年が来れないようにさらに区画分けされているのだ。
「あたしと一緒にいりゃヘーキヘーキ。前に絡んできたチンピラ共は纏めてボコしておいたしな」
勝手知ったるとばかりに、ジェーンは足取り軽く歓楽街を進んでいく。
一応、念のために周囲の探知魔術の精度を上げておこう。
そこらのチンピラ如きに遅れを取る俺たちではないが、何事も不意を突かれて不覚を取る事もある。
であれば、不意を突かれぬように警戒すればいい。
とはいえ、チンピラっぽい人たちが、ジェーンの姿を見るたびに、そそくさと逃げ出していくので、あまり心配はいらないのかもしれないが。
「たまにゃ博打を打つのも楽しいもんだぜ? ま、引き時を見極められねえヤツは借金漬けになるんだろうがな」
そう言って、ジェーンは国営のカジノへと物知り顔で入っていった。
ここは国営で健全な遊び場という謳い文句のカジノだ。
1日にチップに変えられる限度額が決まっていて、レートもそれほど高くない。
かなり勝ったとしても、ちょっと多めのお小遣いが貰える程度。
長く楽しく遊べるように、というコンセプトらしい。
実際、貴族の子供が成人してから小遣い稼ぎをする場でもあるようで、貴族の子供っぽい客の姿がちらほらと見える。
「いらっしゃいませ。本日は何のゲームを?」
チップ交換のカウンターに行けば、ジェーンの顔を見た男性スタッフが笑顔で応対している。
目つきが悪いし、服装もレザー系のダメージ服なので、ジェーンはかなりチンピラ寄りの恰好なのだが、それでも動じずに応対している辺り、相当顔を覚えられていそうだ。
「適当にいくつか回るぜ。今日はツレもいるしな」
「チップの方はいかほど?」
「いつも通り100枚……いや、200枚だな」
カジノスタッフと慣れたやり取りをする彼女を後ろで見守りながら、以外にお金を使わないのだな、という感想を抱く。
1日のチップ上限交換枚数は500枚で、交換レートはチップ10枚につき銀貨1枚。
最大で金貨5枚までしか使えないのだ。
日本で言えば5万まで、といった所だが、ギャンブルを経験した事の無い俺としては、これが多いのか少ないのかはよくわからない。
ただ、ジェーンの性格を考えると、豪快に最大枚数を交換すると思っていたので、少々意外だった。
「ほれ、お前の分だ」
そんなこんなで、彼女は交換した200枚のチップのうち、半分の100枚を俺に渡してくる。
さすがに部下から奢られるのは恰好が付かないので、すぐに代金分の金貨1枚を渡す。
「今日は付き合ってもらってるんだから、あたしに奢らせろ」
しかし、ジェーンは俺の渡そうとした金貨を受け取らず、強引にチップを押し付けてきた。
こうなると、彼女は絶対に引かないのがわかっているので、俺は渋々ながらチップを受け取る。
「さて、とりあえずはここにあるゲームを一通り回るとするか」
そんなわけで、チップを手にした俺たちは、カジノ内で区分けされているゲームをそれぞれ回っていく。
実際にジェーンがプレイしている所を見せながら、あれこれと説明をしてくれたので、ルールなんかはすぐに理解できた。
ゲームの種類としては、ブラックジャックもどき(トランプのようなカードで、5種類のマークと1~15の数字を使って31に近付けて競う)や、ポーカーもどき(1~15の数字とマークが5種類のカードで役を作って競う)といったカードゲームから、カジノとしては定番のルーレットとスロット、あとは変わったものだと蛇レース(色違いの蛇たちが短めのコースでレースをするので順位を当てる)というのがある。
説明しながら実際のプレイを見ていると、ジェーンは小さな勝ち負けを繰り返していて、おおよそプラスマイナスゼロに収めている辺り、なかなか勝負勘が強そうだ。
「そんじゃ、どっちがチップを増やせるか、競争しようぜ。ちっとばかしあたしの方が減ってるが、まあハンデにゃちょうどいいだろ」
「よし、受けて立とう」
チップをどれだけ増やせるか競争しよう、という彼女の提案に、俺は迷わず乗っかった。
実際のギャンブル経験は皆無だが、ゲーム上でこうしたカジノで稼ぎをするのは嫌というほど経験している。
簡単に負ける気はしない。
「じゃ、頑張れよ」
既に何をやるのか決めているのだろう。
ジェーンはルーレットの方に向かっていった。
俺はルーレットは選ばない。
なぜなら、ディーラー側が圧倒的に有利なゲームだからだ。
先にチップを賭ける仕様上、チップ賭けを見た跡でディーラー側が出目を調整しようと思えばできてしまう。
もちろん、八百長に見えないようにするには、相応に極まった技術がいるだろうが、それでもプレイヤー側に不利だ。
回転率そのものは悪くないが、倍率の高い目に賭けると当たる確率は相当低い。
となれば、回転率が劣悪な蛇レースも対象外だろう。
一応、順位を間違わずに当てられれば、相当な倍率なので、チャレンジする意味はあるが、それこそ博打行為と言える。
そのため、俺は倍率こそ低めなものの、回転率が良く、比較的勝負しやすいカードゲームの方面へ向かう事にした。
見てろ、しっかり増やしてやるからな。
ちょっと書ききれなかったので、次回もジェーンとデートです。




