ワケあり7人目㉟
「立派な挨拶をした、2人に盛大な拍手を!」
俺とセファリシア嬢が挨拶を終えて、陛下の号令で会場から拍手が巻き起こる。
この会場の貴族のうち、どこまでが本気で拍手をしているのかはわからないが、陛下もいる場で明らかな敵意を出すような間抜けはさすがにいないようだ。
そんなわけで、微妙に居心地の悪い状態で俺たちは元いた場所へと戻っていく。
「いいご挨拶でしたね」
「リシアも見事だったよ」
元いた場所には、シャルとアーミル侯爵が変わらず残っていて、2人も拍手をしながら俺たちを出迎えてくれた。
どこか、シャルと侯爵の距離が縮まったような雰囲気があるが、貴族としての社交の結果だろうか。
「さて、それでは最後に、リベルヤ新伯爵と、アーミル準男爵の婚約をここに発表する!」
「はい!?」
俺たちが歩みを止めて拍手が止んだ辺りで、陛下からとんでもない発言が飛び出して、俺は思わず声を上げてしまう。
俺とセファリシア嬢が婚約!?
何でいきなりそんな事になった!?
「アーミル準男爵は、側妻としてリベルヤ新伯爵と婚約すると、アーミル侯爵及びリベルヤ新伯爵夫人から連名で申し出があった。力ある貴族たちの結び付きは、我々王族にとっても喜ばしい事である。今後、リアムルド王国をより盛り立てていくためにも、いい世継ぎを残してもらいたいものだ」
陛下が、シャルとアーミル侯爵からの申し出だったと発表を締め括ると、会場から再び拍手が沸き起こる。
え、待って。
マジで俺、当事者なのに何も聞いてないんだけど!?
「そういう事だからハイトくん、娘をよろしく頼むよ」
ガチで困惑している俺の肩に、ポンとアーミル侯爵の手が置かれる。
恐る恐る侯爵の顔を見れば、それはいい笑顔でこちらを見ていた。
娘に何かあったらぶっ殺すぞ、という威圧の笑みではなく、純粋に娘を貰ってくれてありがとう、みたいな感じ。
なんというか、逆に反応に困るやつだなこれ。
「ハイトさん、勝手に話を纏めてしまいましたが、問題ありませんよね?」
陛下まで話がいってるのに、今更断らないよね、という威圧の笑みがシャルから放たれた。
え、これ何でシャルから威圧されてんの俺。
もう全くもって状況がわからん。
助けてくれ、とセファリシア嬢に視線を移してみれば、彼女は真っ赤な顔でこちらを見ている。
「その、こんな女だが、よろしく頼む。元より私は貴殿と添い遂げる覚悟を決めている。シャルロット様に比べれば、色々と見劣りするかもしれないが……」
そう言って、恥ずかしそうに自分の体を抱く彼女は、言葉にしたように、俺に嫁いでその生涯を全うするという気概を確かに感じる。
恥ずかしそうに身体を抱いているのは、女らしさはシャルに劣るという認識をしているからなのだろうか。
言われてみれば、シャルは身長が164センチ(出会った頃から変わっていなければ)だが、出会った頃から比べれば、身体つきはかなり女らしく変化していた。
会場に来る時も、腕を組まれて二の腕で形を変える立派な胸部装甲に、前屈みにならないよう意識を逸らす必要があったくらいだし。
そういう意味では、セファリシア嬢は比較的長身で、身長は170センチ以上ある。
均整の取れた身体つきは、とてもバランスはいいが、シャルに比べると若干だが女性らしい部分は控えめではあるか。
とはいえ、美貌に関してはシャルに引けを取らないし、シャルには無い華があるので、そこまで卑下するようなものではないと思うが。
「そんな風に自分を卑下しなくても、君はちゃんと魅力的だ。まあ、俺も今婚約を聞かされたくらいでまだ慣れてないが、俺で良ければこれからよろしく頼む」
シャルが決めたのだし、俺には今更拒否権も無い。
それに、俺自身も彼女の事はどちらかと言えば好意的に見ていたから、側妻として彼女を迎えるという事そのものに、悪い気はしないんだよな。
まあ、本音を言えば、のらりくらりと追及を躱して、嫁はシャル1人に絞るつもりだったのだけども。
この辺りはシャルが一枚上手だったという所か。
まあ、元よりハーレム作れよ(意訳)って言われてたし、シャルの方も恐らくは俺がその気を持たないような相手を、リベルヤ家に迎えるつもりは無いっぽいな。
そういう点では、いきなり何も知らない女をいきなり嫁や妾にしろと言われるような事が無いのは正直ありがたい。
根っこが日本人なせいか、やはり一夫多妻にどこか抵抗感があるし。
「……ああ、ありがとう!」
俺がちゃんと女として見られるぞ、とセファリシア嬢に告げれば、彼女は赤くなっていた顔を綻ばせ、凄まじい速さで俺を抱き締めてきた。
うん、ちゃんと柔らかいね。
どこがとは言わないけど。
とりあえず、この状態が続くのは色々とよろしくないので、彼女の肩をトントン、と軽く叩くと、再び恥ずかしそうな顔で身体を離し、アーミル侯爵の身体を盾にして隠れてしまう。
うん、可愛い。
「2人が仲良くできそうで安心したよ」
そんなセファリシア嬢を見ていた、アーミル侯爵が暖かい目でこちらを見ている。
うん、親の前でいちゃついてたみたいですげー恥ずかしいねコレ。
「ハイトさん、社交もある程度済んでいますし、あとは夜会を楽しみましょう」
状況がある程度落ち着いたと見て、シャルが軽食や陛下への挨拶回りに行こうと、俺の左腕を胸元に捉え、移動しようと促してくる。
それじゃあ、と視線をセファリシア嬢に移せば、彼女も顔は赤いままで控えめだが、俺の右腕を取って組んできた。
うん、両方の二の腕に感触の違う柔らかさが強く主張してくるね。
まさしく両手に花、という構図だが、俺はすごく前屈みになりそうで、必死に意識を逸らさねばならない。
新手の拷問かな?
「おお、両手に花だな」
そんな状況で陛下の元へと挨拶に向かえば、自分は両側に王妃様と側妃様を侍らせてる陛下が機嫌良さそうに笑う。
それ、完全にブーメランだけど大丈夫?
と内心で思ってはいても、こういった公式の場ではいつも通りに軽口も叩けない。
しっかりと貴族の皮を被らないとな。
「ええ、おかげ様で。これからリアムルド国とリベルヤ伯爵家の繁栄に努めさせていただきます」
そのまま陛下と貴族の皮を被った会話を交わしてから、俺たちは軽食コーナーを巡った。
ええ、食事はシャルとセファリシア嬢が手ずから食べさせてくれましたよ。
途中から、対抗心が生まれたのか、2人が次々と食べさせてくるから腹がパンパンになるまであれこれ食べさせられたけどな!
これ、今はまだセファリシア嬢だけだけど、今後もし側妻や妾が増えたら、もっと大変になるって事だ。
……うん、今はもう余計な事は考えないでおこう。
それがいい。
問題を先送りにしているだけだが、考えても俺の一存でどうにかなる話ではないので、俺は考える事を止めて、純粋に2人と夜会を楽しむのだった。
これにて長かったワケあり7人目は終了です……!
一回終わるって言ってから、マジで5回分くらいかかりましたね……。
登場人物が増えてくると、視点がそれだけ増えるので、話の進みがゆっくりになりますね。
あまり冗長にならないよう注意しつつ、より面白い物語をお届けできるよう、今後も精進してまいりますので、気に入って頂けた方はブックマーク、高評価、感想など、よろしくお願いいたします。
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