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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり7人目㉚

二度ある事は三度ある……。

まさかの3回目更新です。

筆乗りがええんじゃ……。

ほぼセファリシア視点です。

最後の方にちょっとだけアーミル侯爵の視点が入ります。

あと、色々詰め込んだせいで長いです……。

「リシア、私が不在の時に、よくぞ軍をまとめてくれたな」


 あの、凄惨を極めたはずの戦場は、リベルヤ家の戦力が揃った途端に終息した。

 最初は総勢50万の群れ、と言われていたオーガの大群も、半日とかからず壊滅。

 私が指揮を執っている間に、数万は倒したとしても、10万までは間違い無く削れていない。

 アージュン卿を始め、精鋭も殆どが戦死。

 犠牲はタイラン侯爵の軍も含めれば、実に8万人近くの人が亡くなった。

 私の指揮の下で亡くなった兵士は1万弱といった所だが、色々と後悔が残る。

 たらればでしかないが、私がもっと上手くやれていれば、もっと兵士の損耗を減らせたのではないか。

 そんな想いが頭から離れない。

 事態が収束してから、王都にある屋敷で父に呼び出されても、ずっと考え続けていた。

 ちなみに、父は王都へ移送中にオルフェ殿の治療を受け、傷は完全に回復しており、念のため数日の静養期間を設けてはいるものの、すっかり健康体だ。

 いっそ、古傷も治ったと調子が良さそうなくらいである。


「いえ、私は未熟でした。アージュン卿を始め、精鋭たちの殆どを戦死させてしまいましたし、結局はリベルヤ子爵たちに助けられました。彼らが来てくれなければ、私はもうオーガの胃の中だったでしょう」


 父は私を褒めるように言葉を紡いだが、その言葉は、私には響かない。


「リシア、無理をしなくていい。初めて大軍を指揮した上で、あれだけ持ち堪えたんだ。間違い無く、大手柄だよ」


 きっと、私を慰めるための優しい嘘なのだろう。

 そう思って俯いていた私を、父はぎゅっと抱き締めてくれた。

 細身でありながら、しっかりと鍛え上げられた、逞しい身体に抱き締められ、父が心からの言葉を私に告げてくれているのだと、理解できた。

 父に褒められているのだ、と理解した時に、昨日リベルヤ子爵に言われた事を思い出す。


『まあ、左腕を負傷してたみたいだし、全力出せる状況じゃないのに、何日も戦線を支えたんだ。もうちょっとだけ自分を誇ってもいいんじゃないか?』


 自分を誇ってもいい。

 彼は確かにそう言った。

 思い出して、身体が熱を帯びる。


『一時的とはいえ総指揮官になって、兵士たちの命を背負う事になったから、自分を責めたくなるのも無理は無いと思うけどな。でも、敵の規模を考えれば、ほぼ最善手を打ったと言っていい。精鋭が殆ど死ぬ事になったのは痛手ではあるけど、それで王都を守り切ったんだ。賞賛されこそすれど、責められる云われは無いさ』


 彼も、父と同じ事を言っていた。

 その時は、自分で自分を認める事ができていなかったが、思い出した事で、言葉そのものはスッと自分の中に入った。

 結局、自分に折り合いが付いていなかったから、その場では成果を誇るという気持ちにならなかっただけで。


「今、陛下が教国からこちらに戻ってきているそうだ。恐らく、リシアはリベルヤ子爵と共に、陛下からお褒めの言葉を頂くだろう。もしかすると、爵位を賜るかもしれん」


 腕の中で、私が落ち着いたのがわかったんだろう。

 父は私を腕の中から解放すると、執務机の方に移動して腰を下ろす。

 そこかフワフワとした感覚で、私は立ったままで父を見る。


「仮に私が爵位を賜ったとしたら、直系が私しかいないアーミル侯爵家はどうなりますか」


 国への貢献度が高い侯爵家に、跡取りがいないというのはあり得ない。

 爵位の低い貴族であれば、貴族位を返上する、という事もあり得るが。


「何、その辺りは分家なり寄り子の貴族家なりから養子を取ればいい事だ。元々、リシアが誰かを好いて嫁に行くとなれば、そうするつもりでいたさ」


 侯爵家は、直系の私が継ぐものだと思っていたが、父はそうするつもりがあったわけではないようだ。

 むしろ、私が他所へ嫁に行く事を確信している節があるくらいで。

 フワフワとした感覚が吹き飛び、私が困惑しているのをよそに、父は真面目な表情となった。


「……我々アーミルの一族はな、古来より一途でね。心に決めた相手と、どんな事があっても添い遂げる。仮に夫婦のどちらかが早逝したとしても、再婚する事は無かった。それは、歴史が証明している。そしてリシア、君もその血族なんだ。かくいう私も、アクローナ以外の女性を愛する事はできそうにない。きっと、死ぬまでそうだ」


 アクローナ。

 私が物心つくかどうかの頃くらいに亡くなった母の名だ。

 確かに、父は今でも書斎や執務室に亡くなった母の絵を飾っているし、常に母の姿絵を持ち歩いている。

 てっきり、戒めか何かだと思っていたが、ただ単に母を溺愛していただけのようだ。


「なぜ、今この話をしたのか、不思議そうだね」


 私の困った顔を見て、父は楽しそうに笑う。


「惚れ込んだんだろう? ハイト・リベルヤ子爵に」


 ずばりと父に言い当てられて、私は全身が沸騰したんじゃないかというくらい、身体が熱くなった。

 きっと、全身真っ赤になっている事だろう。

 心無しか、背中の翼も私の意思に反してわさわさと動いているような気がする。


「その反応を見るに、図星のようだね」


「……はい」


 すっかりバレてしまっているようで、父が確信を持って私に問うているのはわかってしまう。

 当然、私は白旗を上げるしかなくて、小さく返事をする事しかできない。


「となれば、シャルロット様に君を側妻に迎える気があるか、聞いておかないとね。さすがに元とはいえ、公爵令嬢と婚約しているリベルヤ子爵の正妻に割り込ませるのは無理だ」


 養子縁組をする先も見繕っておかないとね、と父は上機嫌に笑う。

 ちょっと待って欲しい。

 唯一の跡取り娘をそう簡単に嫁に出す親がいるだろうか。

 いや、普通はいない。

 いないはずだ。


「私はね。リシアが幸せであってくれれば、別に貴族である必要は無いと思っているよ。それに、今はまだ自覚が無いようだけど、きっと自分がアーミルの血筋である事は嫌でもその内わかる。それに、アクローナはすごく良く尽くしてくれる妻だった。聞けば、一族通して献身的だったらしい。もしかすると、私とアクローナの娘であるリシアは、とても一途で、かつすごく献身的なのかもしれないね」


 私が、リベルヤ子爵に一途に、献身的に尽くす。

 考えただけで、顔から発火しそうだが、なぜだか容易にその光景が想像できてしまう。

 どこか一般的な貴族家ではないだろうが、そもそもがリベルヤ子爵が普通の貴族家とは一線を画している。

 きっと、そういう形の貴族家もあるだろう。


「まあ、シャルロット様が側妻を迎える事を良しとするかはわからないから、場合によっては諦めてもらうしかないかもしれないけど、なるべく許してもらえるように交渉してみるよ。とはいえ、彼女も元々は公爵家の出だから、結構な勝算はあると思っているけれどね」


 シャルロット様が、側妻を認めるかどうか。

 それが確定しない事には、私はリベルヤ子爵家に嫁ぐ事はできない。

 その事実が、浮かれていた気分に冷や水を浴びせてきた。

 そう。

 そもそも子爵は既に婚約しているのだ。

 私の気持ちが報われない可能性も充分にあり得る。

 とはいえ、父の言うように、より優秀な血筋を後世に残すため、貴族家の、特に上級の貴族は複数の妻を娶り、多くの子を設けるのが一般的で推奨されているのだ。

 父のように一途な人間の方が珍しい。

 そういう点で言えば、侯爵家との繋がりができ、武芸という面では秀でたもののある血筋を取り込める、というのは悪くないのではないかと思える。

 父なら、もっと深い理由を持っているかもしれないが、私でも簡単に思い付くくらいには、私がリベルヤ子爵家に嫁ぐメリットは大きい。

 そう考えれば、父の言うように勝算があるというのもわかる気がするな。


「リシア、さっきからずっと百面相をしているけど、既に相当惚れ込んでいるんだね」


 私が色々な事に想いを馳せていれば、父は生暖かい目で私を見守っていた。

 今度は羞恥で身体が火照ってしまう。


「あ、あの、父上は、爵位が下の家へ私が嫁ぐ事を、何とも思わないのですか?」


 どうにか話題の矛先を変えようと、父に疑問点を訊いてみれば。


「ああ、さっきも言ったように、リシアが幸せなら、それでいい。古い大貴族なんかは、しきたりがどうのと文句を言ってくる家もあるだろうけど、そんな抗議に屈するような侯爵家じゃないよ。それに、今は子爵だけど、間違い無くハイトくんはすぐに伯爵くらいまで昇爵する。下手をすれば、侯爵どころか公爵家になる可能性すらあるくらいだ。以前に何度か話したけど、彼ならリシアを大事にしてくれそうだしね。元が潰れたとはいえ公爵家の出身だし、薄まってはいるだろうけど、王家の血も引いてる。むしろ、早いうちに彼と関係を作っておかない老害大貴族家に同情するよ」


 私の心配は全くの杞憂だったらしく、父は快活に笑いながら肩を竦める。


「まあ、とにかく近いうちにシャルロット様や陛下と会う機会があるだろうから、その時に話を進めてみるよ。勝算は……そうだね。大体7割くらいといった所かな。ま、任せておいてくれ。これでも侯爵の端くれだし、アクローナが亡くなってからは、自分で社交もこなしてたんだ」


「ええと、その……よろしくお願いします」


 もはや父がシャルロット様の許可を得る以外は何の障害も無い、と言い切っているので、私は素直に頭を下げてお願いする事にした。

 頭を下げた私の顔は、やっぱり真っ赤だったんじゃないかと思う。




◆――――――――――◇




「……成人は済ませていたとはいえ、リシアも大きくなっていたんだね」


 一通りの話を終えたら、気恥ずかしくなったのか、真っ赤になったリシアは自室に戻っていった。

 何かあったら、と思ったから、念のためにメイドたちに様子を見るよう言い付けておいたけれど、恐らくは精神的にも持ち直しただろうし、問題無いだろう。

 とはいえ、妻もいなくなって、リシアも嫁いでいくと思うと、寂しくなるね。


「旦那様、お嬢様は無くなった奥方様にそっくりに育ちましたな」


「そうだね。本当に、若い頃のアクローナにそっくりだよ」


 先代から仕えてくれている老執事と、亡くなった妻を偲びつつ、懐から今は亡き妻の姿絵を取り出す。

 何度も折り畳んでは開いたりを繰り返したため、よれてシワになったりしているが、そこに描かれたアクローナの姿はいつまでも色褪せない。

 軍では凛としていたのに、家では私に良く尽くしてくれた。

 元は平民だったから、最初こそ苦労していたものの、貴族としての社交やマナーも身に付け、家の内外で良く私を支えてくれたと思う。

 リシアも産まれて、幸せな家庭を築いたと思った矢先に、病で亡くなってしまうとは思わなかったけれど。

 記憶は朧気ながらも、リシアは母の愛情をキチンと感じていたし、とてもいい子に育ってくれたと思う。

 僕も彼女の手本になり、誇れるような親でいようと努力し続けた。

 仕事は忙しかったけれど、可能な限りの愛情を注ぎこんだつもりだ。

 侯爵令嬢として、恥ずかしくないくらいの教育も施した。

 どこに出しても恥ずかしくない、自慢の娘。

 いつかは嫁に行くと思っていたけれど、その時が近付いていると思うと、一抹の寂しさが心を震わせる。


「旦那様、何としても、お嬢様の縁談、纏めなくては」


「……うん、そうだね。アクローナも、生きていたらきっとそうしただろうしね」


 老執事と私、どっちが先かはわからないけれど、お互いの両の目に暖かい水が流れる。

 少しだけ湿っぽい、男2人の共通の思い出。

 いけないな。

 歳を取って、涙脆くなったのかもしれない。


「私は色々と手回しをするよ。引き続き、屋敷の事は任せる」


「はい。お任せ下さいませ」


 両目に滲んだ涙をハンカチで拭き、私たちはリシアの幸せのために、奔走すると決めた。

 きっと、アクローナもそれを望んでいるだろうから。

前回、この回でワケあり7人目が終わるとかぬかしましたが、良く考えたらあと2回は確実にかかります。

入れきれてないエピソードがまだまだあるんじゃよ。

下手したら5回くらいかかったりして……。

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