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ワケあり0人目②

「ご記入ありがとうございます。お名前は……ハイトさん、ですね」


「はい、よろしくお願いします」


 書き上げた書類を提出すると、受付嬢さんが俺を顔をまじまじと見て、書き込んだ名前を読み上げてくれた。

 前世の名前は思い出せないが、呼ばれてみるとしっくりくる。

 ハイト――前世の世界で自由の意味があるフライハイトという言葉から取った名前だ。

 どこの国の言葉だったか忘れてしまったが、呼びやすく、悪くない響きだと思う。

 最終候補がエレフセリア、リーベルタース、フライハイトの3つだったのだが、どこかをもじるとしても、エレフセリアとリーベルタースはどこか女性っぽい響きがあって、しっくりこなかった。


「それではハイトさん、冒険者登録の事務手数料として銀貨二枚を頂戴いたしますが、本日はお手持ちはございますでしょうか? もしお手持ちが無ければ、後日お持ちいただくか、ギルドの方で斡旋したお仕事をこなして頂き、その報酬から事務手数料を引かせていただく形になります」


「大丈夫です。細かい手持ちが無いので金貨での支払いになりますが」


 事務手数料を金貨で支払うと、受付嬢さんが目を丸くする。

 金貨1枚の価値が、大体前世で言う1万円くらいで、そこから下は銀貨1枚が千円、銅貨が百円、鉄貨が十円、劣貨が一円、といった感じ。

 そこから、各貨幣5枚分で大きい貨幣となるのがこの国というか、この世界でのシステムだ。

 金貨5枚で大金貨、銀貨5枚で大銀貨、といった感じ。

 支度金として渡された金貨百枚は、全部一万円札を持たされたってワケで、少々支払には不便だった。


「かしこまりました。お釣りを用意しますので、少々お待ち下さい」


 受付嬢さんは軽くお辞儀をしてから、カウンター奥の方に引っ込んで行く。

 それからさほど時間をかけずに戻ってきた彼女の両手には、小さなトレイに積み上げられた釣銭が乗っかっている。


「それではこちら、銀貨8枚のお返しです」


「ありがとうございます」


 銀貨8枚のお釣りを間違いなく受け取ると、今度は免許証のようなカードを渡された。


「それではこちら、ハイトさんの冒険者資格証になります。色々と情報が書き込まれていますので、無くさないようお気を付け下さい。紛失時には再発行で金貨1枚かかります」


 冒険者資格証。

 過去に受けた仕事の経歴、個人情報が魔術によって記録されているものだ。

 前世での免許証のように、本人確認にも使えるのが便利ポイントか。

 中には身分証代わりに冒険者登録する人もいるとかいないとか、噂程度に聞いた事がある。


「それではハイトさんには、このまま初回講習を受講して頂きますので、講習室の方に移動して下さい。ちょうど、5分後に講習がありますよ」


「ありがとうございます」


 受付嬢さんにお礼を伝え、俺は案内板に従って講習室へと移動。

 間もなく講習が始まるとあってか、室内はそこそこ賑わっていた。

 学校の教室くらいの部屋に、椅子と机が20セットあり、席は8割くらいまで埋まっている。

 パッと見える受講者たちは、俺のように比較的若年層が多いか。

 何だかんだ、冒険者として生計を立てようとする人は多いらしい。

 特にこだわりがあるわけでもないので、俺は一番入口近くの席に着き、講習が始まるのを待つ。


「よーし、揃っているな、ひよっこ共」


 時間になって、講習室に入ってきたのはガタイのいい中年の男だ。

 顔に傷跡があり、鍛え上げられた筋肉が服の上からでもすぐにわかるくらいにすごい。

 間違いなく強い人だな、と他人事のように思いながら、教壇に立った男に注目する。

 とはいえ、情報をチェックしたりはしない。

 こういう実戦の空気を知っている人には、あまり迂闊な事はしない方がいい。

 余計な事をして新人のうちに目を付けられると、ロクな事がないからな。


「今回の講座を担当するギルバートだ。一応はA級冒険者をやらせてもらっている」


 一応はA級、と自己紹介をしたギルバート氏は、覚えても覚えなくてもいいがな、と前置きをする。


「冒険者は自由だ。だが、自由には相応の責任が伴う。生きるも死ぬも、テメエ次第。やりたいように生きるのが冒険者だ。だが、やりたいようにといっても、犯罪をしていいわけじゃねえ。今日はその辺りを耳タコになるくらいみっちり叩き込んでやるから、覚悟しておくんだな」


 そうして、ギルバート氏は訥々と冒険者について説く。

 初心者のうちにやりがちな失敗を、自分の経験を交えて面白おかしく語ったりといった、聞き手を楽しませようとする配慮が随所に感じられるのが好印象だ。

 傷痕も手伝って、厳つい顔をしているが、こうして初心者の講習を受け持っている辺り、面倒見のいい人なのだろう。


「……ちょっとだけ」


 教壇で時に熱く、時に訴えかけるように語るギルバート氏に、俺は覚醒能力を使う。

 浮かび上がるように、ギルバート氏の情報が俺の視界に移り込む。

 見え方としては、半透明のウィンドウのようなものに名前やら能力のようなものが書き込まれているような感じ。

 F○とかD○みたいなRPGみたいなゲームのメニューっぽい感じと言えば伝わるだろうか。

 本当は使わないつもりだったのだが、A級冒険者という彼の実力を、少しだけ見てみたいと思ってしまったのだ。


―――――――――


ギルバート・ヘンリエックス

38歳

種族:人間

身長:186センチ

体重:98キロ

状態:健康

生命力:45

精神力:20

持久力:30

体力:25

筋力:40

技術:16

信念:25

魔力:8

神秘:6

運:8


特殊技能

・威圧

・根性

・戦咆

・武器熟練:直剣・大剣

・直感

―――――――――


 なるほど、と心の中で俺は頷く。

 今まで見た個人の能力の中ではかなり完成されたものだと言える。

 過去にこの覚醒能力を使ってきた経験からして、能力値の最大値は99だと思う。

 俺の慣れ親しんだソウ○シリーズに表示が似ているのは、恐らくは能力が発現した時点で俺の前世の記憶が蘇っており、一番理解しやすい形がこれだったからだろう、と予測している。

 こうして改めてギルバート氏の情報を纏めてみると、完成された前衛型の戦士というのが総評だ。

 特殊技能欄の武器熟練は、得意な武器を示しているのだが、筋力の高いステータスと大剣、という武器は非常にマッチしている。

 一般人は平均して各ステータスが10にも満たない事が多いから、相当に経験を積んだ猛者なのだろう。

 ギルバート、と聞くと某吟遊詩人を思い浮かべてしまうが、似ても似つかないな。


「講習は終わったが、そんなに俺の事が気になるか、坊主」


 ギルバート氏のステータスに思いを馳せていたところ、ご本人様から声をかけられ、俺は始めて極度の集中状態であった事に気付く。

 なお、ご本人様はしゃがんで俺と視線の高さを合わせた上で、胡乱気な表情を浮かべている。


「あ、すみません。いいお話をされていたので、きっと凄い方なのだろうなと思いを馳せておりました」


 決して嘘は言ってない。

 能力でステータスを覗き見してました、とはさすがに言えないし。

 思いを馳せていたのは本当だから、何もやましい事などないのである。


「……そうかい。あまり興味本位で変な事に首を突っ込むなよ。見どころのあるルーキーは、そういう死に方をするヤツが1番か2番くらいに多いからな」


 少しだけまじまじと視線を合わせてから、立ち上がって俺の頭をぐしぐしと乱暴に撫でると、ギルバート氏は先に講習室を後にした。

 彼を見送ってから、俺は席を立つ。

 冒険者ギルドのホールに出ると、設置されている大型時計の針が15時を過ぎている。

 この時間だと、仕事をするのは微妙だな。

 そういえば、この世界は時間概念が24時間で、ちゃんと時計がある。

 魔法技術によって生み出された代物らしく、時計は高級品だ。

 この冒険者ギルドに設置されている大型の時計は、買おうと思ったら金貨数百枚はするのではないだろうか?


「……腹減ったな」


 くぅ~、と腹から情けない音がした。

 そういえば、家を追い出されてから何も飲まず食わずだ。

 確か、昼前くらいに追い出されたはずだから、講習含めて冒険者ギルドに三時間以上滞在してたのか。

 そりゃ腹も減るわな。


「とりあえず、今日は宿の確保と物資の買い出しで終わりかね」


 これからの予定をシミュレーションしながら、俺はギルド併設の食堂へと足を向けたのだった。

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教官が受講者にみっちり抗議してどないすんねん、それは講義やで〜と突っ込みましたノシ
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