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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり7人目㉓

またまた感想をいただきました。

ありがとうございます!

幕間系の情報補完エピソードも結構好評をいただいていますので、今後はちょっと幕間の割合を増やしていこうかと思っています。

とはいえ、大筋の流れをぶった切ってしまうとテンポや没入感が損なわれると思いますので、大筋に絡む以外の幕間に関しては大きなエピソードの区切りに入れる形にしようと思います。

差し当たっては、ワケあり7人目が終わった辺りで陛下周りの幕間か、愉快なリベルヤ子爵家使用人シリーズ、その他ハイトの関係者シリーズのどれかをやる予定です。

現状だと、陛下や王妃様、側妃様周りの希望が出ていたので、その辺りを優先しようかと思ってはいますが。

希望があったら感想などでコメント頂ければ優先するかもしれません。

「セファリシア様。あなたから見て、リベルヤ子爵家はどう見えますか?」


 リベルヤ子爵家へと厄介になる事になった日の夜。

 まだ眠るには少しばかり早いくらいの時刻に、少しお茶でもどうか、とシャルロット様からお誘いがあった。

 立場上、私は誘いを断ったとて文句は言われないが、元は公爵家の令嬢である彼女から誘われて、それを断るという選択肢は私の中には無い。

 そうして、リベルヤ子爵邸のサロンにて、彼女と小規模ながらお茶会をする事と相成ったわけだが。

 メイドから給仕された紅茶を一口含み、それを飲み干してから、シャルロット様は静かに私へと問うた。


「どう見えるか、ですか。それが何を指すのかによって返答は変わりますが?」


「あなたの思うままを教えて下さい。今日、ここに来てから何を感じ、何を考えたのかを」


 自分の感じた事を思うままに述べよ、と言われ、私は素直にそうしていいのかどうか、僅かばかり逡巡する。

 対面に座るシャルロット様を見れば、微笑みを浮かべたまま、私の言葉を待っているのが見えた。

 公爵家の秘蔵っ子。

 見た目はただの良家のお嬢様で、その表情には悪意も、策謀も、探りも、その全てが存在せず、ただ柔らかな微笑があるのみ。

 だが、私は彼女がその微笑みの裏で、どれだけの可能性と選択肢を思い浮かべているかを考えると、とても隠し事をする気にはなれない。

 否、隠し通せるはずがないだろう。

 王国内の情報を取り仕切り、表の事情から裏の事情まで、その全てを知っていると言っても過言ではない側妃様ですら、彼女に言いくるめられたと聞くし、貴族令嬢としての姿を被らなければならない(・・・・・・・・・・)私の考えなど、赤子の手を捻るが如く見透かすと思われる。

 変に穿った見方をしたり、余計な事は考えるべきではない。


「そう、ですね。一言で表すのなら、異常、と言うべきでしょうか。日中の訓練の様子もそうですが、あんな歪んだ訓練とも言えない暴力に晒されながらも、使用人たちはその技術を、理不尽に立ち向かう胆力を、戦うに足る実力を身に着けています。軽く見ても、最低B級冒険者くらいの強さを持つ使用人の集団に、カナエ殿やジェーン殿といった特記戦力。どう考えても、子爵家の持ち得る戦力ではないと言えるでしょう」


 陛下は、その異常な子爵家の頂点に立つ、リベルヤ子爵を重用しているようだが、仮にその力が王家に向けられたのならば、下手をすれば王家が滅ぶ。

 そんなくらいにはあり得ない戦力を保有しているだろう。

 それ以上に、子爵本人もとんでもない実力を有しているのだが。

 まだ齢14というには、あまりにもとんでもない武芸を有しているのを訓練の最中に見た。

 最も得意とするのは剣のようだが、それ以外にも様々な得物の扱いに通じている。

 見た限りでは、一撃を重視するような重い武器はどちらかと言うと不得手のようだが、手数で攻めるタイプの武器の扱いはかなり得意なようだ。

 筋力よりも技量を重んずるようだが、一撃の威力も軽視はしていない、といった所だ。


「ハイトさんは王家に忠誠を誓っていますよ。今の時点では(・・・・・・)、ですが」


 万が一にも国に反逆する事があれば……そんな最悪を想定した私の思考を、シャルロット様にピタリと当てられ、背筋に冷たい汗が流れる。

 表情は変わらず、友好的な微笑みを浮かべているはずなのに、彼女の中に言い知れぬ底知れなさを感じてしまう。

 私如きでは、到底測る事ができそうにない。


「陛下が、王家が、間違った方向に進まないのなら、ハイトさんは袂を分かつ事はありませんよ。ハイトさん自身も、陛下の事は気に入っているようですしね」


「王城でのやり取りを見る限り、側妃様にも気に入られているようですし、今後のリベルヤ子爵家は安泰、といった所でしょうか?」


 とはいえ、私も侯爵令嬢の端くれ。

 このままシャルロット様に対して泣き寝入りするようでは、将来的に侯爵家を継いだ時に、立ち行くわけがない。

 父は海千山千の貴族たちを相手に、軍部が忙しいという言い訳の道を考えさせないくらい、互角以上に渡り合っているのだ。

 まだ浅学の身とはいえ、ただ竦んでいるわけにもいくまい。


「……ふふ、いいですね」


 なけなしの勇気を振り絞り、シャルロット様から情報の欠片でも拾おうと挑んだ瞬間、彼女は笑みを強くした。

 歴戦の貴族にも劣らない風格がありながら、美しく、蠱惑的なその笑みは、同性であるはずの私ですら目を離す事ができない。

 もしも私が男だったのなら、間違い無く虜になっただろう。


「これなら、託せそうです」


 何を託すのか、などとは言い出せない。

 彼女がどんな未来を描き、どんな可能性を見た上で、最良の結果を得るために、どんな備えを思い浮かべているのか。

 私なんぞに推し量れるはずもないというもの。


「……ハイトさんの命を、あなたに託します」


 私の沈黙をどう取ったのかは不明だが、シャルロット様の感性としては、信用に足ると判断されたらしいな。

 先ほどの笑みから、途端に真剣な表情となり、いきなり私の奴隷契約を解いた(どうやって解いたのかはわからない)かと思えば、今後予想される出来事、そうなった際のリベルヤ子爵の行動予測、最悪の未来を回避するための方策……一気に色々な情報を詰め込まれ、私は頭が破裂するのではないかと思ったが、その情報量の割には、不思議とすんなり理解できた。

 恐らくは、シャルロット様の説明が丁寧でわかりやすかったからだとは思うが、自分の思う以上にスッと腑に落ちた感覚だ。




……

………




「……恐ろしいものだ」


 砦の指揮所にて、周囲の状況確認に散った斥候の報告を待つ間、私は出発前にシャルロット様と交わした密会の内容を思い返していた。

 あのような怪物の出現こそ、さすがに予見はしていなかったものの、大筋では今回の出来事をほぼ正確に予測されていたのだ。

 タイラン侯爵の反乱が起き、鎮圧にリベルヤ子爵が駆り出され、事態が大きくなる。

 大きくなった事態を収束させるために、子爵は家臣や使用人たちを逃がし、己の命を懸けようとするだろう。

 他にも細かい点はあったものの、ほぼ正確に状況を予測しており、まるで未来予知でもしたのかと思うくらいには正確性が高い。

 彼女自身には戦闘能力は無いようだが、その気になれば、この国を裏から操るくらいなら簡単にできてしまいそうなくらい、先手を打つのが早い。

 実際、父と子爵が倒れた際にも、私が咄嗟に軍の指揮を執るという発想に至ったのも、シャルロット様から事前に予測を聞いていた部分が大きいのだ。

 彼女ほどの傑物を従え、揺るがぬ忠誠を得ているのは、偏に子爵の人柄なのだろう、と思う。

 最も、彼女の場合は忠誠心を通り超え、子爵と添い遂げるという貴族女性の覚悟すら感じたが。


「この状況が彼女の予測と違わぬのなら……もう一波乱、起こるのだろうな」


 シャルロット様の予言じみた話が大きく違わないのであれば、ここからもう一つ、大きな何かが起こる。

 砦という拠点に入り、状況が落ち着いたので、折れた左腕をしっかりと固定し、首から下げた布で吊り、負担がかからないようにする本格的な治療を受けたが、私の不安を象徴するかのように、未だに痛みがじわじわと苛む。

 しかし、臨時とはいえ総指揮官たる私が不安な顔をするわけにもいかないので、毅然としてこの事態の収拾に当たらなければならない。

 1つだけ幸いなのは、父もリベルヤ子爵も、一命は取り留めた、という所だろうか。

 とはいえ、早く王都の設備で治療した方がいい事は間違い無いので、先に父と子爵を王都に送ろうか悩んでしまう。


「……今は事態の収拾に集中せねばな」


 幸い、意識こそ戻っていないものの、2人とも処置そのものは終わり、小康状態ではある。

 王都に移送するにしても、斥候の報告を得てからで問題無い。

 この時ばかりは、シャルロット様の予測が外れてくれればいいな、と願わずにはいられないのだった。

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