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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり7人目㉑

セファリシア視点かつ少し時系列が巻き戻っています。

あと単純に時間計算ミスってたので、ワケあり7人目⑲の三重魔力砲撃の照射時間を5分→2分に修正しました。

「おい! 親父さんを止めてくれ! 下手に今、ヤツに兵士を捕食でもされたら、今まで削った分が無駄になる!」


 何らかの自己強化を施し、異形と化した怪物と渡り合うリベルヤ子爵が、振り向きながら怒鳴る。

 それだけ、余裕が無いのだろう。

 父もあの怪物を見て、ただ事じゃないと即時攻撃に移ったようだが、今は余計な事をしては彼の努力を水泡に帰す事になるな。

 すぐに父に会わねば、と私は背中の翼を羽ばたかせ、飛んで真っ直ぐに父の下へと向かう。

 幸い、怪物の方は子爵が抑えてくれている。

 私が狙われる事は無いだろう。


「リシア! 無事だったか!」


「父上!」


 数分程度で私の姿を先に認めたのか、父の方から声をかけてきた。

 既に見えているのなら話は早い、とそのまま父の方へ移動すれば、安心したように相好を崩す。


「状況がわかるなら教えてほしい。あの怪物は一体何だ? リベルヤ子爵が戦っているようだが」


 およそ人間が可能な戦闘を逸脱している動きに、父を始め、兵士たちも圧倒されてしまっているが、今はその方が都合がいい。

 初撃こそ加えたものの、その後は手を出していいものかどうか、迷っていたのだろう。


「あれは……タイラン侯爵が何かの現象に巻き込まれて生まれた怪物です。タイラン侯爵の軍を1人残らず捕食し、次なる獲物を求めている。私たちはリベルヤ子爵の機転に助けられました」


「あれが、タイラン侯爵だというのか」


 自己強化により、とんでもない戦いを繰り広げている子爵に、いくら攻撃を受けようとも、倒れる気配の無い怪物。

 この状況を、自分たちはどうにかできるのか。

 そんな自問自答をしているのか、兵士たちは緊張した面持ちで状況を見ている。


極高限界突破ハイメガオーバーリミット三重魔力砲撃(トリプルマナカノン)!」


 そんな中、子爵は空を飛び、大技を怪物の口内に叩きこんだ。

 数分に渡る攻撃を終え、子爵が地面に降り立つと、怪物はピタリとその動きを止めた。

 そんな様子を見て、にわかに兵たちが沸き立つ。


「やったか!?」


 そんな事を口走ったのは誰だろうか。

 私がその言葉を認識した直後に、再び状況が大きく動く。

 怪物が爆発し、衝撃波が私たちを通り抜けていった。

 幸い、身構えていれば体勢を崩さずに済む程度だったし、仮に身構えていなかったとて、少々転倒するかどうかという程度だ。

 しかし、その後の状況が良くない。


「今、俺の中に全てがある! 我が軍の兵士たちの、その力と命が!」


 爆発後の煙が晴れ、異形と化した人型の怪物から、タイラン侯爵の声。

 高らかに復活の名乗りを上げた後、ヤツが動けば。

 自己強化で相当に強かったはずのリベルヤ子爵が、反応すらできずに殴られた。

 無論、私も、父も、兵士たちも、その動きを知覚する事はできず、ただ異形と化したタイラン侯爵が、何かを殴ったようなポーズだったから、その結果で子爵が吹き飛ばされた、という状況を後追いで確認したに過ぎない。


「ククッ、クハハハハ! あのクソガキが、まるで雑魚じゃないか!」


 子爵を一撃で圧倒し、己の力の全能感に酔っているのか、タイラン侯爵は追撃をするでも無く、ただ余裕の態度を見せるのみ。

 兵士たちに広がる、絶望感。

 多分、この瞬間には私と父の認識は揃っていたように思う。

 違ったのは、その後の行動だけだ。


「言ってろ、雑魚野郎……」


 吹き飛ばされたリベルヤ子爵が、全身の激痛に耐えて立ち上がる。

 相当なダメージを受けているのは明白で、その姿は生まれたての小鹿のようだ。


「フハハ、そんな状態で良く吠える。じっくりと甚振ってやろう」


「ハッ、そんなん願い下げだ!」


 まだ、子爵の戦意は消えておらず、この状況を打開できるのは、彼しかいない。

 そんな確信を持ったのか、父はすぐに抜剣して駆けた。

 命を賭して、子爵がヤツを屠るための時間を稼ぐ。

 そんな決意を滲ませた父は、鎧を装着しているとは思えぬ瞬足でもって、異形と化したタイラン侯爵へと斬りかかる。

 そんな父を見て、私も自然と身体が動いていた。

 父だけでは足りぬかもしれない。

 であれば、私の命も賭ければより可能性は高まる。

 無論、むざむざと死ぬつもりは無いが、王国貴族として、命の使い時である事は明白だ。

 あんな怪物を自由にさせてしまえば、どれほどの被害が出るかわかったものではない。


神経雷化(ライトニングナーブ)!」


 さらなる自己強化を施した子爵が、先ほどよりもとんでもない速度でもって、ヤツと斬り結ぶ。

 恐らくは、相当に無理をしているのだろうが、それでもほぼ互角。

 この状況を動かすために、父が異形と化したタイラン侯爵の背に、右手の剣を叩き付ける。


「隙だらけだぞ!」


 父の一撃は、硬質な音がしただけで、ヤツに僅かな痛痒も与えていなかったが、その意識を向ける事には成功した。


「逆賊の徒め! 今日こそ引導を渡してくれる!」


 さらに注意を惹くために、大きな声を上げてタイラン侯爵に挑みかかる父だったが、まるで羽虫を払うかの如く、父の攻撃を振り払う。

 あまりの威力に、剣こそ手放さなかったものの、父は大きくたたらを踏んだ。

 そんな状況にあっても、父はリベルヤ子爵に目配せをして、小さく頷く。

 父の意図を理解したのか、子爵は構えを取り、ヤツを屠れるだけの一撃を放つために準備を始めた。

 我々の望む状況にはなったが、父にはあまりにも致命的すぎる隙が生まれてしまっている。


「うるさい羽虫だな……まあいい。どのみち貴様には死んでもらう予定だった。それが早まっただけの事!」


 ヤツの一撃が父を捕らえる前に、私は身体をヤツと父の隙間に滑り込ませ、左腕の盾でそれをいなす。

 ぶっつけ本番だったが、どうにか成功できたな。

 ただ、これだけはわかる。

 いなしに僅かでも失敗すれば、盾と腕ごと持っていかれるだろうな、と。


「父上! 指揮官が真っ直ぐに突っ込んでどうしますか!」


 父に叱責の言葉を飛ばせば、私の顔をちらりと振り返り、その意志を確認したのか、無言で頷くに留めた。

 ここが正念場、という共通認識を短いやり取りで確認し、私たちは異形と化したタイラン侯爵に挑む。

 向こうは徒手空拳だが、その一撃は恐ろしく重く、そして身体も頑強。

 私たちでは、ヤツに決定打を与える事は絶対に叶わないだろう。

 けれど、リベルヤ子爵から意識を逸らさせる事さえできれば、戦略的勝利が見える。

 私たちがその際に命を繋いでいるかはわからないが、悪くない賭けだ。


「羽虫親子が! 大人しくくたばれ!」


 父と交代でヤツの攻撃をいなし続けたが、さすがに苛立ったのか、先ほどよりも強烈な一撃が父を襲おうとした。

 父があれを受けるのは不可能、と瞬時に判断し、私は父のフォローに入る。


「父上! くあっ!?」


 しかし、その一撃を私はいなす事ができなかった。

 勢いのままに吹き飛び、強かに背中を打ち付け、無様に地面を転がっていく。


「リシア!? く、まだだ!」


 父の焦った声が聞こえる。

 しかし、全身を駆け抜ける痛みと、肺から空気が絞り出されてしまって、すぐには動けない。

 それでも、寝ている場合ではない、と無様ながらも立ち上がれば。

 左腕に激痛が走り、顔をしかめる。


「くっ……これは使い物にならんか」


 視線を己の左腕に移してみれば、大きく変形してしまった盾と、あらぬ方向に曲がった左腕が目に入った。

 盾はもう使い物にならず、左腕も折れて、戦力としては数えられないかもしれないが、いざという時の肉壁くらいにはなれる。

 そう思い、再びヤツへと立ち向かうべく、駆けだす。

 もう少しで戦線に復帰できる。

 そんな時、タイラン侯爵の無造作な一撃が、父を鎧ごと斬り裂いた。

 多くの血を流しながら、父が崩れ落ちていく。

 叫びたくなる気持ちをグッと抑え、ヤツを睨む。


魂すら貫く一突(ソウルピアッシング)!!」


 そんな時、今まで攻撃の準備をしていたリベルヤ子爵の方から、力強い声が。

 私も動こうしたが、左腕の痛みに、身体が上手く動かなかった。


「くっ、この死に損ないが!」


 そんな中で、私よりも深手を負っているというのに、崩れ落ちたはずの父はヤツの足をがっちりと掴んでいたため、子爵の声に反応して回避行動を取ろうとしたのを一瞬止める。

 己の命が散るかもしれないというのに、恐ろしいまでの執念で、最後の一瞬の時を捻出して見せた。

 我が父ながら、その姿に、その崇高な意志に、改めて敬服してしまう。


「ハアアアアアッ!」


 しかして、父の生んだ一瞬の時にて、リベルヤ子爵はとんでもない速さでヤツの胸を貫く。

 今、この瞬間に、私たちの戦略は、勝利をもたらしたのだ。 


「ば、バカ、な、……ウボアアアアァァァァ!!」


 断末魔と共に、異形と化したタイラン侯爵は爆散し、その肉体は霧のようになって消えてしまった。

 勝ったのだ、と認識した瞬間、自然と片膝をついてしまう。

 どうやら、思っていた以上にいなし損なった一撃によるダメージが効いていたらしい。

 とはいえ、まだ安心しきるのは早い、と意識を切り替え、瞑目していた目を開いて倒れている父とリベルヤ子爵を見れば、最後の一撃を決めた格好の子爵が、いきなり全身から血を噴き出してゆっくりと倒れていくのが見えた。

 まるで、走馬灯を見ているかのように、恐ろしくゆっくりと。

タイラン侯爵との決着時のセファリシアサイドのお話でした。

まだもう一騒動ありますので、もう少しばかりワケあり7人目をお楽しみ下さい。

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