ワケあり7人目⑱
新たに感想を頂きました!
お返事は個別にしていませんが、必ずを目を通させてもらっています。
作者の活力の源になりますので、良ければ他の方も感想があれば遠慮なくお願いします。
「まずは一当てだな」
怪獣の背を追い、ヤツを攻撃射程に捉えた。
砦からは間違い無く、姿を目視されているはずだが、タッキンズ伯爵たちは砦の兵器を使って応戦する事を決めたようだ。
変に野戦を挑むよりも安全だし、その判断に間違いは無い。
それに、俺個人で動く分には巻き込む心配がいらないので、すこぶる動きやすい環境である。
「大氷河期」
空気中の水分を集め、怪獣の足元を重点的に凍らせていく。
最初っから最上級魔術を使用したのは、相手がそれだけの脅威だと認識しているから。
これで機動力を削ぐ事ができれば、かなり戦いやすくなるだろう。
しかして、足元が凍り付いた怪獣は、確かに足を止めた。
ほんの、数分程度だけ。
「力業で抜けたか。平然と動いてる以上は、生物的な構造はしてないな」
本来なら、絶対零度で相手を凍てつかせる魔術だ。
仮に一部だけだったとしても、普通の生物なら芯まで凍り付いているので、足が無事なはずがない。
しかし、あの怪獣は平然と歩いている辺り、普通の生物的な感覚には期待できそうもないな。
痛覚や恐怖心といったものも、無いと思って間違い無いだろう。
「で、何かいい作戦は無いか?」
ダメ元で、後ろから俺についてきたセファリシア嬢に声をかけてみれば、彼女は無言で肩を竦めるだけ。
まあ、ダメで元々ではある。
とりあえず、属性を使った攻撃に意味は無さそうなので、魔術で攻めるなら無属性で威力を重視すべきだろう。
「せめて、注意をこっちに向けないとな」
この状況において、最適な魔術を選定し、魔術式を紡ぐ。
威力を向上させるため、少し過剰ともとれる魔力を注ぎ込めば、漏れだした魔力が燐光を纏う。
「魔力砲撃・限界突破!」
砲口に見立てたルナジアムの先を怪獣の頭部に向け、指向性を持たせた魔力の奔流を解き放つ。
物理的な破壊力を伴うそれは、確かに怪獣の頭部を捉えた。
およそ10秒間の魔力の照射を終え、俺は大きく息を吐く。
「……効果があるとわかっただけマシ、か」
魔力の奔流が直撃した怪獣だったが、頭の殻が消滅こそしていたものの、中身の方は無事のようで、触手の鬣と、大きな口は健在。
しかし、注意を俺に向ける事はできたようで、ヤツはゆっくりと身体をこちらに向けた。
「……正しく敵と認識された、か」
身体をこちらに向き直らせた怪獣は、その大口から、おぞましい咆哮を上げ、こちらに力強く足を踏み出す。
濁った敵意の感情が叩き付けられ、明確な害意が生まれている。
恐らく、俺の事を食事の邪魔をする敵、と認定したのだろう。
「さて、逃げるなら、最後のチャンスだぜ?」
ここからは、恐らく背後のセファリシア嬢を気遣うような余裕は無い。
いっそ逃げてくれないかなー、と希望的観測で声をかけてみれば。
「今さら、逃げるわけが無いだろう。というか、貴殿があれを倒せないのなら、王国に安全な場所など無い」
はい、ド正論頂きましたー。
身体のデカさとか、存在の理不尽さとか、諸々要因はあるけど、恐らくはあいつを倒せる可能性があるのは俺だけだ。
一応、効きにくいが物理的なダメージか、あるいは無属性の魔術ならダメージが入るのは確認できたが、近接戦闘はそのまま触手に捕まって食われる未来しか見えないので、実質は距離を放して攻撃できる手段一択である。
そうなれば、あの怪獣を討伐しきれるのは王国イチのバカ魔力持ちである俺くらいなものだろう。
これについては、近接戦闘スタイルの相性が悪すぎるので、仮に俺よりも強い王妃様やS級冒険者の皆さんでも厳しそうだ。
かろうじて、奇異の魔術師が戦力になるかどうかといった所だろうか。
「だよなー。せめて、タッキンズ伯爵たちを逃がす伝令に行ってくれたりは?」
「あんな化け物を王都にただ侵攻させるわけにいかん。タッキンズ伯爵なら、とっくに覚悟を決めているはずだ」
ああもう、とことん思い通りにならないお嬢様だな!
やりにくいったらありゃしない。
「ああもう、好きにしろ!」
適当に牽制の魔術を放ちつつ、俺たちは少しずつ人里離れた場所へと怪獣を誘導していく。
仮に俺が敗れたとしても、避難の時間を少しでも多く稼がないといけないからだ。
無論、死ぬ気は無いのだが。
「……やっぱ通らないよな」
念のため、鑑定をかけてみるものの、まるで効果が無い。
事前に情報が得られるのなら、それに越した事はないのだが、こればっかりは通らないのならしょうがないわけで。
だったら、そう織り込んで動くしかないのだ。
「魔力大剣刃!」
ルナジアムに巨大な魔力の刃を纏わせ、一時的に巨大な剣を生み出しての一撃。
無属性の魔戦技は、怪獣の身体を大きく斬り裂く。
ざっくり言えばライ〇ーソード。
手応えはある。
しかし、戦局を決定付けるものではない。
ダメージそのものはあったのだろう。
怪獣から大きな咆哮が上がる。
まるで、何しやがる、とでも言いたそうに。
「これで致命傷、だったら楽だったんだがな……」
とはいえ、収穫もある。
手応え的に、魔術よりも魔戦技の方が通りがいい。
であれば、俺の戦闘スタイルとの相性は悪くないな。
あとは、ヤツを倒しきるまで、俺の体力と魔力が保つかどうかの勝負になるだろう。
「魔力はどのくらい保つ?」
「残り魔力は3分の2くらいだ。ま、何とか使い切るまでに倒すさ」
まだ軽口を叩く余裕はある。
攻撃も通る。
敵の生命力の高さが尋常じゃなさそうだが、攻撃が通るのならいつかは倒せる。
諦めるほどの脅威じゃない。
とはいえ、切り札を切るなら今のうちか。
「覚醒の翼!」
全身に圧縮した魔力を纏う。
文面にしてみれば、ただそれだけの魔戦技。
余剰魔力が可視化されて、背中から翼のように展開されるので、覚醒の翼。
今、俺の姿は赤く輝いている。
要するに、ト〇ンザムだ。
発動中は大きく能力が上がり、効果が切れるまでは魔術も消費を気にせず使える。
が、発動しているだけで魔力はどんどん減っていき、魔力を使い切るまで解除不可能。
強制解除となった時点で、俺は魔力切れで意識を失い、戦闘不能となるわけだが、出し惜しみしてどうこうできる相手でもない。
「時間制限は、10分!」
大きく向上した能力に物を言わせて、即座に魔力大剣刃を発動。
普段なら負荷の重い魔戦技も、覚醒の翼を使用時なら、連続使用に身体が耐える。
ならば、使わない手は無い。
徐々に減っていく魔力を感じながら、巨大化させた剣で手当たり次第怪獣を斬りまくっていく。
どこが急所かもわからないので、とにかく手数を優先する。
少なくともダメージを与える事はできていて、徐々に削っている感覚があるので、手数を出しながら並行で急所を探っていこう。
もちろん、怪獣の方も黙って斬られてはいないが、そこは本家のトラ〇ザムよろしく、残像を残しながらの高速移動で反撃を躱していく。
「……君というやつは、一体どこまでデタラメなんだ?」
ぼそりと呟くセファリシア嬢の声が聞こえたが、生憎と反応を返す余裕は無い。
何せ、動けなくなる前に、ケリを付けないといけないからな!
トランザム、いいよね。
なお、作者は00ライザーが一番好きなMSです。




