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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり7人目⑩

次回、開戦!

「来ましたわね」


 執務室に入った俺の姿を認め、側妃様が立ち上がる。

 見覚えの無い男を伴い、来客用ソファに座るよう目配せをしてきたので、俺たちは挨拶もそこそこに真っ直ぐにソファへと腰を下ろす。


「……あの男性はアーミル侯爵の寄り子の貴族、ベン・タッキンズ伯爵よ」


 エスメラルダが男性の情報を耳打ちしてくれたので、小さく頷く。

 もしかすると子爵に昇爵した時のパーティー辺りで会った事があるのかもしれないが、あんなわんこそばの如く挨拶が連続した中で人の顔と名前なんて覚えてられないからなあ。

 よほどのインパクトがあればまた別だが。


「お初にお目にかかる。ベン・タッキンズと申す者だ。爵位は伯爵、アーミル侯爵の寄り子ゆえ、此度のタイラン侯爵の鎮圧に志願した次第だ」


 側妃様と並び、ソファに腰を下ろした男性が、座ったままながら自己紹介とお辞儀をしてくれた。

 初対面だと知って、少しだけ安心。

 タッキンズ伯爵は、背が低くてずんぐりとした体型だが、その肉体は鍛え上げられており、一端の軍人、といった様相だ。

 口元のちょび髭が少しばかりユーモアのありそうな雰囲気を醸し出しているが、その眼光は鋭い。


「これはご丁寧にありがとうございます。ご存じかとは思いますが、ハイト・リベルヤ子爵です。この度は側妃様より召喚されて馳せ参じました」


 相手の方が爵位も上だし、側妃様と気安い所を見せるのもどうかと思い、とりあえず下級貴族らしく振舞っておく。

 タッキンズ伯爵の目線には俺たちを品定めするような色があったが、とりあえず文句は言われなさそうだろうか。


「時間は惜しいですわ。早速軍議を始めますわよ」


 俺たちが自己紹介を終えた所を見計らって、少しばかり焦った様子の側妃様が進行を引き継いだ。

 ソファを挟んで設置されているテーブルに王都周辺の地図を広げ、目印になる駒のような石をぽつぽつと設置していく。

 石の色と大きさが分けられており、恐らくは敵と味方、その勢力の大きさを示すものだろう。


「現状で判明しているのは、王都周辺の巡回兵がおおよそタイラン侯爵に懐柔されたという事ですわ。既に王都包囲網は殆ど完成していましてよ」


 敵の勢力を示す赤い石が、王都周辺を囲むように設置されている。

 大きさはそれほどでもない事から、1部隊ごとの戦力としてはそこまで大きくはない、という事なのだろう。

 とはいえ、既に王都周辺を囲まれている状況は普通にマズイ。

 一応、東側は敵勢力が無いのだが、そちらは大軍を引き連れたタイラン侯爵の本隊が王都へ向かってくるルートだ。

 急いで後ろを追いかけているアーミル侯爵の軍もあるが、タイラン侯爵が出発を早めた関係で追い付く事は不可能になってしまった。


「タイラン侯爵が王都に近づく前に、周囲の敵勢力を少しでも削っておきますかな?」


 タッキンズ伯爵の言うように、少しでも包囲網を削っておく、というのは間違いではないが、こちらは寡兵なので、戦力の分散はあまり得策とは言えないだろう。


「こちらの動員兵力は1万を少し超えるくらいですわ。先に消耗すればタイラン侯爵の本隊に擦り潰されるのが目に見えておりましてよ。それに、懐柔されたとて、巡回兵たちは戦況が決定的なものにならない限りは動きませんわ。王都守備部隊と、タイラン侯爵軍の趨勢が決まるまでは傍観を貫くはずでしてよ。こちらへの補給を止めるくらいはするでしょうけれど」


 側妃様の言葉は半分くらい希望的観測が含まれている気がしたが、あながち間違いでもないか。

 いくら兵力が大幅に上回っているとはいえ、タイラン侯爵は反乱を起こした側である。

 大義名分があるわけでもなく、正当性も無い。

 恐らくは、陛下と主力となる近衛騎士団の大半が国を空けている、今しかチャンスが無いと考えたのだろう。


「うーむ……アーミル侯爵閣下の援軍を待つとしても、1日から2日は耐えねばならんか。王都での籠城は包囲状況からして、勝ち目は無い。であれば、王都東の砦を起点として、防衛線を行う必要があるか。王都側の守備兵は残さなければならないが、およそ8千程度の兵力を出せる」


 限られた兵力に、限られた時間。

 その中でタッキンズ伯爵は、王都東側の最寄りの砦に防衛陣地を構築し、そこでアーミル侯爵の援軍が来るまで耐える、という結論を出したようだ。

 まあ、俺も基本的にはそれしかないかな、とは思う。

 最寄りの砦は王都から半日くらいの距離。

 これから話を纏めたらすぐに王都を発って、寝ずに準備をすれば迎撃準備は間に合うだろう。


「しかし、止め切れるのか? 総勢10万にも達する、タイラン侯爵の精兵を」


 10万の大軍を寡兵の8千程度で迎え撃つ。

 土台は無理な話だ。

 遅延そのものは可能だとしても、普通にぶつかるのなら兵力が違いすぎる。


「……側妃様、この地点ならいいでしょうか?」


 今回の起点となる砦付近の地形や街道の状況を見て、俺は地図の一点を指差す。

 タイラン侯爵の軍が通れる大きな街道で、必ず通ると思われる地点。

 かつ、開けていて、障害物は殆どない。

 それでいて、迂回路そのものはたくさんある。

 つまり、一時的に街道が潰れたとしても、迂回して目的地に行く事は可能な場所、というわけだ。


「……致し方ありませんわね。そこ以外には適正地点もありませんし」


 俺と側妃様との間で交わされる、暗黙の了解でのやり取りに、タッキンズ伯爵は怪訝な表情を浮かべている。

 まあ、前提を知らないのなら無理も無いだろう。


「タッキンズ伯爵、王都守備兵8千を動員して、最寄りの東砦にて防衛陣地を形成、アーミル侯爵の援軍が来るまで保たせるよう、厳命いたしますわ」


「は。我が命に代えましても」


 怪訝な表情こそしていたものの、正式に側妃様から命令を下された瞬間に、タッキンズ伯爵はそれに従った。

 国に対する、絶対の忠誠心だ。

 俺には無いものである。


「リベルヤ子爵には、手勢を率いて先行し、タイラン侯爵軍に対する遅滞工作及び戦闘を命じますわ。全力を尽くして侯爵を消耗させる努力をして下さいまし。状況によっては、街道を潰す事も許可しますわ」


「は。しかと承りました」


 俺に対しても正式にタイラン侯爵軍と戦うよう命令が出された。

 正直にぶっちゃけてしまうと、今日の会議に関しては半分くらい体裁な部分が大きい。

 どの道、俺が先行してタイラン侯爵軍に対して、威圧行動を行うのは確定していたし、主な守備部隊を任せる人物に王都付近を守らせ、矢面に立ったように見せかけるためだ。

 リベルヤ子爵家がタッキンズ伯爵指揮の下で、決死の作戦を行う。

 これが今回の筋書きである。


「……リベルヤ子爵の手勢、一体どの程度の兵力か?」


 一緒に陛下の執務室を辞して、王城内を歩いていると、タッキンズ伯爵から問われた。

 純粋に俺を心配しての質問だったようで、困ったような表情をしている辺り、どうやら意外とお人好しな面もあるようだ。


「せいぜい全部で50人といった所でしょうか。まあ、新興貴族ですから、出せる兵力なんて知れていますよ」


 苦笑しながら返答してみれば、タッキンズ伯爵は驚いた顔をして、足を止めた。


「お主のような子供が、それでは死にに行けと命じられたようなものではないか! 今からでも、我々の守備部隊に組み込めないか、側妃様に進言を……」


「お気持ちだけ受け取っておきます。ですが、これは我々リベルヤ子爵家にしかできぬ事。ひいては陛下からの命もありますので、仔細を明かす事はできませんが、側妃様もご存じの事です。ですので、どうかご心配無く」


 側妃様よりも上の、この国における最大権力からの命で動いている、と言われては、さすがにタッキンズ伯爵もこれ以上の問答はできないと理解したのだろう。

 苦々しい表情ながらも、その歩みを再開する。


「……もし、何かあれば、私を頼れ。可能な限りは支援しよう。お主のような若い者が死に急ぐものではない」


「ありがとうございます。私も死にたくはありませんから、せいぜいタイラン侯爵に全力の嫌がらせをしてやりますよ」


 タッキンズ伯爵はいい人だな、と思いながら、俺はあえての笑顔で王城を後にするのだった。

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