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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり7人目③

「ただいま戻りました」


 無事にセファリシア嬢を保護できたので、彼女を連れて王城の陛下の執務室へ。

 入室すると、執務机で書類を捌いていた側妃様が、がばりと顔を上げた。


「ずいぶん早く戻ってきたので空振りかと思いきや、既にセファリシア嬢を保護してきたのですわね」


 側妃様は今しがた処理を終えたのであろう書類を一枚脇にどけると、伸びをしながら立ち上がる。


「側妃殿下、この度は危ない所を助けて頂いたようで、誠に感謝しております」


 自分へ注意が向いたのに気付いたのか、セファリシア嬢は綺麗な一礼で頭を下げる。

 先ほどの男っぽい口調からは考えられないくらい、流暢に敬語で話す彼女を見て、やはりこうした立ち振る舞いの切替が速いのは、高位貴族らしいなと思う。


「礼ならそこにいるリベルヤ子爵にする方がいいですわよ。わたくしはあくまで救援要請を出しただけですもの」


「いえ、側妃殿下が救援要請を出していなければ、今頃私はタイラン侯爵の手に落ちていた事でしょう。無論、迅速に保護して頂いたリベルヤ子爵にも感謝しております」


 まだ出会ってからそこまで時間は経っていないが、こうしたやり取りを側妃様としているセファリシア嬢は、ザ・生真面目といった印象だ。

 真面目が服を着て歩いているというか、融通が利かなさそうというか。


「礼は受け取りましたわ。それでは、あなたも交えて今後の話をしましょう」


 こちらに移動しながら、側妃様は使用人を呼ぶ鈴をチリンと鳴らす。

 すぐに使用人が中に入ってきて、人数分のお茶を淹れるよう指示を出すと、俺たちにソファの方に座るよう促してくる。

 俺とカナエが隣合って座り、その対面に側妃様とセファリシア嬢が腰を下ろす。


「あなたが狙われた理由はもう、気付いているかしら?」


 隣のセファリシア嬢に視線を送りつつ、側妃様が音頭を取った。

 進行役をやってもらえるのはありがたいな。


「はい。ほぼ確信していますが、タイラン侯爵が本格的に動き出したのでしょう。それで、障害となる父を牽制するために、私を人質にしようとした、といった所かと」


「察しが良くて助かりますわ。あなたの予想通り、タイラン侯爵が本格的に動き出し、領地に物資を集め出した所でしてよ」


「で、では、すぐに父に伝令を……」


 事情を知るや否や、動き出そうと立ち上がりかけたセファリシア嬢に、側妃様がデコピンをお見舞いする。

 パチリと小気味良い音がして、セファリシア嬢は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まっていた。


「少し落ち着きなさいな。あなたが知って予測を立てられる事を、わたくしが予測できていないはずがないでしょう」


 諭すような側妃様の口調に、セファリシア嬢は浮かしかけていた腰をソファにすとんと下ろす。

 ちょうど、そのタイミングで使用人の皆さんが紅茶とお茶請けを給仕してくれる。

 いつの間にかカナエの存在が認知されていたのか、彼女の分だけお茶請けの量がかなり多い。

 申し訳ない、と小さく頭を下げれば、使用人の方々は微笑みと共に小さな一礼を返してくれた。


「少しは落ち着きまして?」


 優雅に紅茶を飲みながら、側妃様がセファリシア嬢に声をかけると、彼女は先ほどの焦りが恥ずかしくなったのか、少しばかり頬を赤くして頷く。

 よろしい、と一つ頷くと、側妃様が俺に視線を向ける。


「リベルヤ子爵は大軍を相手取るとしたなら、どういった手法を取りまして? 敵の生死は問わないものとしますわ」


 品定めするような視線で俺を見る側妃様。

 大軍を相手取るなら、かあ。

 恐らくは、俺を含む子爵家のメンバーでどう戦うか、という話なのだろう。


「敵の規模や特性にもよりますが、手っ取り早いのは広域魔術による殲滅ですね。いちいち相手をしていたらこっちの手が足りません。魔術が使えないのなら、夜襲で敵の大将を落としに行くのが妥当な所ですかね。どうあがいても人数じゃ勝てないですし」


 まあ、カナエという暴力装置があるので、下手すれば彼女1人で数百から千人くらいは平気でしばきそうだが。

 何ならそこまで本気じゃない一撃で地形を変えてしまう程度には、頭のおかしいパワーゆえに、一撃で数百から千人を屠りかねないのがまた恐ろしい所で。

 毎回思うけどホントにストロングなフィジカルお化けだなあ。


「……戦えないとは言わないのですわね」


「できないわけじゃない、ってだけでやりたくはないですよ?」


「普通は子爵家程度の戦力で大軍など戦いようがありませんわよ」


 呆れたように俺を見る側妃様。

 おかしいな、聞かれたからこうするって答えただけなのに。

 俺ってそんなに変な事を言っただろうか?


「いい加減、あなたは自分が異常な事に気付きなさいな。まだ成人もしてないというのに、イライザですら一目置くほどの実力者など、そうそういないですわ。彼女ですら、敵対したくないと言っておりましてよ?」


 王妃様が敵対したくない、と評してくれているのは素直に嬉しい所ではあるが、敵対したくないだけで殺せないとは言ってないんだよなあ。

 まあ、俺も無抵抗で殺されるつもりはないし、それなりに時間を稼げるくらいの実力はあると思っているが。

 カナエがいれば、五分くらいには持っていけるだろうか。


「……噂に聞いてはいたが、リベルヤ殿はかなり肝が据わっているのだな」


 側妃様と話している俺を、珍獣を見るかのような目で見るセファリシア嬢。

 おかしいな。

 みんなして俺を普通じゃないみたいな扱いをして。


「ハイトが普通ならこの国は大陸を制覇してる。その年齢でその強さはおかしい」


 もぐもぐとお茶請けを頬張りながら、カナエが後ろから刺してきた。

 お前、俺の味方じゃないのかよ……!


「意見の一致ですわね。まあ、リベルヤ子爵が普通でないのは一旦置いておきまして。こちらの調べでは、およそ1週間程度でタイラン侯爵が動き出すと予測していますが、今から伝令を走らせたとして、伝達に2日、軍の準備に数日、移動に2~3日がかかる距離ではアーミル侯爵は間に合いようがありませんわ」


「そこで俺に足止めでもしろ、というわけですか?」


「最初はそのつもりでしたわ。さすがに指揮官はこっちで用意しますけれど、王都と巡回の兵をかき集めた軍で足止めをさせる予定でしたもの。けれど、先ほどの話を聞いて少し気が変わりましたわ。リベルヤ子爵なら、最悪はこけおどしとしても、敵軍の士気を削ぐ事も可能ではなくて?」


 あー、なるほど。

 大規模魔術やら何やらを見せつけて、敵軍に戦う事が割に合わないと判断させれば血も流れずに済む、というわけか。

 まあ、仮にそういったデモンストレーションをするのであれば、変形させてもいい地形の位置でタイラン侯爵軍を迎え撃つ必要があるのだが。


「脅して敵軍の士気を挫くのはいいとして、場所はどうしますか? まず間違いなく、地形や環境が変わりますが」


 下手すればぺんぺん草も生えないくらいに不毛の大地になりかねないからね。

 仮にそうならなかったとて、大規模な整備は絶対必要になるし。


「こればかりはタイラン侯爵の出方次第ですわね。進路が判明した時点で一番影響の少ない場所を選定しますわ」


 間違いなく地形や環境が変わる、の時点で側妃様が僅かに顔をしかめたが、敵軍の士気を挫くという目的が達成できれば、兵という人的資源の損耗をほぼゼロにできる。

 であれば、大規模な整地が必要になったとて、その損失や費用の差は歴然。

 だからこそ、地形が変わる等は必要な被害だと判断したのだろう。


「ただ、その時はなるべく後に影響の出にくい手段を選定して頂けると助かりますわ」


 最後にそう締めくくった側妃様の表情は、僅かにだが引き攣っていた。

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