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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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ワケあり6人目⑳

「現在、タイラン侯爵領へ兵站を集める動きがありますわ。周囲に悟られない程度のゆっくりとした動きですけれど、その総量は国内の治安維持には些か大げさでしてよ」


「仮に自領から挙兵するとして、周囲の貴族からは白い目で見られそうですが」


 あまり貴族の領地や配置について詳しくはないが、確かタイラン侯爵の領地は肥沃な農地が多かったはず。

 広大な土地で、国内の小麦や野菜のおよそ4分の1を生産していたような……。


「その辺りはかの領地が周辺一帯の食料倉庫になっている事を逆手に取って、最低限中立を保たせた上で協力した貴族家には、王位簒奪後に良い地位を与えると触れ回っているようですわ。無論、やり取りは秘密裏に行われておりますけれど」


 懐柔して戦力にできる貴族家は取り込みつつ、協力的でなくても最低限邪魔はさせない、と。

 まあ、反乱を起こすとなれば良くある話だが、果たしてこれに乗っかる貴族家がどれほどいるか。


「眼の方で情報を掴んだのはいつ頃ですか?」


「2日前の夜ですわね。裏取りが終わったのが今朝でしてよ」


 となると、情報の伝達速度を考えるなら、動き自体があったのは大体1週間前後といった所だろう。

 事前の準備をどれだけしていたかによるが、周到に準備を進めていたとすれば、挙兵していても不思議ではないか。


「エスメラルダ、そっちでは何か掴んでないか?」


 我が家の暗部統括であるエスメラルダに目を向ければ、彼女は気品のある笑顔を浮かべる。


「そうですね。おおよそは側妃様から今しがた頂いた情報と大差はありません。ですが、挙兵時のタイラン侯爵の侵攻目標は一部判明しています」


「本当ですの? わたくしたち眼の総力を挙げても軍事情報はなかなか掴めませんのに」


 自分の率いる情報組織よりも先を行く情報があると聞けば、側妃様は驚きと疑いが混じったような表情でこちらを見てきた。

 うん、俺もびっくりしてるよ。

 確かに、国内の情報ではタイラン侯爵の周囲は特に念入りに調べるように指示は出したけども。


「我々には500年以上培った裏のやり方がありますので。とはいえ、知れた情報は小隊長に下知される程度のものですよ」


 内容を詳しく聞けば、まずは王都に隣接した流通拠点である、旧シヴィリアン公爵領を抑えて補給の大筋を絶つ事が目的だそうな。

 とはいえ、今は王家直轄の地であるため、意識を反らすために最初は王都周辺の街道を抑えるべく軍を動かすとの事。

 それで、注意が逸れた所に本命である旧シヴィリアン公爵領を攻める、というのが現状の筋書きらしい。


「動員兵力は総勢で10万、うち4万で王都周辺の街道を押さえて、残りの6万で旧公爵領を狙うようです」


 動員兵力が10万というのが、この国の軍部最大勢力であるその役割を物語っている。

 となれば、アーミル侯爵の方もそれに近い戦力を有しているが、今は国境警備に回っているので手が足りないというわけで。


「今、国側で動かせる戦力は王都にある兵力が2万、街道警備の兵が2万の計4万。うち街道警備の兵は各地に散っているのを集める必要がありますから、実質の総兵力は2万と5千もあれば上々、といった所でしょうか」


 次いで、国側の戦力を諳んじて見せたエスメラルダに、側妃様が目を見開く。

 ちなみに、俺は国軍の総数だとか動員可能兵力だとかは知りません。


「なるほど……裏でも有数の組織だったというのは事実ですわね。これほどまでの情報収集力、さすがに脱帽ですわ」


 感心したように、側妃様は一つ頷く。

 とはいえ、問題が解決したわけではないので、すぐに何かを考える表情に戻った。


「……そういえば、王都にアーミル侯爵の関係者はいますか?」


 ふと、俺は思い浮かぶものがあったので、まずは側妃様に問う。

 アーミル侯爵の領地の位置などは知らないのだが、仮に王都に家族がいた場合、人質として利用される可能性がある。

 それこそ、同程度の勢力であるアーミル侯爵からの横槍が、タイラン侯爵にとっては一番の懸念であるはず。

 それを鈍らせ、あるいは阻止するという意味では家族を人質に取るなどという行為は、普通にあり得るだろう。


「奥方は確か、数年前に他界していたはずですけれど、娘が王都で貴族学院に通っているはずですわ」


「でしたら、彼女を保護すべきです。タイラン侯爵側に身柄を押さえられた場合、アーミル侯爵が動きにくくなります」


 俺の提案を聞いて、側妃様は少しばかり思案する素振りを見せ、それから小さく頷くと、懐から小さな笛を取り出し、それを吹いた。

 音こそ鳴らなかったが、独特の魔力の揺らぎが発生し、それが眼の構成員を呼ぶものだろう、と思えば、すぐに執務室の扉がノックされる。


「入りなさいな」


 側妃様が入室許可を出すと、1人の男が中に入って来て、無言でソファに腰掛けている側妃様の側に跪く。

 服装は使用人のものだが、雰囲気が使用人のそれとは違う。

 顔や体つきは特に特徴の無い、どこにでもいるような、所謂モブ顔という感じ。


「すぐにアーミル侯爵の娘の居場所を特定して、保護するように。必要なら、私の名前を出して構いませんわ。保護できたら、ここに連れ来て下さいまし」


「承知いたしました」


 側妃様の指示を受けて、眼の構成員であろう男はすぐに出て行った。

 去っていく男の背中を見ていたが、身のこなしに全くと言っていいくらい無駄が無い。

 彼もまた、相当な使い手なのだろうな、と想像しつつ、意識を側妃様の方に戻す。


「少し待ちましょう。もし万が一にも、アーミル侯爵の娘が既に囚われていたのなら、すぐにでもあなたには動いてもらわなければなりませんわ」


 そう言って、側妃様は使用人を呼ぶ鈴を鳴らす。

 すぐにやってきた使用人に、人数分のお茶を用意するよう指示を出すと、ピシッと伸ばしていた背筋を少しばかり弛緩させた。


「……わたくしも少しばかり休みますわ」


 背もたれによりかかり、側妃様は目を閉じた。

 それから5分程度が経って、使用人が指示通りにお茶を給仕に来るまで、彼女はそのまま何も喋らず、動かない。

 お茶の給仕が来たタイミングで目を開き、再び姿勢をピシッとしたものにして、何事も無かったかのようにお茶を口に含む。

 給仕が終わったタイミングで使用人を下がらせ、お茶を飲んで喉を潤しながらお茶請けとして持ち込まれた焼き菓子を摘みつつ、俺たちは黙ってその時を待つ。

 やがて、お茶が給仕されてから10分くらいが経っただろうか。

 お茶が温くなった頃に、ノックの音が響く。

 俺たちの間に、僅かに緊張が走る。


「……入りなさいな」


 先ほどの特徴の無い男が早足でこちらへやってくると、ちらりと俺とエスメラルダへ視線を動かした。


「彼らは大丈夫ですわ。それよりも報告を」


「は。アーミル侯爵の娘は学院におらず、行方が掴めておりません。目下、捜索中です。とはいえ、まだタイラン侯爵の手の者に囚われたわけではありません」


 行方不明、か。

 まだタイラン侯爵の手には落ちていないとの事だが、果たしてどうなっているのやら。

 俺が捜索に出る事になるのか、はたまたまだ待機なのか。

 側妃様がどのような指示を出すのか、少し緊張しながら彼女が出す結論を待つのだった。

次回でワケあり6人目は終了の予定です。

ワケあり7人目に入る前に、一回幕間を挟む予定ですので、お楽しみに!

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