ワケあり6人目⑱
「まあ、俺の魔力がバカみたいに多いのは、慣れてくれとしか言いようがないな」
「それにしたって限度ってものがあるわよ……元々かなりの魔力だとは思っていたけれど、ここまでとは思わなかったわ。これが今日イチで驚いたわよ」
今までは、魔力がバカみたいに多い?
へーそうなんだ?
なんて感じの反応だったから、ここまで驚かれるのはちょっと新鮮な気分だ。
「これでもちょっと魔力足りないと思う事もあるくらいなんだけどな?」
「あなたで魔力が足りないなんて言ったら、世界中の魔術師が激怒するわよ……」
どうやら俺の認識がおかしいらしく、エスメラルダからはすっかりと呆れた表情で見られてしまう。
自分で思ってるよりも、かなり魔力量がバカだったらしい。
「今の所うちで出せるのはこれくらいだな……って、どうした?」
カウンター奥から商品を持ってきたブライアンさんが、俺とエスメラルダの様子がおかしいのに気付いたようで、首を傾げる。
とはいえ、わざわざ説明するような事でもないので、気にするな、と適当に流し、彼が持ってきた商品を確認していく。
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血珠のイヤリング
金と白魔銀の合金へ、血のように紅い宝石をあしらったイヤリング。
由来の知れぬ紅い血珠は、血に関するものに強く反応を示す。
血魔術に反応して効果を増幅する他、流血を感知すると装備者の能力を少し高める。
名も無き吸血鬼の職人による作とされるが、詳しい事は不明。
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防盾の指輪
白魔銀のベースに複数の黒曜石とダイヤモンドを埋め込んだ指輪。
強い守りの力を持つ。
不変の象徴たるダイヤモンドと、魔除けやお守りの象徴である黒曜石の相乗効果により、装備者の防御力を大きく高める。
また、魔力を籠める事により、物理・魔力共に防ぐ事のできる盾を生成する。
高名な職人により作られた指輪だが、その効力ゆえに多くの人の手を渡り歩いてきた。
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疫病の首飾り
斑模様の入り混じった、謎の宝玉をあしらった首飾り。
得体の知れぬ宝玉は、強力な魔力を発している。
毒などの状態異常を与える際に、その効力を大きく高める。
由来の知れぬ斑の宝玉は、あらゆる疫病を内包していると言われ、この首飾りを作った職人は、完成と同時に病によりこの世を去った。
職人が元より不治の病だったのか、斑の宝玉による病死だったのかは定かでない。
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「イヤリングと首飾りはこっちの姉ちゃんに、指輪の方は嬢ちゃんにだな」
「あら、これは相当いいものじゃない。冒険者ギルドにこんな逸品があるなんて、考えた事も無かったわ」
「でも、お高いのではないですか?」
ブライアンさんの持ってきた装備品を見て、エスメラルダとフリスさんのテンションが上がっている。
まあ、鑑定した時点でどうせ全部購入する事は確定事項なので、あとはアホみたいな値段でなければ問題無い。
手持ちは白金貨3枚分はあるし、これで足りなかったらさすがに諦めよう。
「さっきの短剣と合わせて、白金貨1枚ってとこだな」
「ほい、白金貨1枚な」
「へへ、まいどあり」
値段を聞いて、全然足りたなー、と思いながら、俺が即座に白金貨を支払ったのを見て、エスメラルダとフリスさんが目を見開く。
はて、そんなに驚くような事しただろうか?
「あなた……そんなに簡単に白金貨なんて出すものじゃないわよ?」
信じられない、という反応をしているエスメラルダだったが、俺とブライアンさんの間には既に信用があるし、実際に鑑定して品物にそれだけの価値がある事を把握している。
そんなに常識無いみたいな反応をされる云われは無いはずなんだけどなあ。
「別にぼったくられてるワケじゃないしな。ちゃんとその価値がある商品に、適正な値段を支払うのは当たり前だろ?」
「そうじゃなくて……そんなに大量の現金を持ち歩くなって言ってるのよ。ポンと白金貨を出したって事は、どうせまだ白金貨何枚か持ってるんでしょう?」
「そうだな。あと4枚あるぞ」
財布の中身を明かしてみれば、エスメラルダは大きく溜息を吐く。
俺、そんなに呆れるような事してなくない?
「貴族家なら、手形なりで清算できるでしょう。お金を持ち歩くなとは言わないけれど、持ち歩く金額は考えなさい。万が一落としたり盗まれたりしたらどうするの?」
「んなもんどうとでもなる。そもそも出掛けてる時は常に警戒して探知魔術使ってるし、仮にスリに盗まれたとしても、魔力の反応で追える」
「もうやだこの魔力バカ……」
俺がしっかり対策してますよ、と訴えれば、エスメラルダは先ほどよりも大きな溜息を吐き、がっくりと肩を落とす。
なるほど、俺が普段やってる事って魔力にものを言わせた非常識ムーブだったのね。
元々は貴族だったエスメラルダがそう言うとなれば、他の貴族なんかはそういう感じなのだろう。
「俺は即金で出してもらえて助かるがな。手形で清算でもいいが、引き換えの手間が面倒だ」
そんな俺たちのやり取りを見て、ブライアンさんがガハハと笑う。
買い物を終え、各々に装備を行き渡らせてから、エスメラルダとフリスさんの冒険者登録を済ませ、ギルドを後にした。
馬車に揺られて屋敷に帰る道すがら、ジト目でエスメラルダがこちらを見る。
「はあ……シャルロットにくれぐれもよろしく頼みますよ、って言われた理由がわかったわ。あなた、これまでよく無事でいられたわね」
「味方が優秀だからな。というか俺一人だったら、そもそも貴族になってないさ」
もうダメだこいつ、みたいな顔でエスメラルダが何かを呟いたが、声が小さくて聞き取る事ができなかった。
聞き返そうかとも思ったが、これ以上はこの件に触れない方がいい、と直感が囁いているので、俺は黙って窓の外へと視線を向ける。
窓の外から見える景色は、王都の住民がいつも通りに過ごす姿。
特に何も変わらない、ただの日常の1ページ。
貴族となった事で、この住民たちの何気ない風景を守る一端を担っている、と思うと、どこか感慨深いものがあるかもしれないな。
政治なんて面倒だと思ってたが、なかなかどうして、悪いものじゃないような気がしてくる。
「主様、私はいつまでもついていきます」
「ついてくるだけじゃなくて、間違えそうになったら正してくれよ。エスメラルダみたいにな」
甘えた雰囲気を出してくるフリスさんの頭を撫でると、彼女はご機嫌そうに目を細め、尻尾が乱舞し始めた。
一応、遠回しにエスメラルダにお礼を言ってみたのだが、ちらりと彼女の方を見てれば、俺とは反対側の窓を眺めている。
が、その横顔からは僅かに頬が赤くなっているのが見えたので、俺の遠回しなお礼は一応伝わっているらしい。
こうして、エスメラルダがリベルヤ家に仕えて1日目は終わりを告げるのだった。




