ワケあり6人目⑰
「よう、またしても新しい女を引き連れてきたな」
「毎回言ってるけど、優秀な人材を引き抜いたらたまたまだからな?」
午後の買い物は、例によってギルドショップのブライアンさんの元へとやってきた。
同行者は予定通り、エスメラルダとフリスさんである。
2人の装備は元よりいい物ではあるのだが、更新の余地があるのなら、命を守る事にも繋がるので投資は惜しまない、というわけだ。
「どうも、主様が懇意されているようで。本日はお世話になります」
ブライアンさんに、にこやかな挨拶をするフリスさんだが、今日は堂々と表を歩く事ができているからか、少しだけ上機嫌そうに見える。
そういえば、フリスさんの鑑定って、した事無かったよな。
ちょうどいい機会だし、諸々の装備選定にも役立つから、確認させてもらおうか。
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フリス
15歳
種族:狼獣人
身長:160センチ
体重:50キロ
状態:健康
生命力:35
精神力:20
持久力:35
体力:20
筋力:12
技術:66
信念:10
魔力:14
神秘:4
運:10
特殊技能
・気配察知
・虫人感知
・毒耐性
・暗殺術
・隠密術
・武器熟練:短剣・投擲物
・狼人格闘
・存在隠蔽
・情報操作
・変装術
・劇物精製
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強いとは思ってたけど、こうして数値化して見ると、フリスさんってめっちゃ強い。
特に技術の高さが目を引く。
それ以外に生命力や持久力といった能力がかなり高いので、潤沢なスタミナを使った高速戦闘が本来の持ち味なのだろう。
他には毒に耐性があったり、劇物精製という危ない特殊技能もあるが、影という特殊な仕事を考えれば納得といった所。
とりあえずは、短剣と投擲用の武器があればいいだろうか。
「とりあえず、2人の武器を見てもらって、それよりいい物があれば見せてほしい」
エスメラルダとフリスさんに、各々の武器をブライアンさんに渡してもらう。
彼は軽く武器を見分した後、それぞれ持ち主の手に返す。
「ちょっと在庫を見てくる」
言葉短く、ブライアンさんはカウンターの奥に消えて行った。
ただ待っているのも暇なので、ついでに2人のメインの得物でも鑑定してみようかね。
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ブラッドローズ
吸血鬼族の得意とする血魔術の触媒となるよう、特別に製作されたレイピア。
ブラッドローズの家名を関したこの武器は、持ち主の血を吸収する事でその輝きを増す。
血魔術の反動を大幅に抑え、効率を高める効果がある。
持ち主の血を吸収する事でその威力を高める他、その血を元に毒を生成して敵を苦しめる。
また、刃の特殊な加工により、小さな傷でも多くの出血を強いる。
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影の双短剣
黒塗りで光沢を消し、闇に紛れる事ができるよう製作された1対の大型短剣。
頑丈さと斬れ味を両立した武器であり、効率良くスピードを威力に変換する。
それぞれ違う長さの短剣は、消された光沢も相まって、相手の目測を誤らせやすい。
影は密かに主に付き従い、その身辺を警護するため、この短剣がそうであるように、徹底的にその存在を消す。
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「そっちの狼獣人? の嬢ちゃん向けの武器はあったが、もう1人のねーちゃんの武器は換えが効かなそうだ」
少ししてから、ブライアンさんが種類の違う2本の短剣を持って戻ってきたが、エスメラルダの武器よりもいいものは無かったらしい。
無骨な金属の鞘に納まった短剣だが、一体どのようなものだろうか。
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無限の短剣
投擲に向いた細い短剣の鞘に魔術処理を施したもの。
短剣の形状は空気抵抗を減らし、より早くより遠くに飛ぶように工夫されている。
鞘に施された魔術処理により、装備者の魔力を消費して無限に短剣を複製するので、魔力がある限り短剣を産み出して投擲する事が可能。
補充をせずに投擲用の短剣を使い続けられないか、というオーダーによって産み出された逸品だが、肝心の燃費があまり良くなく、最終的には失敗作の烙印を押されてしまった。
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見えざる刃
極限まで薄くした刃に、隠蔽の魔術処理を施した短剣。
短剣としてはかなり大型で、小剣に近く、隠蔽の魔術処理により、剣身は周囲に溶け込むようにその姿を変えるため、視認するのは極めて困難であるが、じっくりと見る事ができれば、空気中の独特の揺らぎが見える。
武器としては恐ろしく薄っぺらいが、技術のある者が使いこなせば万物を斬る最強の刃と化すだろう。
なお、その特性上、言うまでも無く防御に用いる事は不可能である。
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これまた随分とピーキーな物を……。
とりあえず、短剣だから両方ともフリスさんに持たせるか。
「フリスさん、これ使えそうか?」
ブライアンさんが持ってきた短剣を、とりあえずフリスさんに試してもらう。
短剣を鞘から抜いたり、軽く振ったりしてみてから、彼女は無限の短剣の方をカウンターに置いた。
「こっちは私の魔力では使い物になりませんね。5回使えればいい方でしょうか」
場合によっては牽制用の攻撃として多用する場面もあると考えると、5回使えない可能性があるのは微妙か。
確かに能力値で見てもフリスさんは術系統の適正が薄そうだったし、致し方ない。
「こっちの方は少し修練が必要ですが、使いこなせそうです」
逆に、見えざる刃の方はフリスさんの能力的にも合致しているようで、手応えは良さそうだ。
とりあえず、見えざる刃の方は購入かな。
「これ、尋常じゃない消費魔力ね……私でも20回使えるかどうか、かしら」
フリスさんがカウンターに置いた無限の短剣を手に取り、複製を試したエスメラルダが顔をしかめる。
彼女はそこそこ術方面に適正のある能力値だったが、それでも20回が限界という。
「どれ、俺も試してみるか」
そこまでのものか、と逆に興味が湧いたので、エスメラルダから無限の短剣を受け取り、複製を試してみる。
確かに、結構モリッと魔力を持っていかれるな。
とはいえ、俺のバカ魔力容量からすれば、そんなに消費したうちに入らない。
ひたすら全力で連続複製してたら、俺でも魔力が尽きるかもしれないが、戦闘の合間にちょこちょこ使うくらいなら、自然回復分で賄える程度だな。
「あなたは何でそれを使ってケロッとした顔をしてるのかしら……」
特に顔色一つ変えずに、ひたすら短剣を複製している俺を見て、エスメラルダが呆れた様子でこちらを見ている。
おかしいな。
俺、別段変な事はしてないんだが……いや、してたわ。
そもそもがバカ魔力容量すぎて、普通じゃないんだった。
多分、一般人やちょっとくらい魔力が多い人じゃあ、この無限の短剣は使えたものじゃない。
つまりはそういう事だ。
まあでも、考えようによっては、使い減りしない牽制手段として使えるわけだし、常に魔術が使える状況でもないという可能性を考慮するのなら、むしろ俺向きな武器かもしれないな。
「とりあえず、この短剣は2本とも買うよ。他にオススメがあったら見せてくれ」
「はいよ。そんじゃ、また少し待っててくれ」
再度、カウンター奥に引っ込んだブライアンさんを見送って、今回はどんな商品が出て来るのだろう、と期待しながら、俺はその時を待つのだった。
今回は実験的にスマホ更新をしてみました。
後で確認して、PC入力とズレたりする事があったら、よほど緊急でなければPC入力で更新します。




