ワケあり6人目⑯
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徐々にランクアップしていて、更新モチベが上がっている作者です。
いつもならナイトレインしてるんですが、今日は先に更新をします!
「で、この格好は何かしら?」
エスメラルダたち血染めの月をリベルヤ家に迎えての翌日。
朝食を終えて執務に取り掛かろうか、と俺が席についた時だった。
シャルが昨日の暗殺者装束から着替えたエスメラルダを連れてきたのだが、その恰好が完全にタイトスカートのスーツ姿だ。
何なら伊達眼鏡までかけていて、雰囲気は敏腕女性秘書、といった出で立ちである。
髪型もお団子に纏めていて、ますますテンプレ秘書官に見えてしまう。
「今日からエスメラルダさんにはハイトさんの側付きを務めてもらいたいと思います。ご存じの通り、色々と無茶をする方ですし、王族や貴族との折衝も多いので、護衛も加味すればあなたが最適なんですよ」
「ああ……何となく想像が付くわ」
シャルからの信頼が絶妙に無い件について。
いや、自分が悪いのはわかってるけどね。
でもしょうがないじゃんよ。
俺が望む望まないに関わらず、無理無茶難題が向こうから交通事故の如く絡んでくるんだからさ。
むしろ今まで命を落とさずに人的被害無しで切り抜けてきた俺の事を褒めてくれてもいい気さえするぞ。
「そういうわけで、今日はハイトさんに付いて普段の仕事や動きを把握して頂ければと思います。執務の補助は様子を見ながらお願いしますので」
「わかったわ」
話が纏まった所で、俺とシャルがいつも通りに執務に入る。
11時くらいまでは執務室で書類仕事を中心に仕事を進め、それから昼まではカナエたちの訓練に混じって汗を流す。
ここでエスメラルダとカナエ、ジェーンの模擬戦が行われたが、やはり正面きっての戦闘は2人に比べると少し劣る部分があるようで、かなり善戦したものの、エスメラルダが負けてしまった。
とはいえ、ガチのタイマン勝負に強い2人にここまで食い下がれるのは凄いと思う。
直接の戦闘能力では、カナエとジェーンがツートップだからなあ。
「ハァ……ハァ……なんで1子爵がこんな化け物みたいな戦力を保有しているのよ……使用人1人1人が最低でもB級冒険者クラスって、絶対におかしいわ……」
俺と一緒に昼飯まで1時間ほどの訓練を終えたエスメラルダは、息を荒げてこそいるものの、弱音を一切吐かずに乗り切った。
ちなみに、他に訓練に参加している使用人や警備兵の皆さんは、多少の呼吸の乱れこそあるものの、皆ケロッとした顔をしている。
慣れって怖いね。
「ま、毎日やってりゃ嫌でも慣れるさ」
「素人から始めてる使用人たちも、よく音を上げないわね……」
顔の汗を手の甲で拭いつつ、呼吸を整えながら周囲の使用人たちを見るエスメラルダは、驚愕の表情を隠しもしない。
まあ、これに関しては俺が使用人全員に自衛手段を仕込むよう、カナエとジェーンにオーダーしたのがそもそもの始まりなんだが、これは気合の入りまくった2人がやりすぎた結果である。
とはいえ、今さら内容を変えられなくなってしまったし、この訓練込みで使用人たちには高い給金を出しているので、意外と現場満足度は高かったりするんだよな。
平民や貧民街出身者でもやる気さえあれば採用するし、頑張れば誰にでも昇給があるので、使用人たちもやる気に満ち溢れていたりする。
ある程度、ここまでできたらいくら昇給、っていう基準も明確にしているし、実は口コミで平民以下の人たちからは、うちが人気の職場になっているとかいないとか(シャル談)。
「不思議と、こんなんでも採用希望者は増える一方なんだよなあ。もともとは王家から人員を借りて運営してたけど、今や休日のローテーションを余裕を持って組めるようになったし」
「それよ。週に2日は休みで、1日の勤務時間も最大で8時間まで、それでいて高い給金が出るなんて、普通はあり得ないわ」
昼食を摂るために食堂へ移動しながら、うちの雇用形態について、エスメラルダと話す。
これに関しては、前世の雇用制度をなるべく踏襲しているのだが、これについては俺が過去に過労ブラック企業に勤めていた時に、とても辛い思いをしたからだ。
ブラック労働、滅ぶべし。
そんなわけで、各地の諜報員を統括するエスメラルダにも、週休2日制度を導入して各地の人員を回すように指示を出したのである。
「ま、高い給金を出すだけの収益があるからな。あ、そうそう。午後からは買い物に行くからな」
「普通、貴族家の当主が昼間から買い物にほっつき歩くなんて、そうないわよ? まあ、シャルロットの仕事ぶりを見れば、あなたが時間の余裕を持ってるのはわかるけどね」
「書類回りはかなりシャルに助けられてる事は否定しない。けど、見やすい書類の形式を作ったりとか、その辺は俺もうやってるからな?」
これは前世のエクセルなんかの知識を流用して、書式の見直しとかを行って、より省エネで書類仕事を片付けられるようにしたのだが、これが提出先の王城の文官や側妃様に大きく評価された。
それでいくつか書類の形式が俺の考案したものとして採用された事による臨時ボーナスが出たりとかしたしね。
「私、今日だけで数年分は驚いたわ。ご飯もすごく美味しいし」
仕事の話をしながら昼食を終えると、エスメラルダは満足気な表情で上機嫌そうだ。
食事については、食の国日本生まれの知識でもって、あれこれ料理界の革命を起こしたりしたが、外部に漏れると面倒になるのがわかりきっているので、今は屋敷外には漏らさないようにしている。
使用人の皆さんにも外部に飯については漏らさないようにしてもらっているのだが、機を見て広めてはいこうと思う。
今はそこまで手を伸ばすと首が回らないからしょうがないね。
「最初はどんな仕打ちを受けるかと気が気じゃなかったけれど、今はあなたの元に降って良かったと思えるわ」
「そいつは何よりだ。ああそうだ。もし、エスメラルダの方で雇いたい人員がいたら、必ず申請を上げてくれよ? 給料未払いとか、したくないからな」
雇用については自由裁量でいいよ、と言った瞬間、エスメラルダは怪訝な表情に。
「私が自由に人を雇うとして、仮に連続殺人の極悪人を連れて来たらどうするつもり?」
「その辺りはキッチリと調教してもらうしかないな。さすがにうちの人員が殺人事件を起こしたとなれば事だし。まあ、そこは信頼してるよ。エスメラルダなら意味も無く極悪人を連れて来たりしないって」
「……あなた、それでよく今まで寝首を掻かれなかったわね」
雇って1日の人間を簡単に信用なんてするんじゃない、とばかりにエスメラルダからジト目で見られるも、そこは俺の感覚の話だからどうしようもないんだよな。
何となくだけど、信用していい人間かそうでないかって直感的にわかっちゃうし。
「優秀な味方がいるからな」
そういう直感に関しては、俺よりも鋭いのが2人いるし、シャルもかなり鋭い部類だ。
何より、俺自身も今までこの勘が外れた事が無いので、この部分に関しては全幅の信頼を置いている。
「はあ……本当に大物よ、あなた」
「褒めてくれた事にしておくよ」
絶対に皮肉だというのはわかっているけど、こうして皮肉を言ってくる、という事はだ。
エスメラルダ自身も、意外と俺たちに気を許してくれているのだと思う。
ちょっとだけほっこりした気分になりながら、午後から出掛けるための準備を進めていくのだった。




