ワケあり6人目⑫
気付けば、ファンタジー部門の日間ランキングの端っこの方ですが、ランクインしておりました。
いつの間にかの出来事だったので、作者は見た瞬間に目を白黒させておりました。
皆さんの応援あっての結果ですので、それだけ多くの人の目に留まった、という事でもります。
見ていただいた方の全てを満足させるのは難しいとは思いますが、より多くの方に満足して頂けるよう精進してまいりますので、これからも変わらぬ応援を頂ければ嬉しいです。
『やれやれ……ようやくか』
シャルにプロポーズをして、受け入れてもらった翌日。
王家には早めにお伺いを立てようと、先触れを出してから王城へと登城してみれば。
通信の魔道具で繋げられた先の陛下は、呆れた表情である。
「えっと……そんなにわかりやすかったでしょうか?」
俺はそんな素振りを陛下の前で見せたつもりは無かったんだけどな。
まあ、眼を率いている側妃様は気付いていたかもしれないけども。
『シャルロット嬢はあの日、既にお前にオチておったからな。完全に添い遂げる相手を決めた、覚悟の決まった貴族の女の顔をしておったよ。あの時はハイトに依存しきってしまうかとも思っていたが、しっかりと立ち直っておるようであるし、落ち着く場所に落ち着いて一安心だな』
どうやら陛下にバレていたのは俺の態度ではなく、シャルの方だったらしい。
陛下からの種明かしに、シャルは俺の隣で顔を真っ赤にし、両手で顔を覆って俯いてしまう。
「もう、お嫁に行けません……」
「落ち着けシャル。もう俺が嫁に貰うから」
気が動転してしまったのだろう。
もう俺が嫁に貰う事が決定しているというのに、嫁にいけないという発言を聞いて、俺は真顔でツッコミを入れてしまった。
『乳繰り合うのは屋敷に戻ってからにするようにな』
「こんな場所でしませんよ!」
このバカップルが、と言いたげな映像越しの陛下に向けて、心外だと抗議をしておく。
ちなみに、映像の端っこの方ではニヤついた表情の皇帝と、興味深そうな様子でこちらを伺う連合国代表が見える。
まあ、わざわざ子爵家如きが王家に結婚のお伺いを立てるなど、本来はそうある話じゃない。
下位貴族同士の結婚は、事後承諾であったり、報告のみで済ます場合が殆どだからだ。
「しかし、そうなると悩む所ですわね。元とはいえ公爵令嬢と婚約するのでしたら、リベルヤ子爵の爵位を上げる事も考えた方がいいのでは?」
半分くらいはじゃれ合いである俺と陛下のやり取りを見てから、側妃様はおとがいに手を当てて思案顔で言う。
今でこそ奴隷に落ちているとはいえ、シャルロットは公爵令嬢であり、身分で言えば圧倒的に子爵家である俺の方が下だ。
釣り合いを取るのなら、最低でも伯爵。
可能なら侯爵くらいの地位は必要だろうか。
『余もそれは考えたが、今はシャルロット嬢が立場的に奴隷であるゆえ、今のままで問題無かろう。結局、シヴィリアン公爵家は取り潰されたままであるしな。何かと理由を付けて、ハイトを昇爵させる事もできなくはないが、古い貴族からは良く思われまい。いかに無能な貴族は必要無いとはいえ、さすがに短期間で貴族を減らしすぎると国の運営が立ち行かぬ』
陛下の判断としては、俺の立場は今のままで、婚約発表そのものはすぐに公表。
結婚式は俺とシャルが成人したタイミングで行う、との事。
俺としても特に異論は無いので、まだ真っ赤になって俯いているシャルに代わって一つ頷く。
「そうですわね。わたくしもこうして政務に積極的に励まねばならない程度には、政務も滞っておりますものね」
自分が政務をやらされている、という側妃様の嫌味っぽい言葉に、陛下はばつの悪そうな顔になるものの、自分の判断を撤回するつもりは無いようだ。
護衛として傍らに控えつつも、存在感が空気になっている王妃様も、無言で頷いている辺り、3人の意思統一は済んでいるらしい。
『というわけだ。王家の方でお前の婚約は即日にでも発表させてもらう。新興貴族ではあるが、無理に貴族と結婚をしないといけないわけでもない。むしろ、自分の娘をハイトに嫁がせようと画策していた連中には、いい牽制になるであろうな。現に、既に聡い貴族からはお前に向けた縁談が王家に打診されておった。シャルロット嬢の想いに気付いておったので、余の方で握りつぶしておいたがな』
縁談が来てたって?
それは初耳だ。
いつの間にか再起動していたシャルの方に目線をやれば、小さく首を振っている辺り、彼女の方でも把握できていなかったらしい。
「あくまで極秘裏に、ですわ。打診であって、捻じ込むようなものでもありませんでしたもの。例えば……」
続きを側妃様が引き取り、いくつか今回の縁談の件に絡む貴族家の家名を口にしたが、俺に覚えのある家は無かった。
貴族家の当主としての貴族付き合いがイマイチな俺からすれば、今回の件はもっと貴族付き合いに力を入れろという、いい機会なのかもしれない。
『さて、そろそろ切るぞ。横のやつが鬱陶しいのでな』
特に言葉を発さずとも、ずっとニヤついて様子を見ていた皇帝を横目に見て、陛下は邪魔者を見るような目で彼を睨んでから、一方的に通信を切る。
もしかすると、今頃は教国の方で皇帝にダル絡みをされているのかもしれない。
ある意味で、国付き合いの一端ではあるだろうけど。
個人的に陛下は皇帝が苦手、もしくは嫌っているような素振りも見た記憶があるので、喧嘩して帝国と戦争、なんて流れにはなってほしくないとは思う。
まあ、陛下ならそんな短絡的な事はしないだろう、という信頼があるので一切の心配はしていないが。
「あとはこちらで引き受けますわ。あなた方はこれから先の準備を進めておきなさいな」
執務机の書類を見て、側妃様は少しだけ嫌な顔をしたものの、仕事に戻るから帰れと、俺たちに変えるよう話題を投げる。
俺とシャルはお互いに顔を見合わせてから、小さく頷く。
「それでは、お言葉に甘えて。血染めの月の奴隷契約の件については、立合いなど必要ありませんか?」
「報告書だけで構いませんわ。確か2~3日かかるのでしたわね?」
「はい。術式が完成次第、屋敷の方に来るはずです」
「かしこまりましたわ。それでは、ごきげんよう」
側妃様のいる執務室を辞して、文官の案内で馬車へと戻り、屋敷に向けて移動していく。
ガタゴトと馬車に揺られつつ、シャルと向かい合う。
「良かったな、シャル。陛下たちから反対されなくて」
「一応、勝算はあるつもりでしたけど……いざその場になったら緊張してしまいました」
とりあえずは婚約という形ではあるものの、俺とシャルの結婚を反対される事も無く、何なら面倒は王家側で引き受けてくれるという。
俺たちとしては願ったり叶ったりであるが、あまり王家側に貸しを作るのも怖かったりする所ではある。
「今回の件で王家が縁談の打診を握り潰してくれたのも、偏にハイトさんが貢献したからですよ。ハイトさんにはあまり実感が無さそうですが、それだけの事をしているのです」
「そっか……まあ、頑張りが認められてる、って事でいいのかな」
どうやらシャル曰く、俺の功績は王家側からすれば便宜を図るのは当たり前、というくらいには功績を積み上げているらしい。
俺は早々に貴族としての教育からは一線を引いていたので、その辺りの肌感覚はわからないんだよな。
公爵家令嬢としての教育を受けている彼女の方が、その辺りの肌感覚は間違い無いだろう。
「ところでハイトさん、側妻は何人ほど取るご予定でしょうか?」
無事婚約が認められて良かった良かった、と安心していた所に、シャルから爆弾を投げ込まれた。
側妻を何人取るって?
俺、今の所はシャル一筋なんですが……。
「シャル? 言っている意味がよくわからないんだが……」
「はぁ……ハイトさん、この大陸での貴族の力の一端として、複数の妻を持つ事、多くの子を持つ事が一つの指標になるのはご存じですよね?」
シャルがやれやれ、といった様相で俺に問いかけてくる。
より多くの妻とより多くの子を持ち、優秀な能力を持つ子を多く輩出し、国の発展に寄与するのが貴族の務めの一つ。
知識としては知ってはいたが、あまり現実味が無かったんだよなあ。
「ハイトさんが私の夫となる以上、より多くの妻を娶り、より多くの優秀な子を残すという貴族の義務は、どこの家よりも積極的に取り組んでいただかないと」
「えっと、シャルとだけじゃダメか?」
少し遠回しにシャル一筋ですよー、とアピールをしてみれば、嬉しさ半分、残念さ半分、といった感じでこちらを見てくる。
「私を強く愛して下さるのは嬉しいですが、1人の妻との間にできる子では、才能の多様性が生まれにくいですから。ハイトさんの多才さを考えれば、普通の家よりは多様性は生まれるでしょうが、ハイトさんはそんな所で妥協していい人材ではありません。むしろ、ハイトさんという優秀な血筋を多く残せないのは、この世界の損失ですらあります!」
意気込んで力説するシャルロットの熱量に、俺は引き攣った笑みを浮かべるしかない。
「はは、善処シマス……」
おかしいな。
俺の人生設計では、シャルを溺愛して、子供は2~3人くらいできればいいかなあ、なんてぼんやりと考えていたのだけれど。
どうしてこうなった。
俺に向かって、凄まじい熱量で血筋を多く残す事の重要性を説くシャルを見て、俺は静かに天を仰いだ。
なお、話に集中しなさいと怒られたのは、言うまでもない。
2行でわかる今回のお話。
王家に結婚したいとお伺いを立ててOK出ました。
最強のハーレムを作れと嫁に迫られました。
価値観がほぼ日本人なハイトくんは、内心で頭を抱えたのでした。




