ワケあり6人目①
いつも誤字報告ありがとうございます!
報告のあった箇所は修正いたしました!
自分では確認したはずでも結構気付いてない所があるので助かってます!
本当は誤字なんてない文章をお届けしたいんですけどね……。
今後とも精進していきます!
「んぅっ……今日はこの辺りにしておきましょうか」
側妃様への報告を終えてから屋敷に戻り、不在だった事で溜まっていた書類仕事を執務室で片付けていると、一緒に事務仕事をしていたシャルロットが、妙に色っぽい吐息を漏らしながら伸びをして、今日はそろそろ終わりにしよう、と声をかけてきたので、それに釣られて窓を見れば、すっかり外は夜の帳が下りていた。
いかん、どうやら集中して時間を忘れていたらしいな。
「なあ、シャルロット、話があるんだが」
「はい、何でしょう?」
自分の使っていた場所を片付けていたシャルロットは、俺が話があると声をかければ、手を止めてこちらを見る。
何かを疑う事の無い、純粋な疑問の表情の彼女を見て、これからする話の内容が、若干ながら申し訳なく思う。
が、贅沢を言っていられるような状況でもないので、心を鬼にして彼女と向き合った。
「一時的にだが、王城に避難してくれないか?」
詳細はこれから話すにしても、シャルロットに避難してもらいたい、というのが主題であるため、それを伝えてみた所、シャルロットは少し考える素振りをしてから、ニッコリと笑みを浮かべる。
傍から見ればとても素敵な笑顔なのだが、その背後には圧のあるオーラが沸き上がっているように感じるのは、きっと気のせいではないだろう。
「ハイトさん、一度しか言いませんよ。確かに私は荒事に向いていませんが、だからと言って除け者にされるのは心外です。ええ、心外ですとも」
「すまん、悪いとは思ってる。でも、今回に関しては君を守り切れる自信が無い」
血染めの月はほぼ間違い無く、誰かを気にしながら対応できるような相手じゃない。
俺、カナエ、ジェーン、フリスさん、オルフェさんの5人くらいが対応できる範囲だろう。
屋敷の使用人たちは俺の意向もあって、カナエたちが鍛えてくれているが、さすがに本職の暗殺者相手に戦えるほどではないだろうし。
なので、いっその事シャルロットを始めとした非戦闘員たちは一時的に王城に避難させて、少数精鋭で血染めの月を迎え撃つのがいいだろうと思うわけで。
「……とりあえず、話を聞きましょうか。まずはそれからです」
そう言って、呆れた表情を浮かべつつも、シャルロットは腰を下ろす。
自分を納得させられるものならさせてみろ、と言わんばかりである。
そんな彼女を納得させられるのか、と不安を感じつつも、俺が教国で血染めの月の標的になった事、まず間違いなく襲って来るであろう事、その実力のほどを懇々と語った。
「……ハイトさんの言い分は理解しました。が、敢えて言いましょう。私の事を見くびらないで下さい」
その瞳に強い意志を宿し、一歩も退かぬとばかりにシャルロットがこちらを見返す。
もはや梃子でも退かないだろうな、と考えずともわかる程度には覚悟のキマった顔だ。
「直接戦闘で貢献できずとも、他の方法でいくらでも貢献できます。忘れているかはわかりませんが、私は元公爵家の人間ですよ?」
確かな自信を感じさせるその態度に、俺は一抹の不安を覚えた。
もし何かあったら……それこそ命を落としてしまったら、もう取り返しは付かないというのに。
「じゃあ聞くけど、少数精鋭で迎え撃つ以外に何か策があるのか?」
極力犠牲者は減らしたい。
多くは奴隷とはいえ、せっかく俺のような子供に仕えてくれているんだ。
そんな得難い人材をみすみす死なせたくはないからな。
「情報部門担当として囲い込みましょう。ちょうど、そっち方面の人材が全くと言っていいくらい足りていませんし」
俺の心情を知ってか知らずか、シャルロットの口からとんでもない言葉が飛び出した。
血染めの月を囲い込むだって?
HAHAHA、寝言は寝てから言ってくれよ。
「恐らく、最初は部下を使ってこちらに探りを入れてくるでしょう。うちの使用人の勤務状況や来客予定、業者対応など、私は全てを把握していますから、予定に無い事があればすぐにわかりますし、そうなったら怪しい人物は捕縛してしまえば、情報が血染めの月に漏れる事もありませんし、殺さずに捕らえておけば、相手も交渉のテーブルに付いてくれるかもしれません」
相変わらず、規格外の記憶力というかなんというか。
ある意味、彼女でないと不可能な作戦立案ではある。
とはいえ、あまりに荒唐無稽が過ぎるし、そもそも一般人かそうでないかをどうやって見分けるんだという話で。
「……本気か?」
思わず、そう問い返してしまったのは、今からでも大人しく避難してくれないかなー、という希望的観測も大いに含まれているのだが……。
「私、あまり冗談は好みませんけど?」
再び、圧のある笑みでこちらを見つめてくるシャルロット。
あ、ダメだこれ。
よっぽど彼女が納得できるような代案が出せないと、絶対に退かない構えだ。
時間をかけて考えれば、何かしらの代案も出せるかもしれないけど、そもそもそこまでの時間があるかは不明だし、俺がもしも暗殺者側であれば、何かしらの対抗策を相手が講じる前に仕留めてしまおうとする。
俺でさえそう考えるという事は、まず間違い無く相手はそう来るというわけで……。
「この際ですから、ハイトさんにはもっと私の実力を知ってもらいたいですね。これでも私、結構有能なんですよ?」
そう言って、とびっきりの笑顔(圧力付き)を浮かべるシャルロットに、俺は無言で降参せざるを得なかった。
ダメだこの娘、強かすぎるよ……。
俺じゃ言いくるめるのは不可能だ……。
「私に、任せてもらえますね?」
「はい……」
こうして、俺はシャルロットの圧力に屈さざるを得ず。
嫁さんの尻に敷かれる旦那というのは、こういう感じなんだろうか?
そんな身も蓋もない事を考えて、俺は瞠目したのだった。




